回避と愛の境界線

 私のおとぎ話には、高貴な王女様が醜い王子様に救われる話も、人生に反撃する話もなかった。唯一存在するのは、愛してくれる魔王に無尽に殺される話だけだ。



 その春、私は夢の王子様に出会った。彼は剣のような鋭い性格も、宝石のような贅沢な気質も持っていない、ごく普通の少年だったが、なぜか心の平和な水面に波紋を立てた。私を救うのは必ず彼であるわけではないが、彼は粗野なパフォーマンスで魔王の承認を得たわけで、チャンスを与えられただけだ。


 「親愛なる王女様、貴方は王子が貴方を救うに値しません」



 あの夏、私を城から連れ出した王子様は平凡に見えたが、なぜか空気中に漂う甘い匂いを今でも覚えている。曖昧な雰囲気に戸惑い、思わずそんな嫌な言葉を発してしまった。


 「親愛なる王子様、あたしは誰よりも貴方の光を知り、誰よりも貴方のことを愛していることをご存知でしょうか」



 悲哀な秋、満天の星が立ち込める湖畔には、お互いへの愛の結晶が映し出されている。それは純粋で真っ白だったが、少し汚点が伴う水面だった。その夜は長く、彼への思念が終わっても輝く光が差しっこないほど長かった。


 「親愛なる王子様、貴方を誰でも比類できないほど愛しているのに、なぜか貴方の勇ましい姿から離れたくなりました」



 あの日からずっと考えていた。大きな安心感を与えてくれることができる彼が、なぜか私に怯えさせたのか。なぜ自分の気持ちを余裕なし露わにしても、心の中には無形の圧があるように苦しいだろうか。



 無雪の冬、城にいる王女は壁一つ隔てた隣城の王子に話しかけた。しかし、気持ちどころか、声さえ届かなかった。その後、王女が話すたびに、壁は厚くなり、二度と王子に会うことができないほど厚くなっていった。


 「なぜ私を救ってくれないの?なぜ私に近づけてくれるの?なぜ…なぜ私にそんなに多くの愛をくれたの…もう耐えられないよ。君とずっと一緒にいたいのに、なぜ…私はこのように…恐れているの」などの憂いの音符が「回避」という楽譜を構成した。



 王子の招待に応えた王女は、春めいたの湖畔に散歩し、彼らの記憶の足跡を辿った。

 「親愛なる王女様、なぜ私に距離を置いているでしょうか」

 「なぜなら、あたしはすでに孤独というものを慣れてしまいましたからだよ、親愛なる王子様」

 「なぜ私の手紙にわざと返信しなかったでしょうか」

 「なぜなら、他人が本当にあたしを気にかけ、あたしのニーズを満たしてくれるとはすでに信じられないからです。」

 「なぜ私への愛をもう表現しないのでしょうか」

 「なぜなら、それらの表現は、あたしが弱者で、助けを必要としているように見えるからです」


 「では、なぜ君は目覚めたくないのでしょうか」


 まるで静かな湖に落ちる水滴のように、澄んだ音が王女の思考を中断した。城にいる孤独な王女が目を覚め、涙に浸透された枕を置き去り、直ぐ湖畔に向かってきた。目に入ったのは剣の端を持つ王子とその向こうにいる自分の様子を持っている魔王の姿だけだった。愛しすぎて手を放すことを拒んだ王子の手のひらは剣で切り裂かれ、真っ赤な血が流れていた。


 「親愛なる王女様よ、貴方は王子が貴方を救うに値しない」


 「わかるよ。この前、私は彼がくれた愛に対して、どう平等に愛を捧げるべきかずっと悩んでいて、回避していた。彼の心に傷つけた私が罪人だ。でも、今まで気づいたことがある。それは、ずっと回避すると、あなたのような考え方を甘やかし、無謀な行動を続けるだけだということだ。だから、今回は回避するのではなく、問題を直面しようと思った。」



 自分の内なる葛藤と向き合った王女は、「矛盾」という魔王を退けた。彼女は地面に落ちた剣を拾い上げ、心臓の位置に向けた。愛によって、相手の感情を窒息させる罪悪感が王女の心を満たした。


 愛は終始一つの境界線であるはずだと分かった彼女が、「君をとても愛しているけど、どうすることもできない。しかし、それでも、私が与えた愛に対して、君の許しを請います」と言った瞬間、赤い結晶が空に舞い上がり、回避の愛と物語に○をつけた。




 私は今でも覚えている。王子様の口から弾いた最後の音符は「君を…もう一度逢いたい」っていう。




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