第8話 地獄

俺は昔から特殊だった。


最上霧矢という、俺という人物は、昔から誰かとも違った気がした。


俺には誰にも見えない物が見えていた。

それは、黒い肌をして、白い目にスーツ姿を着て、大鎌を持った人物のような人のような怪物に近い物。


俺はその正体がなんだか知っているそれは…

死神だ。


「こんばんは。」

俺以外に、基本、誰も居ない、病室。

目の前には足元のはっきりとした形の作られていない怪物。


背中には鎌を持っている。


そいつは、キョロキョロと、あたりを見回すと、自身を指さした。


「そう。お前。」


すると、黒い肌のその化け物は少しだけ微笑した。

「私が見えるのですか?」

はっきりと、そう言う。


「ああ。俺は昔から死神のことが見えてね。」


「死神…それは、あなた方人間の言葉ですね。」


「ああ。まあ、同じようなもんでしょ?あなたたち、死期なんですから。」


俺は昔から、死期が見えていた。

そいつが見えると、その近くにいる人は近ごろ死ぬ。


「私のことは嫌いじゃないのではないのですか?」


「え?まあ、わかっていたことだし…いつか近直死ぬなってのはなんとなくわかってたし…」


「そうなのですか?何故?」


俺は布団の上で、一息深く呼吸をする。


「俺は、昔からちょっとした病気で。」


「病気…ですか?」


「まあな。その所為で、いっつも何かと苦しんでるんだ。まあ、これでおさらばって感じだけど…」


死神は、顎を2本の指でなぞりながら、話を聞いていた。

まるで関心…という風な表情をしているその死神。


「そういえば、俺の寿命ってあとどれくらいか分かるか?」


「寿命ですか?それはちょっと…」

死神は苦笑いすると指をクロスして、バツを作った。


まあ、無理な話か…


「そう言えば、俺以外に見えたって言ってた人間て居る?」


「あなた以外に…?うーん…」

するとその死神は腕を組んで考え込んだ。


たまに頭を掻いたりして、死神は考え込んでいた。

俺は答えが出るのを待っていたが、ようやく、返答が返ってくる。


「多分無いですね…この方、生まれてから500年は死神やっていますけど、今までに見たことは無いですね。そういう風な話も聞かないし…あなたが初めてなのでは?」


「ふーん…そうか…」


俺は、一度、ベットに体重を預ける。

もう入院してから2ヶ月。もうすぐでリハビリも終わると聞いたし…

「もうちょっと生きてみてもよかったのになー…」


まあ、この病気になってから、医者に「覚悟してください」と言われた時からすでにわかってはいたけど…


「俺ってつくずく不運だな…」


「そうでしょうか…?もうすぐ死期が近いのなら、今やっておくべきことを、やっておけば良いのでは無いでしょうか?」


「え?やっておくべきこと?」


「例えば…ほら、遺書を書くとか…でしょうか?若いまま死んでしまうのでは、遺書を残せる人はそうそう居ないのでは?」


「そう…だな…そうだな!!!書くか!!!遺書!!」


そう思い付いた俺は止まらない。

紙とペンを用意し、俺はその用意した紙にインクを走らせた。



__________________________________________________



「よし…これでヒーローたちは呼んだ…あとは待つだけだ…」


ベリアルが持っていたスマホをその場に投げつける。


もう不必要という意味なのだろうか、それとも、戦闘に邪魔になる…ということなのだろうか…


どっちでも良い。

そんなことはどっちでも良いんだ…


今日も曇り空の起眞市の街。

ビル群の真ん中に俺とカントウとベリアルは立っていた。


車通りの多かったこの場所はあっという間に火に包まれており、この全ての元凶が俺たち、RIだ。


そこら中には道端に倒れた人たち。


別に死んだわけではない。

気絶しているだけ。


ヒーローを呼び込むための大事な餌だ。


「RIとしてちゃんと名前を使ったら、本当にシャイニーが来るの…?」


「ああ。確実に来る。RIの名前は非公開にされている。だからこそ、その名前を知っているのは、RIという道の組織の関係者という憶測ができるわけだ。本人たちじゃなくても、その関係者とならば、秩序保安委員会の奴らは、飛んでかかって来るさ。」


