第7話 2人で1人。
ビルの瓦礫に埋もれた少女。
雨に濡れた高層ビルの立つ町。
雨はいまだに止んでいない。
「まさか…こんな少女に化けた怪人がいるなんて…ねぇ…俺も驚きだよ。」
スーパー能力代わりのスーツを着込んだ俺、アメリカのトップヒーロー、シャイニーは、ジェット噴射を止めて、地上に降り立つ。
地上には、頭から出血した一人の少女。
少女は白色のRIという文字の刻まれたナイフを握っている。
「君が、RIのメンバーの一人か。」
「だ…だったらなんなの!?殺すつもり!?」
半泣き状態の少女は、ナイフをしっかりと握って、俺のゴーグルの奥にある目を睨む。
「もちろん。害獣は駆除しないと、市民に危険が訪れるからね。」
「私はッ!!!!害獣なんかじゃないよ!!!!!!」
「はあ…新幹線も粉砕するほどのパンチを食らっても出血程度で済む女の子を、害獣以外になんと言おうか…俺は…言葉が見つからないね…」
「あなた…シャイニーって人…?ユミーが言ってた…超強力なスーツを着て…秒速500mを超える速度で移動して…核ミサイルを食らっても傷一つつかない特殊なスーツと…ゴーグルから放たれる高電圧ビームとか…そういうのから…スーパーマンを超える人として…ハイパーマンって呼ばれてるって…」
俺の愛称、それはハイパーマンだ。
それが俺のキャッチフレーズ。
「あなたを倒せば…私が一番強いことになる!!!絶対に…殺すんだから!!!」
「君みたいな怪物は好きじゃないね。好戦的な奴ほど、危機感が欠如している。今君が選ぶべき手段は『戦う』なんかよりも、『逃げる』の方が良さそうだけど?」
少女は頭の血を手で拭い取ると、ナイフを両手でぎっしりと握った。
俺は、腰に手を当てて胸を張った状態から変わらない。
「うるさい!!!!私の気持ちが!!!あなたにはわからない!!!!!私がどんな思いでこの能力を使っているのか!!!!!私の人生を破滅させたこの能力をどんな思いで使ってるのか!!!」
俺は顎に手を当てる。
「ふーん…君が人生って…君人間じゃないのに…よくその言葉使えたもんだよね。」
「あああああ!!!!!!!!なんでみんな私のことを怪物呼ばわりするの!!!!」
少女は目の前か一瞬で消えると、全自動プログラムが生体反応を確認し、全自動で少女の後ろから突撃されるナイフの刃を避けた。
「うぉ…早いね!」
「言われなくても!!!わかってるって!!!!」
一本のナイフは俺の心臓を狙って降り掛かる。
俺のスーツは特別製で、生体反応を元に、攻撃意思があるものから神経の通り道などを調べ、そして、次に来る攻撃を回避。
要するに相手の心を読み、全自動で回避するこのスーツ。
なかなか優秀なもんで、並の相手じゃ、掠るどころか、拘束だってできる。
そういえば…まだ一つ拘束具が残っていたな…
俺は、迫り来るナイフを腕で弾き飛ばし、少女の腕を握る。
「え!?」
「逮捕だぁ〜」
俺は少しふざけながら、拘束具を少女に取り付けた。
拘束具は、緑色の光を放ちながら、床に張り付き、少女の腕を地面に固定される。
小さな女の子にこんなことをするのも気が引ける気がするけど…
俺は、足に力を溜める。
「な、何これ!?こんなの…直ぐに解いてやるんだか…」
緑色に染まっていく脚部のパワースーツは、その溜まったパワーを一気に解放するように、小さな少女の顔面を狙って蹴りを喰らわせる。
そして、蹴りを入れられた少女は直ぐ目の前にあったビルを貫通する。
バアアン!!!!!と音を立てて、ビルが崩れそうになるが、俺はそのビルの頂上までスーツのジェット噴射で飛び、そして、ビルの頂上から少し下を思いっきり殴り、少女がビルを貫通した方向へ、ビルを倒す。
バアアアアン!!!!!!
