わたしは見習い脱衣婆

第17話 嫉妬の炎

三途の川のほとりに立つ少女は、今日もまた新たな魂を迎え入れる準備をしていた。これまでに多くの魂がさまざまな感情に縛られ、この地にたどり着いていた。愛、憎しみ、絶望、そして執着。彼らと向き合うことで、少女は少しずつ成長してきたが、今日の裁きはまた新たな感情に深く関わるものになると予感していた。

「今日やってくる亡者は、嫉妬に囚われた者だ。」

脱衣婆の静かな声が響いた。嫉妬――それは、他人の幸せや成功を羨む感情であり、時に魂を燃え尽きさせるほどの強い力を持つ。嫉妬に囚われた魂は、他人との比較の中で自らを傷つけ、憎しみを育ててしまうことがある。

霧の中から姿を現したのは、一人の男性だった。彼の目には鋭い光が宿っており、顔には強い怒りと悔しさが表れていた。彼は誰かに対して深い恨みを抱いているようで、その感情が彼の全身にまとわりついていた。

「彼は、生前に友人や同僚の成功を妬み、嫉妬に身を焦がし続けた。そして、その感情が彼を破滅へと導いたのです。」

脱衣婆の言葉に、少女は彼の表情をじっと見つめた。彼が抱える嫉妬の炎は、彼の魂を焼き尽くし、今もなおその炎が消えることなく燃え続けているようだった。

「あなたは、なぜここに来たのですか？何に嫉妬し、何を求めていたのですか？」

少女は静かに問いかけた。彼女の声は優しく、彼の心の奥に届くような響きを持っていた。しかし、男性の顔には怒りの色が強く残っていた。

「私は……ただ、彼らが憎かったんだ。私よりも何もかも上手くいっている連中が……なぜ私はこんなに努力しても報われないのに、あいつらだけが成功していくんだ……」

彼の言葉は、苦しみと憎しみに満ちていた。彼は自分が努力しても報われなかったことを理由に、他人を妬み、彼らの成功を憎むようになっていたのだ。

「あなたが感じた嫉妬は、その炎が強くなるほど、あなた自身を焼き尽くしてしまったのではないですか？」

少女は慎重に言葉を選びながら問いかけた。彼の中で燃え続ける嫉妬が、彼自身を苦しめ、彼を破滅へと導いたことを理解させるために、優しく語りかけた。

「そうだ……嫉妬が私を燃やし尽くしたんだ……でも、止められなかった……あいつらが、私の目の前で成功していくのを見るたびに、怒りが抑えられなくなって……」

彼の声には、深い苦悩が感じられた。彼は自分が嫉妬に囚われていることを理解していたが、その感情を制御することができず、最終的にはその嫉妬が彼の人生を支配してしまったのだ。

「嫉妬は他人を憎むだけでなく、あなた自身を傷つける感情です。その感情が、あなたを苦しめ続けたのではありませんか？」

少女の言葉に、男性はしばらく黙り込んだ。彼は自分の中で渦巻く感情が、ただ他人への憎しみを育てるだけでなく、自らをも蝕んでいたことを、少しずつ理解し始めているようだった。

「そうかもしれない……でも、どうすればよかったんだ？努力しても結果が出なかった私は、あいつらを見ているしかなかった……」

彼の言葉には、まだ苦しみと諦めが滲んでいた。彼は、自分の嫉妬心が他人との比較から生まれたことに気づきながらも、その感情から逃れることができずにいたのだ。

「他人との比較は、嫉妬を生み出す源になります。しかし、あなたが見るべきは他人ではなく、あなた自身です。自分の価値を他人の成功と比べるのではなく、自分ができることに目を向けることが大切です。」

少女は彼に向かって優しく語りかけた。彼が自分自身を見つめ直し、他人と自分を比べることなく歩む道を見つけるための手助けをしたいと願いながら、言葉を選んだ。

「でも、私は……何もできなかった……何をしても、他人よりも劣っていると感じてしまったんだ……」

彼の声は弱々しく、その言葉には深い無力感が込められていた。彼は他人と自分を比べることで、自分の価値を見失ってしまい、その結果として嫉妬心がますます強くなっていたのだ。

「あなたには、他人と違う価値があり、それを見つけることができます。他人の成功があなたを否定するものではありません。あなた自身が選ぶ道には、あなたにしかない力が宿っています。」

少女は彼に対して力強く語りかけた。彼が嫉妬から解放され、自分自身の価値を見つけ出すための希望を持つようにと、心から願いながら、言葉に力を込めた。

しばらくの間、男性は何も言わずに立ち尽くしていたが、やがて顔を上げた。その目には、わずかに希望の光が戻りつつあった。

「私は……その道を選べるのか……？」

彼の声には、わずかながらも前に進む決意が含まれていたが、同時にその道の険しさに対する恐れも感じられた。

「嫉妬を手放し、自分自身を見つめることができれば、その道は必ず開かれます。あなたの価値は、他人との比較ではなく、あなた自身の中にあるのです。」

少女は優しく微笑みながら、彼に語りかけた。その微笑みには、彼が自分を取り戻し、未来を歩むための力を持てるようにとの祈りが込められていた。

「ありがとう……」

彼の最後の言葉が、少女の耳に届いた。その瞬間、霧の中から光が差し込み、彼の姿を包み込んだ。嫉妬の炎に焼かれていた彼の魂は、ようやくその炎から解放され、光の中で安らぎを見つけた。

「今日の裁きから、何を学びましたか？」

脱衣婆が静かに問いかけた。少女はしばらく考え、静かに答えた。

「嫉妬は他人を憎む感情であると同時に、自分自身を傷つけるものです。嫉妬を手放し、自分自身の価値を見つけることで、魂は救いを見つけることができるのだと。」

脱衣婆は満足そうに頷き、次の亡者がやってくる準備を整えた。少女もまた、その言葉を胸に刻み込み、次なる裁きに向けて心を整えた。

霧が再び立ち込め、次の魂が訪れる予感が漂ってきた。少女はその静かな風を感じながら、今日の裁きから学んだ教訓を胸に、次なる試練に備えて心を引き締めた。