自信満々に俺は解説するが、でも、関係者だからと言って、それが本当にシャイニーが来るとも絶対とはどうしても言えない…


でも、その時は…


「殺すだけだ…」


「なんか言ったか…?」

ベリアルが、俺の顔を見ながら聞くが、俺は、「いや、なんでもない。」と誤魔化した。


と、すると、空に何かの勢いよく放たれる何かの音が響き渡る。

爆発に近いようで少し遠いような、火を吐くような音。


「どうやら、来たみたいだな…」


空から飛んできたのは、マントを身に包み、そして緑色のゴーグルと、金属のパワードスーツを着込んだ男だった。


「しゃ、シャイニー!!!!!!!!」


ベリアルの頭が一気に赤くなる。

当然だ。

最愛の人を殺されて、冷静になれない奴がどこにいる。


そして、冷静になれないのは、俺も同じだった。

「シャイニー…!!!!!!」


「現れたか!!!!!」


「いや〜暑いね〜君たちの熱がひしひしと伝わってくるよ〜で?それで、俺を殺すつもり?やめておいた方が良いよ。お前…弱いんでしょ?」


「それは…始まらねぇとわからねぇな!!!!!!!」

ベリアルは右手をカマキリのような形に変形させると、足にエネルギーを溜めて、一気に爆発させるように解放する。


閃光のように迸るベリアルは切断こそは出来なかったが、シャイニーを空中へと吹っ飛ばした。


「おおっと!!!」


だが、それでも余裕そうに、空中で浮いている。


「何!?」


「まあまあ。あのガキよりはまだマシだな。」


「テメェ!!!!!!!!」


するとベリアルが、鎌を縦に回しながら空中へと飛び出し、そしてその回転力で、ベリアルを地面へとはたき落とす。


ベリアルは、足を地面に刺して、伸ばした足を縮ませて地面へと着地。

横に鎌を振り、シャイニーを切り裂こうと刃を走らせた。


「まあまあだね。」


しかし、シャイニーはベリアルの鎌を腕を使って止めた。

ノールックで防いだベリアルの攻撃。

その衝撃が地面に伝わり、コンクリートにヒビが入った。


「な…!!!く、クソが!!!!!!」


ベリアルは、そこから何回も鎌をぶつけるが、全て腕で受け止められる。


「最近の怪獣とか怪人も、レベルは上がったけど…まだ俺に届くほどじゃないな…」


「クソ!!!!!クソ!!!!!!!!」


そして、シャイニーは腕でベリアルの腕から生えた鎌を受け止めると、それを弾き返し、防御も何も無いガラ空きの腹に拳を叩き込む。


「ぐはぁ!!!!!!!!!」


拳を叩き込まれたベリアルは、少しだけ吹っ飛ばされると、膝を地面に突いた。


「お、お前…!!!!!!」


「どうした?もう立てないか?」


そう言いながらシャイニーは、ベリアルに近ずく。


「ベルアル!!!!!」


「ほら、隙だらけだぞ。」


そうい言いながら、シャイニーはベリアルの頭に中段蹴りを入れると、ベリアルは、そこから3mほど吹っ飛ばされる。


「ベリアル!!!!!お、俺もう…行くしか…」


俺はそう言いながら、ベリアルの元へ向かおうとするカントウの方を掴み、引き止める。


そして、何も言わずに首を振る。


「俺だってあいつを殴ってやりたいよ…でも、それを一番思っていたのは、あいつだから…ベリアルだから…これはあいつの決闘なんだ…」


するとカントウは、何も言わずにベリアルの方向に視線を向けた。


「はぁ…はぁ…シャイニー…お前は…!!!本当に正義なのかよ!!!!!!」


「はぁ?どういうことだ?」


「俺の仲間を…全て殺して………なんで…!!なんでお前が正義なんだよ!!!!!」


ベリアル。


その正体は、4年前に地球へと親睦のためにやって来た異星人だ。


ベリアルはその異星の王子で、宇宙船に乗り、地球にやってきた。


そして、ベリアルとあと何人かの従者を従えて、小型の探査機に乗り、山の頂上に着陸。


そして、その瞬間、上空に待機していた宇宙船が、秩序保安員会によって破壊。

ベリアルの部下、約20万が死亡。


そして地上に降り立ったベリアルたちは、他のヒーローによって襲われ、部下がヒーローたちを足止めさせている間に、ベリアルだけは逃げ、そして部下はヒーローたちによって皆殺しにされた。