激しい爆発音が、俺の殴った場所から響いた。
耳の中に残る大きな音は、地面に向かって打ちつけるビルの音がかき消す。
「これはあの、怪人の所為にしようかな。」
倒れたビルの瓦礫を打ち破ってミサイルのように飛んでくる、少女。
「痛いんだけど!!!!!!!」
「そうです…っか!!!!」
俺は直線に飛んでくるそれを両手で小蝿のように叩き落とす。
真下に直下ではたき落とされる少女に向かって俺は腕を振って、少女が倒れている所へ拳を入れる。
拳は、少女の腹に当たり、血液を大量にその場に吐き出す。
「ああ…かわいそうに…」
「くそがああああああ!!!!!!!!!!」
少女はナイフを握ると、そのナイフを俺に向かって振る。
全自動プログラムが発動し、ナイフの攻撃を避けるように、少し退散。
少女からは雨だけでは流しきれないほどの大量出血。
「ああ…哀れだなぁ…まだいくつかのショッピングモールが襲われていると通報が来ているんだ。早く死んで欲しいのだけれども…」
「そう簡単に死ぬかよ!!!!!私はあんたを倒してみんなと生きるんだ!!!!!」
「はぁ…ほんと、悪の組織が正義面とか、やめて欲しいんだが?」
俺はゴーグルの両端に付いている2つのボタンを同時に押す。
「まあ、良い。直ぐに死ぬからな。」
次の瞬間、ゴーグルからは高電圧ビームが放たれ、少女に直撃する。
少女は、放たれたビームをクロスした腕で受け止めると、服だけが焼ける。
「へー…案外耐えるのか」
「ん!!!!」
眉皺を作り、俺を睨む少女はナイフを握りしめて、一瞬の内に俺の懐に潜る。
少女が先ほどまでいた場所にはワンテンポ遅れて衝撃と風圧が走る。
「うぉ!!!!」
突き刺さる、ナイフ。
スーツの右手の部品が一つ外れたが、動きの問題は無い。
まだまだ戦える状態。
俺は、少女を両腕で掴み、膝で蹴りを入れる。
「ぐはぁ!!!!!」
汚い血が俺と少女の間を舞っている間に俺はその場から離れて少女の吐いた血が俺に付着するよりも先に、少女を両手で突き飛ばす。
そして、突き飛ばされた少女を背中のガジェットを使い追いかけて、踵でうなじを狙う。
「がああああ!!!!」
もう力も入らないだろうな。
ここを折られたら、人間では下半身が動かなくなるはずだし。
ナイフを握ったままの少女。
少女は俺の足を掴むと、ナイフを使ってスーツのパーツを弾き飛ばした。
「がああああああ!!!!!!!!」
__________________________________________________
「ん?」
何か今…聞こえたような…
ライリーの声…?
カントウでも…ユミーでも無い声…
俺は占拠していたショッピングモールなるものから離れる。
「やはり…何か聞こえる…」
俺は体の背中に翼を生やして、空へと飛び立つ。
まさか…そんなはずはないだろうな…
勘違いであっててくれ!!!
________________________________________________
「くそが!!!!小娘が!!!!!」
俺は足に這いつくばる少女の頭をひたすら踏み潰す。
衝撃が伝わり、地盤が緩くなる地面。
そして、血が吹き上がる少女の頭。
俺は、手を離した少女の横腹をサッカーボールのように蹴り上げると、ビルにぶつかり瓦礫の埃を溢す。
「ガキが!!!!!子供の分際で!!!!このスーツの装甲を剥がそうとするとは!!!!!害獣が暴れやがって!!!!」
露わになったふくらはぎに傷。
ナイフで切られ、痺れるように痛いその傷口。
くそが!!!!!あんなガキにやられるなんて!!!!!
