ロマンス・ファンタジック・カリヴィエーラ~転生令嬢、魔王を封印せよ~

伊藤沃雪

序章 処刑

「イルマ・ハミルトン。この者の命を聖なるラユの地に捧げん……」


 暴風雪が狂ったように吹き荒れる中、処刑人が抑揚のない声で宣言をする。


 わたしは……イルマは手足を拘束されて、極寒の地の断頭台の下へ平伏していた。もともと着ていた防寒着も剝ぎ取られて、貫頭衣一枚しか着ることを許されなかった。歯ががちがちと鳴り、全身が震えて感覚が無くなっている。

 だが何よりイルマには、裏切られたという絶望の方が苦しかった。凍り付くだけと分かっていても、壊れた涙腺からはとめどなく涙が溢れた。断頭台のすぐ傍に立ち、イルマのことを見下ろしている、大魔女、魔族、それから金髪碧眼の身なりが良い男。


 「ヴァイ、どうして。どうしてなの──」

 

 顔を上げることすら許されず、イルマは悲痛に呻いた。ヴァイ、と呼ばれた金髪碧眼の男はちらりと一瞥するだけで応えようとはしない。ただヴァイの表情は苦悶に染まり、飛び出しそうになっている激情を呑み込まんと耐え忍んでいるようだった。

 

 イルマとヴァイの想いが通じる間もなく、あっさりと断頭台の刃は落ちた。ごうごうと吹き荒れる暴風は、命の終わりを告げる音さえも掻き消していった。

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