そして、弱ったところをライリーが拾ってきて、そしてRIの仲間入りをしたというわけだ。


しかし、そのライリーも今となっては目の前のシャイニーによって殺されている。


本当に、秩序保安委員会はベリアルの全てを奪っている。


「お前らだけは…!!!!お前らだけはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


そして、その感情によって爆発するベリアルの能力。

変異が、起きる。


「なんだあれ」


シャイニーは余裕の表情でそうぼやくと、両手を前に構えた。


ニヤリとしながら呟くシャイニー。

次の瞬間にはビルに叩きつけられていた。


そして、その後に何が起きたのか、わからないような表情で、シャイニーはその場を見渡した。


「あ…あ…あ…」


信じられないという様な顔で声を震わせる。


「俺は…!!!!!ライリーは!!!!!!!」


そして次の瞬間、ライリーの足元が弾けるように吹き飛び、砂埃を一斉に舞わせる。


ドオオオオオオオン!!!!!!!!


そして次の瞬間、轟音が鳴り響いた。


ビルの方向には、ビルに埋もれたシャイニー。

それに向かって刃を振るうベリアル。

そして、その刃を剣で受け止めるスーツを纏った不審者の姿があった。


だが、世間一般的にあれを不審者と言う者は誰も居ない。


なぜならあいつは…

あのヒーローは…


「別に止めなくてもよかったのにな〜。マグプル」


「まさか、カウンター狙いだったか?」


シャイニーはコクリと頷く。

「さてと。それじゃあ、殺しますか。」


そして刹那。

シャイニーはベリアルに拳を叩き込んだ。


しかし、ベリアルはその拳を止める。


そして、回転後ろ蹴り。

後頭部に当たりそうになったところを、シャイニーは腕で止めると、周囲を風圧で吹き飛ばす。


しかし、マグプルだけはその場に直立したままだ。


シャイニーはそこに生まれた隙を見逃さず、すぐに打ち込んだ腕を引っ込め、右足で、ベリアルの足元を振り払う。


「ぐあ!?」

視線がぐらっと揺れたベリアルの頭に向かって放たれる大砲のようなパンチ。


地面のコンクリを砕き、そして衝撃を伝わらせる。

「くっ!!!!!!」


ベリアルは馬乗りのような体制になってしまったので、起き上がるのと同時に両足をシャイニーの胸に叩きつける。


シャイニーは花火のように空中に放り出された。


「ほほう…やるじゃねぇか。」

そしてマグプルがそう言いながら、身構える。


すると、空から流星のようにシャイニーが降ってきて、あたりに衝撃が迸る。

「お前の出る幕は今日はねぇぜ。」


そう言いつつ、目元のゴーグルを光らせて、ビームを放った。

ビームは、あたり一帯を巻き込みつつ、ベリアルに直撃する。


「っああ!!!!」

腕が焼け焦げるように黒くなったベリアルは、自分の腕から触手のようなカニの足のような物を出すと、それを振りかざした。


先の尖った爪のようなそれは、シャイニーの腕によって一度、止められる。


「ぐうう!!!!」


「こんなの、弱者のすることでしか無いように思えるのは俺だけか?」


そう言いながら、シャイニーは握ってい爪の生えた腕を取り払い、そして、ガラ空きになった鳩尾に向かって、拳をまっすぐ走らせた。


そして、見事、鳩尾にその拳が叩き込まれると、あたりに風を撒き散らしながら、ベリアルは大きく吹っ飛ぶ。


「ぐぅぅ!!!!!」


獣のように理性を失った目付きを向けるベリアル。

それに呆れたように、はあとため息を吐き、「これまでか…面白くねーやつ」と言葉を漏らしながら、シャイニーは右腕に漆黒の雷を纏わせた。


「あれは!!!!」


まずい、あれは!!!!!!