アーマードスーツだって無敵なわけじゃない。
素材が大きな爆発に耐えられるだけで、外から来る衝撃には強いが、中からの衝撃には弱い。
つまり、剥がすという行為には弱いのだ。
関節部分から装甲を剥がしていけば、それはもう、いつしかは装甲が剥がれる時が来るだろう。
だから、持ち前のスピードでカバーすれば良いだけだ。
だが!!このガキは俺の足を掴んで離さなかった!!!!!
まだ息はある。
殺すしかないな。
「ぐうううう………っは!!!ま、まだ!!!!」
滲み出る汗と涙。
命乞いでも始まるのか?
「まだ…わだぢはまげでない!!!!!!」
まだ諦めないのか…
「やめとけ。苦しいだけだぞ?」
顔面に叩き込む拳。
千鳥足の少女に叩き込むには容易だ。
「があああああ…!!!!痛いよおぉぉぉ!!!!!!!!」
あ、泣いた。
「お?良いね!!良いじゃん!!!良い顔してるじゃん!!!!!」
俺は腰くらいの身長の少女の髪の毛を掴み取ると、「はははははは!!!!!!!」と高笑いしてみせる。
「痛いぃぃ!!!!!!!!!!や、やめてよぉ!!!!!!」
「やめるわけねぇじゃん!!!!!!」
俺は少女の頭を地面へと叩きつけると、首を掴んで、鋼の拳を腹に向かってぶつける。
「ぐはっ!!!!!!!ぐはっ!!!!!!!」
ズドオオオオオオン!!!!!!!!!
衝突音が響き、俺らの周りの地面にヒビが走る。
それでも俺は拳を振り下ろすのを止めない。
絶対に止めない。
「正義ってのはよぉぉ!!!!!合法的に暴力を触れるから!!!!!!良いもんだよなぁ!!!!!!!」
バアアアアアン!!!!!!!!
「ぐはぁぁぁ!!!!!!!!」
少女から滲み出る涙と血液。
吐血したことにより出た血はスーツに飛び散る。
「あ?汚ねぇ…なぁ!!!!!!!」
もう1発!!!!!!
肉が弾かれる感触と、骨の折れる音。
「ぐはぁっ!!!!!いだ…いよぉぉぉ………」
顔に皺が次々に出来て、少女の呼吸は荒くなる。
すでに死人が囁くように弱ってきた声に笑いが止まらない。
そういえば、新機能があったんだった!!
硬いコイツで試してみるか!!
スーツの損傷はすでに50%を下回っている。
それでも関係ない。
俺は、腕の裏についている、セレクターのボタンを全て押し、システムを起動する。
右腕が急に闇を増殖させるように輝きを見せる。
「これはなぁ…衝突時に熱を発生させて相手の皮膚を溶かす技で…ゴーグルから放たれるビームの5000倍の威力があるんだ…これで…お前にトドメをさす!!!!!」
__________________________________________________
「居た!!!ライリー…」
そこには血だらけのライリーと、そして、鉄を纏った人間の姿…
あれはどこかで見覚えがある…
あれは…
俺は変形した背中の筋肉を普通の状態にして地上に降り立つと、その男の名前を呼んだ。
「シャイニー!!!!!!!」
「じゃあな!!!!!」
シャイニー右腕が黒く光り、そして、シャイニーはその黒い腕を振り下ろす。
ライリーのお腹に向かって。
ブシャアア!!!!!!!
突如として散ったライリーのお腹の血液。
赤く染まったそのシャイニーの腕は、一瞬で液体が蒸発する。
「ら…ライリー…?」
俺は一度止まった。
まて…そんなはずはない…
「シャイニー!!!!!!!!!!」
俺の能力は体を自在に変形させる能力。
だから俺は右腕を剣のように尖らせた。
そして、思いっきり、シャイニーの首に向かって刃を走らせる。
「うおあぶね!!」
シャイニーは、首を後ろに反らして、攻撃をかわす。
「くそ…今は万全の状態じゃないんだ…一度、帰らさせてもらおうかな…」
「待てえぇえぇえぇぇぇええぇぇえぇぇぇ!!!!!!!!!」
俺が叫んでも、シャイニーは、背中のジェットを噴出させて、空へと跳びだった。
「クソ!!!!!!クソクソクソクソクソ!!!!!!!!!クソが!!!!!!!」
俺は仰向けになって倒れているライリーの側へ寄る。
ライリーの腹部は大きな穴が空いており、そこから大量の血が流れ出る。
「ベリア…ル……苦しいよぉ…痛いよぉ……」
掠れ声で精一杯に声を出すライリーを持ち上げようと、俺は、両手でライリーを持ち上げるが、さらに出血し、慌てて俺は地面にライリーを置く。
「大丈夫だから!!!!!まだ…助かる方法はあるはずだから!!!!!」
そうだ…!!!この前にユミーが言っていた病院という所に送れば…ライリーも…きっと良くなるはず…
あ、でも…俺ら怪物だから…無理なのかも…
「ベリ…アル……痛いよぉ…とっても痛いよぉ…生きてたいよぉ…なんで…こんな不幸にならないとなの…?」
わからない…俺らはただ単に生きてたりしてただけだ…なのに…なのに…
「なんでライリーがこんな目に…!!!!!」
焦点の合わない瞳。
口の筋力をも動かせないのか、唇の横から流れ出る涎と赤い血。
俺は瀕死のライリーの頭を胸で抱きしめる。
「そうだ!!!!ユミーなら!!!!!」
俺は携帯を出し、ユミーに電話を掛ける。
プルルルルルルル………………
いつまで経っても出てこない…
ユミーは一体何をしてるんだよ!!!!!!
「ベリ…アル………苦しいよぉ…死にたくないよぉ……生きてたいよぉ………なんで……死ななきゃいけないの……?」
焦点の合わなくなり、本当に見えているのか怪しい目から、涙が流れ出る。
すでに表情は死んでいて、皺が増えるとか、悲しい顔になるとか…そういうのは一切なく…ただの無の表情。
それでも、流れでた涙。
「大丈夫だから!!!!!助けるから!!!!俺が、絶対に!!!!!!!」
「私……ベリアルと出会えてよかった…………」
「は…?待ってくれ…そんな……そんなこと言うなよ!!!!!その言葉は…この戦いが終わってから言う約束だったろ!!!!」
「ベリアル…研究所の人たちとか……お母さんとかよりも……ずっと優しかった………私を大切にしてくれた………私を…大事にしてくれた……ありがと……大好き…だよ…」
「うあっ………くっそ………お…俺も…大好きだ…………!!!!」
「ありがと………これで……………………りょお……もい………………………」
薄れていった声が遂に聞こえなくなる。
そして、瞳から力が抜けたようになり、小さな体の少女の呼吸が止まった。
俺はライリーの胸に手を当ててみるが、昨日まで元気だった鼓動はぴくりともしない。
俺は、ライリーの瞼をそっと閉じさせてあげると、しわくちゃになった顔で、一旦笑顔を作る。
「い……今まで……ありがとぉ……………」
優しく、冷たくなった唇にそっと唇を重ねる。
ライリーの血の味。
ライリーは少し前に教えてくれた。
好き同士の人は、こうやってキスをすると。
「これで…良いんだよな…………うぐっ………んああ………うがぁ…………」
笑ってたいよ………
笑ってたいのに………
ライリーの最後を笑ってお別れしたかったのに………………
「うあああああ…………ああああああ……あああああああ………」
ぽたりとライリーの冷たい頬に落ちる雫。
雨じゃなくて、俺の体から落ちた雫。
守れなかった……………
大切な物を………守れなかった…………
「うあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
_______________________________________________
誰かの鳴き声が響いた。
「ライリーちゃん!?早く、行かないと!!!!!」
すると、私を地面に貼り付けていた拘束具が一気に力を失った。
やった!!!今だ!!!!!!