俺は、慌ててビルの頂上から飛び出した。

あれはやばい!!!!!


あれは…!!!!!


「放射線556を纏ったパワードスーツ。これを食らえば、一溜りもないだろうな。」


「くがあああ!!!!!!!」


鳩尾を押さえ、片手で体の上半身を支えるようにして蹲るベリアルが言葉にならないうめき声兼、憎悪の声を吐き捨てる。


「ま、まて!!!!!」


「これで終わりだ。」

そう言いながら、助走をつけるようにして走り始めるシャイニー。


そして、シャイニーは空中に飛び出、そして、ベリアルに向かって拳を降りおろ___


「やめて!!!!!!!」

と、次の瞬間、シャイニーの前を赤い光線のようなものが、通りかかり、シャイニーはベリアルから距離を取るようにして。


今の赤い光の線は…!!!!


「ん?君…」

シャイニーが、光線の飛んできた方向を見る。


そこには、ピンク色のドレスを見にまとい、そして、魔法のステッキを頭の前に掲げる一人の女子高校生が居た。


そいつには見覚えがあった。

「え、死刑執行人エグゼキューショナーズ!!!!!」


「しゃ、シャイニーさん!!!!!その人は、誰も殺していません!!!!!」


「人?こいつは人じゃない。その時点で、駆除しなければいけないことはわかるだろ?なぜお前は怪物の仲間になる?」


そして、奏音がシャイニーと喋っている間、シャイニーとベリアルの間に俺とカントウが横入りした。


すると、奏音が驚いた様子で、「ユミーさん!?」と瞼を広げた。


「………」


「ユミー?お前…ユミーって名前なのか?はぁ~ん」


何かを理解したのか、パチンと指を鳴らす。

だが、そんな中で、ベリアルの腕が変化した刃がシャイニーに飛びかかった。


「ッ!!」


そして、次の瞬間、その漆黒を纏った拳を振り下ろしたが、ベリアルはギリギリのとこで、回避する。


「まだ戦いは終わってないんだ。そこの魔法少女ちゃんも、さっさと帰んな。ここは大人の場だよ。」


マグプルがそう言いながら、手を縦に振ると、奏音は握った拳をもっと強く握りながら、言う。


「でも…目の前の理不尽を見逃すわけにはいかないです!!!!」


奏音はそういうと、敵であるはずの俺らの目を真っ直ぐと見た。

まるで、信じています!とでも訴えかけるようにその瞳は純粋な光を帯びていた。


「だから!!!ここでは引けない!!!!」


「はぁ…全く…これだから…マグプル…ちょっとこいつの相手をしてくれないか?」


そう言うと、シャイニーはポキポキと腕を鳴らした。


「まあ、所詮は魔法少女だし。さてと、正義というものをしっかり理解してもらわないとね。」


物凄い威圧を放ちながら、近づいてくるシャイニー。

奏音はシャイニーに魔法のステッキを掲げているだけで、撃とうとはしない。


「くっそ…!!!!」

「ユミー!?」


俺はそう呟いて、カントウを置いて、奏音の所へと向かった。

そして、奏音を片手で抱える。


「え!?ゆ、ユミーさん!?」


「逃げるぞ!!!!お前が死んだらVが悲しむからな!!!!」


俺はそう奏音に告げながら、ビルとビルの間を駆け抜ける。



__________________________________________________


「さてと…それじゃあ、お前ら、二人の削除を任されたわけか…」


まるで特撮に出てくるヒーローのような格好のそいつは、首に巻き付けられたマフラーのような物を風に靡かせると、拳を、ぶらりとぶら下げた。


「お、俺もかよ…!!!」


「グアアアア………」


ベリアルは暴れるし…ユミーはどっか行っちゃうし…

ど、どうすれば良いんだよ!!!!


「グアアアア!!!!!」


ベリアルは獣のように変な軌道を描きながら、ビルの壁などを使って、マグプルに向かって己の爪をぶつける。


「ふん」

その猛攻をマグプルはちょっとしたステップを踏みながら、スマートに避けて見せる。


まるで、ダンスを踊るようにして綺麗なステップで、一歳無駄のない動きで避けると、マグプルはベリアルに拳を叩きつける。


そして、その拳は思ったよりも弱々しいらしく、石柱に小石を投げたように、全く動じない。

しかし、マグプルの腕からは、「HIT!5ポイント!」とゲームのような声が響いた。


「グアァァァ……」


だが、そんな音が鳴ったところで、ベリアルには何もなかった。


何も起きない。それでもマグプルは殴り続ける。

何回も、「HIT!5ポイント!」という声がだけが流れる。


「グアアアアアア………!!!」


そして、ベリアルも鬱陶しいそうに、マグプルに向かって拳を叩きつける。

こっちの方は力を行使し、マグプルを10mほど引き剥がした。


「さてと。フィナーレと行こうじゃないか。」


マグプルがそういうと、腰につけたボタンのようなものを取り出し、3回親指でプッシュする。


すると、マグプルの拳に宿っていた炎が、全て、右足に移った。

その右足は、いかにも、強力なパワーが宿っているように見えるが、あんな小石のような攻撃しかできない奴が、ベリアルなど倒せる物なのだろうか…


普通は、そういう思考になると思う。

でも、こいつがフランスのトップヒーローと言われているのに、あんな弱い攻撃でトップヒーローと言われている所以が分からない。


それに、さっきのマグプルの言ったフィナーレという言葉。


もうこれで決着を付けるという合図。


つまりこれが、今までで一番危険な可能性が高い。


「べ、ベリアル!!!まともに食らうな!!!逃げろ!!!!!!!」


俺は、何か嫌な予感がして、必死に訴えかけるが、ベリアルは、止まらない。

獣のように姿を変えてしまった俺には、ベリアルの声など届かない。


「グアアアアア!!!!!!」


「ベリアル!!!!!!逃げるんだ!!!!!!」


「シャイニーは力ずくだが、俺はテクニックなんだ。じゃあな。」

そういうと、マグプル9は、天高く飛び上がる。


そして、その影が太陽とかぶると、マグプルの背中から火のようなものが放出された。


そして、マグプル9は、自身の炎の宿った右足を突き出すと、勢いよく、ベリアルに向かって、突き進む。


ベリアルは、腕を剣のように変化させると、突き進むマグプル9に向かって振りかざした。


「グアアアアアアア!!!!!!!!」


と、次の瞬間、二人がぶつかり合い、爆弾でも仕掛けられていなのか疑うほどに大きな爆発を起こし、その道路を煙幕で包み込んだ。


「グアアアアア!!!!!」

そして、次に包み込んだのは、ベリアルの悲鳴。


「ベリアル!!!!!!」


俺は煙幕を手で払いながら、悲鳴の方向に向かった。

払っても払っても晴れない煙幕。


俺は鬱陶しく思いながらも、突き進む。

「ベリアル!!!」

すると、コツンと、足元に何かが当たった。


「え…」


下を向くと、そこには指輪をつけた手…

その指輪には見覚えがあった。


花柄の指輪。

これはライリーがベリアルに渡したプレゼントの一つだ。


「う、腕がちぎれただけだよな…!!!おいベリアル!!!!お前に痛覚ないんだし…早く___」


「残念だけど、ベリアルはもう死んだよ。」

そういうと、一気に霧が晴れた。


目の前からは風が吹き、風が吹いていた方向には、マグプル9。

そして、その周りには、血が飛び散っていた。


そして、その中には、マグプルだった肉片の一部が…


「ねぇ…嘘だろ………うわぁ…ああああ………つ…!!!!」

俺は涙を拭き取り、拳を強く握ると、マグプルに背を向けて、走った。


ああ!!!くそ!!!!!!