私はその力の弱まった拘束具を振り払うと、立ち上がって、魔法のステッキを持った。
「た、助けにいかなくちゃ!!!!」
私がそう思い、壁に空いた穴から4階の高さを飛び降りようとした時、空に一本の光の線が引かれた。
その光は、私の方へと向かってくる。
そして、その光の正体が分かった。
それは…
「しゃ、シャイニー!!!」
それはシャイニーだった…
アメリカのトップヒーロー。そいつは、ライリーちゃんを壁に叩きつけて、そして吹っ飛ばし、なんの躊躇もなく、小さい女の子を殴った人。
私は最低な人だと思う。
でも、ライリーちゃんと戦ってたんじゃないの!?
そして、シャイニーがショッピングモールの天井を突き破って、着陸した。
「やあ…拘束具、解除できたのかい?」
「そ、そんなことよりも…シャイニー…ら、ライリーちゃんはどうしたんですか!?」
「ライリー?ああ。もしかしてあの怪人のことか?」
「怪人って決めつけないでください!!!!!!あの子は人間として暮らしたがってたんです!!!!!!それができない世の中を変えるために…戦っていたのに…」
「はいはい。そいつなら俺が殺したよ?いやーなかなか手強かったよ…」
こ、殺した…?
え…そんな……
「ほ、本当に殺しちゃったんですか…本当に……」
「殺したっていうか、駆除かな。害獣は駆除駆除〜♪」
ニヤリと薄気味悪い笑顔を浮かべると、まるで私を嘲笑するように「はは!」と声を漏らした。
「な、なんで…!!!!!」
「ああ〜ごめんね〜君、もしかして、あの子の味方気取りしてた感じ〜?あんな怪人の言う事なんて聞いちゃダメだよ〜」
「で…でも!!!実際怪人の言うことなんて誰も聞いてくれないんでしょ!?」
「聞く必要がないんだよ。ただでさえ、今の世の中、悪いことする怪人とか、超能力者がいっぱい居るってのにそれに加えて怪人と仲良くしたいとか、ダルすぎないか?」
「そ…そんな!!!!全ての人を救ってこそ、ヒーローじゃないんですか!?」
私は訴えかけるが、シャイニーは「チッチ」と人差し指を左右に振りながら、私に近付く。
そして、私の耳元で呟いた。
「ヒーローなんて肩書きに過ぎないんだよォ…結局は世間が決めつけている悪を殺してこそ、真のヒーロー…世間様に従えば良いだけ…俺は世間の悪を殺せてラッキー…まさにWIN WINだ。」
「あ…あなたが本当にアメリカのトップヒーローなんて…信じられません!!!!」
「知るかよぉ!!アメリカ合衆国様が勝手に俺の事トップヒーローとか言ってるだけだ!!!」
「そ…そんな…!!!!」
怒りが沸き上げてきた…
人の心も無いような…正義を語っている子の男に!!!!!
欲望のままに正義を振りかざし、理不尽に悪と謳われている人を殺す…
なんでこんなのが正義で…自由を奪われた子が悪なのか…
私にはわからない…
「私…あなたが嫌いです!!!!!」
「へー…そうかい。そんなこと言ったら、お前もいつか怪人に分類されちゃったりするかもな!!!!なんせ、魔女だしな!!!」
「な…何を!!!!」
「じゃ、今日は子供を虐められたし、そろそろ帰るとするわ…じゃー…」
「待ってください…」
不意に出た言葉…
自分の感情に任せて振り上げる魔法のステッキ…
握りしめるこの両手には怒りと悲しみが詰まっている。
この人を生かしてはいけない気がする!!!!!!
こんな人の所為で、理不尽に正義を振りかざされる人が居てはいけない!!!!!!
「おっと………まさか戦おうってのか…?」
「私ならあなたに勝てます…私の魔法はホーミング付きで…確実にこの距離なら当てられる…」
確かに…もしかしたらここで撃ってしまったら爆発に巻き込まれて私もタダでは済まないかもしれない…
でも…それでも良い!!!!!!