俺には戦闘能力が、ほぼ無いと言っていい。


だから、腰には銃をぶら下げている。


RIは全員が異能の力を持っているが、俺は生まれつき、が得意だった。


変装っていうのは、顔の形や、体格を変える能力。

能力に気づいてなかったとき、俺はとても醜かった。


その体は、歪で、周りの人からは化け物なんて呼ばれた。


人間なのに、迫害された。


でも、母だけは俺を愛してくれた。

迫害されても、俺だけを庇ってくれた。


その時だったろうな。

人間を初めて憎んだのは。


「変身…!!!!」


俺はビル群を急に曲がり、路地の中に入る。


湿ったその路地の向こう側には一筋の光があった。

俺はその路地を駆け抜けると、バイクが一つ置いてあった。


「ら、ラッキー!!!」

俺は、体を変化させ、少し前にショッピングモールで見たあの、白い髪をした少年へと変わる。


そして、バイクを起動させ、走らせる。

轟音を鳴らしてバイクは走り始め、あっというまに、避難所へと着いた。


「こ、ここで人に紛れれば!!!」


避難所の近くにバイクをとめ、降りる。

起眞市立高等学校。


ユミーが通っているという学校だ。

避難所としては確かに最適だな。


俺は校門を潜り抜け、そして、体育館らしき場所へと向かう。



__________


って、一体、体育館はどこにあるんだ?


致命的だった。

そういえば俺は、ここら辺の学校のことを全く知らない。


これはもはや…誰かに聞くしか…


「おい、そこの少年。」


俺は、急に見知った声…というか、先ほどまで聞き覚えのあった声が突然現れ、ビクンと動揺してしまった。


しかし、ここは、動揺してしまったら、確実に怪しまれる…

俺はお得意のポーカーフェイスで、「えっと…なんでしょうか…?」

と真面目な普通の少年のように振る舞うように答えた。


「すまんが、ここら辺で怪人を見なかったか?」


そこには、頭に帽子を被った20後半あたりの様な男が居た。

しかし、腰には、先ほどベリアルを殺した奴と全く同じ見た目をしたベルト。


変身を解除してはいるが、こいつは確実にマグプル9。

そいつだ!!!!!


だが、今は所詮は人間…

殺せる…!!!


「か、怪人ですか?いやちょっと僕は分からないですね…」


俺はそう惚けながらポケットの中に手を入れる。

ユミーに護身用でもらった銃がその中には入っていた。


「そうか。わかった。それじゃあ__」

と言いながら、マグプルは踵を返す。


今しか無い!!!!!


銃をポケットの中から取り出し、そして、拳銃を構える。

が、その銃口はマグプルの掌によって抑えられた。


「な、何!?」


「まあ、なんかジャケットのポケットが膨れてたしな。それに、服、着替えなかったのか?お前、まさか変装系の能力か?まさかね。」


「クッソ!!!!!」


俺はそう言いながら、銃口の引き金を引こうとした。

が、引けなかった。


「銃ってのは、上のスライドする部分を少しでも後退させると引き金にロックが掛かる…知らなかったか…?」


「く!!!!」


俺は、銃を一度、その手のひらから離させると、マグプルに向かって投げつける。


「くっ!!!!」


多少、その銃を投げつける攻撃が効いたようで、マグプルは怯んだ。


俺は、その隙に、今度は、闇に黒猫となって隠れた。

ここでしばらくマグプルが引くまで待つか…


今度は人間じゃない…大丈夫な筈だ…


__________________________________________________


さてと…


俺は、体育館へと腰を下ろした。


俺、卜部隆一は、今とても暇している。


なぜかどこかに出たという怪人の警報により、一時的に避難することになった俺は、今とても暇をしていた。


なぜなら、怪人が討伐されるまで、待機だということだから。


起眞高の体育館の中には、たくさんの人が人が控えているが、みんなが、もうこの連日の怪獣騒動で、ほとんど、心配しなくなってきている。


てか、そういえば、体育館、もう直ってたんだな…


俺は、そう思いながら、その場をゴロゴロと転がる。

Wi-Fiも繋がっているし、アズリアや奏音、霧矢とも連絡も取れる。


三人とも、今の無事そうだ。


「はあ…早く倒されねぇかな〜」


俺がそう呟くと、突如として大きな声が響いた。

「すいません!!!!!この場にいる人達はすぐにここに一列で並んでくださーい!!!!」


運営の人だろうか、なぜか体育館の真ん中に人を集めている…


「どうしたんだ?」


「何何?」


少し体育館の中がざわめき始めると、それをかき消すように、運営の人が、体育館の恥に作られたちょっとしたスペースに人を誘導していく…


なぜか理由も知らされないまま、集められた人々は、列の先頭にある机にいる一人の女性の「OKです!」という言葉によって先頭にいる人は解放される。


なんだろう…


そう思いながらも、俺は列に並ぶ。


列には、大量の人が並んでおり、先頭の人は2秒ほど、女性に見つめられた後、「OKです!」と言われ、解放される。


結局何がしたいのか、よく分からないな…


そして、前の人が「OKです!」と言われると、とうとう俺の番がやってきた。


目の前に置かれた白い紙の乗った長机と、ボールペンを握る女性の姿。

女性の隣には、帽子を被り、あえて顔を隠したようにする男性の姿。


そして、女性の目がこちらへと向き、「OKです!」と声が掛かった。


結局なんだったんだ…

と、俺が去ろうとすると、「待て。」と壁に寄っ掛かった男性がいきなり声を出した。


「まさか、服を変えただけで、バレないとでも思ったのか?怪人め。」


「か、怪人!?」

男が帽子を取りそうはっきりと言うと、瞬く間に体育館がざわつき始めた。


「え?い、一体な、なんの話を…!?」


「とぼけるな!!!お前が怪人ということはわかっている!!!!」


なぜか、そう言い切るその人の顔には見覚えがあった…

その顔は…


「ま、マグプル9!?」


「全く…とぼけるだけとは…ここで死んでもらう…!!!」


そういうと、マグプル9は着ていた上着を投げ捨てた。


「え…ま、待ってくださいよ!!!!!ぼ、僕は怪人なんかじゃありません!!!!絶対に違いますよ!!!!!!ご、誤解です!!!!!!!」


俺は体育館全体に響く声で、そうマグプル9に訴えかけるが、それよりも、

「た、倒してくれー!!!!!」「マグプル9!!!!早く倒してー!!!!」という声が大きくなるばかりだった。


世界が敵になっている。


この世に味方は居ない…

俺はそう感じた。


そして次の瞬間、テレビで何回も見た戦闘スーツを身に纏ったバグプル9が、俺の頬を殴る。


そして俺は、すぐさま吹っ飛ばされた。


痛い…!!!!!

こ、ここで死ぬのか!?俺は…!!!!?


そして、マグプル9の追撃が、上から覆い被さる。

吹っ飛ばないように床と拳で挟むように撃ち込んだのだ。


「ま…!!!ぐは!!!!!」

一気に派手に吐血し、血が散らばる。


そして、胸ぐらを掴まれると、体育館の天井に叩きつけられ、外へと吹っ飛ばされた。


重力によって地面に叩きつけられた俺は、あおい空を見た。


そして、その次に、俺に向かってマグプル9の必殺技を打ち込む、フランスのトップヒーロー、マグプル9の姿も。


アズリア………ごめん…


次の瞬間、俺の視線は火で包まれた。







マグプル以外に誰もいなくなった校庭、そこでマグプルは携帯を出した。


携帯に数字を入れ込み、電話を掛ける。

「もしもし?シャイニー?ああ…こっちは仕留めたぞ。ああ?逃した?お前…まあ良い…今度見つけたら殺せば良いだけだ…どっちにしろ、もうそいつしか居ないんだからな…」


シャイニーは、校庭に転がる隆一の首を見て、そう言った。


血で染まった校庭の砂。

そこでだけ切り取れば、まさに______



地獄だ。











ベリアル レベル23


他の星からやってきた王子。

とても仲間想いな性格。

能力は変形。

体の形を変えることができる能力だ。

腕を刃物に変えたりできる。



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