コイツを!!!!!!
小さな女の子を救えるのなら…!!!!!
「でもさ…俺思うんだよな…お前…殺人した事あるの?」
「え…?」
「お前…人間を殺せる覚悟…あるの?」
そう言いながら、シャイニーはジェット噴射も使わずに近寄ってくる…
鉄のブーツの音を鳴らして、近付いて来る…
「ち、近寄らないでください!!!!!本当に撃ちますよ!!!!!」
「殺しってのは…覚悟を持った奴だけの特権だ…お前にその覚悟があるのかな?」
カツンカツンと、鉄のブーツの音が響く…
「ッ!!!!!!ち、近寄らないで!!!!!!」
そして、手を伸ばせば届く距離で、シャイニーは止まった。
シャイニーはその手を伸ばすと、私の顎を掴み、そして、私の顔を無理やり、自身の方へ向けた。
強制的に顔の角度を操作される不自由な不快感。
「触んないで!!!!!気持ち悪い!!!!!」
私はそう言いつつ手を振り払う。
「はは!!お前には覚悟が足りないな!!!残念だ!!!」
シャイニーはそう言い残すと、背中のジェットパックを蒸して、助走を付けて、ショッピングモールの壁の穴へと飛び込んで行った…
「気持ち悪い…!!!!」
私は顎を手で拭った。
_____________________________________________
ユミー宅…………
「そ…そんな…ライリーが…」
「クソッ!!!!!」
俺はちゃぶ台に拳をぶつけた。
あの元気で常に笑顔を保ち、そしてRIの癒し役だったライリー。
そんなライリーが死んだ…
「やっぱり…俺が一緒に行くべきだった…」
ライリーの亡骸をベットに倒し、ベリアルがその手を握りながら呟く。
負けないと思っていた…
なぜなら、シャイニーの公表されているレベルは20
そしてライリーのレベルは22。
勝てると思っていたが、ステータスを偽っていると言う可能性を入れてなかったのは大きな誤算だった…
「すまない…ライリーの性格と、シャイニーがレベルを偽っていた可能性も考慮すべきだった…」
俺がその言葉を呟くように言った瞬間、部屋の中に鳴き声が響き始めた。
「う…ぐぁぁ」
俺は何も言えないし、言う権利すら無い…
一斉ショッピングモール占拠作戦を考案したのは俺だ…
やはり固まって戦いに挑むべきだった…
もう…負けてしまったかもしれない…
◇
「……俺行ってくる…」
そっとベリアルがライリーの亡骸を抱き抱えながら立ち上がった。
「ど、どこへ…?」
カントウが問うと、その答えはすぐに帰ってきた。
「シャイニーの所へ………」
ベリアルはその言葉を残して、俺の部屋のドアノブを捻った。
「ユミー…追わなくて良いの…?」
「………」
「このままじゃ、ベリアルが!!!!」
「ああ…そうだな……これ以上…仲間を失うのは懲り懲りだ…!!!!」
「よ…よかった…」
俺は一度、頬を叩いて、「よし!!!」と言った後、ベリアルを追うように、扉を開けた…
__________________________________________________
「ライリー…」
俺の腕の中には、冷たくなったライリーが居た
大丈夫…心臓は止まっているが…まだ生きている…
俺が取り込めば…良いだけ…
俺は、ライリーを抱き寄せると、俺自身の肉体を液状にさせて、ライリーのホフを段々と包む…
そして俺は、ライリーを取り込んだ…
俺が強くなって来られたのは…母星の仲間と地球の仲間のおかげだ…
こうやって仲間を取り込んで…段々と強くなる…
別にその人の能力が反映されるる訳では無いけど…
俺は一層強くなれる…
「大丈夫…これからは二人で一緒だから…」
俺が呟くと
『これからずっと、いっしょ!』というライリーの声が頭の中に響いた気がした…
「ずっとだから…ずっと一緒だから…絶対に離れないから…安心して…俺たちは…」
二人で一人だから…
__________________________________________________
病院の中…
私は霧矢くんのベットで眠っていた…
「あれ…?なんで……」
「あ…おはよう。泣き止んだみたいだな。」
「え?」
目を擦ると、涙の跡が目元に残っていた。
泣き疲れたのか、私はどうやら寝てしまっていたようだ。
「これでようやく話ができるな…」
記憶は無いが、私はどうやらライリーちゃんのことについて泣き喚いていたらしい…
「悪を救いたいって…俺もそれは良いと思うよ……」
「え?」
悪を救うなんて言ったのだろうか…
でも…実際に守れなかった…
本当の正義がなんなのかわからなくなっていた…
自分が今までしてきたことは果たして正義なのかも…疑うようになってしまった…
「だってその…RIって人たちは悪い人じゃないんだろ?」
「た…多分………でも…もしかしたらその人たちは!!!人殺しをしてるかもしれないし…!!!!」
「でも…悪とか…勝手に決めつけられてるだけで…本当はいい奴かもしれないんだろ?それに…奏音はさ、守りたかったんだろ?ライリーの事…」
「…………」
「守りたいって思うんだったら…それを守るのが一番だと思うよ。」
「そうなのかな…やっぱり…」
「そう。だから俺は、守りたいものを守る…」
そういうと、霧矢くんはベットの毛布を自分の上から退かした…
霧矢くんの金属で作られた右足が姿を露わにした。
そして、不安定な足取りでその場に立つ。
「き、霧矢くん!?だ、大丈夫なの!?」
「大丈夫…ってか…これくらいで大丈夫じゃないと、守りたいものを守れないよ…」
「守りたいもの…?」
霧矢くんはコクンと頷く。
「ああ…俺にとって命よりも大事なものだ。」
そう言いながら、私の事を抱きしめた。
どう言う事なのか…一瞬理解できなかった…
「奏音が魔法少女になって…元気がなくなってることくらい…俺は知ってるよ…不安なんでしょ?まだ、魔法少女になって守りたいものが守れなくて…それで、責められたらどうしようとかって。」
「え…?」
「無理に全てを守ろうとは思わなくてもいいんじゃないかな…」
「どう言うこと…」
「奏音は…全世界の人を守ろう!って思いながら魔法少女やってるでしょ?大切な物だけ守ってれば…俺は良いと思うよ…俺はただの人間だから…何もできないけど…奏音だけ守っていれば…俺は満足だしね。」
そういうと、霧矢くんは、私の事を見つめる。
すると…少し霧矢くんは頬を照した。
赤く染まった頬は、夕日によるものなのか…それとも、霧矢くんの顔が赤く染まっているのか…
どっちなのかは分からない…
そして、継ぎ接ぎの言葉を霧矢くんは言った。
「お、俺はさ…その…どうやら奏音のことが…好きみたいで…さ…俺は…奏音を守りたいな…だから…今…言いたいこと、不安なこと…全部言ってくれ…力になるからさ。」
好き、という霧矢くんから放たれた言葉。
「私も…霧矢くんの事…好き……だから…私の全てを話すね…す…少し泣いちゃうかもしれないけれど………」
好き同士の私たち。
本気で愛し合えるんだったら…
私は恥ずかしくても…霧矢くんになら…全てを言えそう……
抱き合ってたら胸がざわめき始めた…
これが…恋って奴なのは知ってるけど…
やっぱりどうも落ち着かない…
でも、今は…
「どうしたの?そんなに笑って…」
そう言う霧矢くんも笑ってるじゃん…
「いや…私…今幸せだなって……」
ごめん。
この時間だけは悪とか…正義とか…忘れてても良いかな…?
ライリーちゃん…
許してくれるかな…?
まあ…いっか…
私は霧矢くんの顔を見上げると、その唇に向かって、私の唇を重ねた…
柔らかい感触が体の中に響く。
その日は寝るときでさえ、とろけてしまいそうだった、甘い1日だった。
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