海からの使者:貝人間の使命
彩原 聖
海からの使者:貝人間の使命
遥か遠くの海の彼方から風が岸辺に吹き寄せて朝の光に照らされた波がさざめいている。岸辺には人間の足を持つ貝らしき生物たちの影が長く引き伸ばされていた。
彼らは「貝人間」と呼ばれる精霊たち。海の
――
浜辺に降り立った一人の貝人間が、その貝殻に反射する海の青をまといながら、静かに歩を進める。
「やはりか…」
彼の呟きは誰もいない早朝の浜辺に吸収されていった。彼の目に映るのはかつて美しかった浜辺が荒れ果てている光景だった。散乱するプラスチックごみや腐った食品が浜辺の風景を
「やるしかないですね…」
貝人間は
そうすると、次第に様々な光が集結して怪しげに全体が金色に輝いた。海の深淵から、サザエ、カキ、アワビ、ホタテが次々と姿を現し、彼ら「貝人間」の集結はまるで海の力を一つにしたかのように周囲の雰囲気を一変させた。
「みんな!よく聞いてくれ。俺がリーダーのハマグリだ。今日ここに集まってもらったのは"使命"のためだ。ここの海岸は俺たちが保全するぞ!!」
そうしてハマグリは仲間たちに浜の現状を説明した。
サザエが原因である海の家を訪問したいと言うので各リーダーたちで海の家へと向かう。
――
海の家にたどり着いた貝人間たちは営業をしている少年たちと対峙した。
「こんなもの、見たことがないぞ…!」
「えぇ、初めまして。私はサザエと申します。」
「見たらわかるんだけど…ありえない、僕は幻覚でも見てるんじゃないか??」
「私たちにはとある使命があります。ゆえにこの海の家を破壊したいと思うのです。」
そこで貝人間がその言葉を発した瞬間に周囲の空気が一層冷たくなった。貝殻の表面が不気味に輝き、トゲドゲした頭を向ける。彼の言葉は単なる脅しではなく、冷酷な意図を伴ったものであることが伝わってくる。
「な、何を言っているんだ?」と、海の家の少年は震える声で問い返したが、貝人間の顔には感情の欠片も見えない。
貝人間は冷たく微笑みながら、周囲の景色に視線を向けた。彼の目の先には、捨てられた海の家商品のゴミがあった。
「私たちの使命はこれらのゴミを排除して美しい海岸を取り戻すことです。なので手っ取り早く原因を潰そうと考えたのです。」
「おいおい、待てよサザエ。勝手に話を進めるなよ、俺らの使命は本当にそれだけか?少年少女の笑顔を守ることだ。海の家の破壊は本当に使命を全うすることになるのか?」と、口を挟んだのはハマグリだった。
その問いかけにサザエはなんとも反応できなかった。
次に声を発したのはホタテだった。
「少年たちよ、この海岸を守るために私たち貝人間は力を尽くしている。しかし、我々の力だけでは限界がある。君たちの手助けが必要だ。」
ホタテの声には深い悔しさと切実さが込められていた。
少年たちは互いに顔を見合わせ最初は戸惑いながらもその真剣な眼差しに心を動かされた。彼らは徐々に理解し始めた。貝人間たちが示すのは単なる警告ではなく共に未来を守るための協力の呼びかけだった。
「わかった、協力するよ!」
一人の少年が力強く答えた。他の少年たちも次々と賛同し、彼らの目には決意の光が灯った。
ホタテは微笑み、少年たちの反応に安心した様子を見せた。
その後、少年たちは貝人間と共に海岸の清掃活動に取り組み始めた。貝人間は彼らの指導役となり海の保全についての知識や方法を伝授して海の家の少年たちと協力し、次第に浜辺の再生が見られた。
――
貝人間と海の家の少年たちは、早朝の浜辺で清掃活動を開始していた。青い空の下の砂浜に広がるゴミを取り囲むように皆が一丸となって動き回っていた。貝人間は優雅に舞うように歩きながら、ゴミを集める方法を少年たちに指導していた。
「このゴミは海の生態系に悪影響を及ぼすのだ。」
貝人間は、釣り針やプラスチックのゴミを指さしながら説明した。
少年たちは黙々と作業を続ける中で貝人間の言葉が励みとなり、彼らの動きに一層の力が込められていた。ゴミ袋に次々と集められていくビニール袋や空き缶、プラスチックボトルは、彼らの努力の証だ。
すると一人の少年が砂の中から古びた漁網を引き上げた。「これ、どうしよう?」
貝人間はそれを見て優しく答えた。
「漁網は特に危険だ。海の生物が絡まってしまうことがある。特別に処理しましょう。」
活動が進むにつれて浜辺の景色は次第に変わり始めた。砂浜が見えて貝殻や岩が美しく輝き始めた。貝人間も少年たちの努力を見て満足そうに頷いた。
「皆さんの協力で美しさを取り戻してきたよ!」
貝人間は青空の下で微笑みながら言った。
少年たちは互いに励まし合いながら最後のゴミを片付けて浜辺の美しさを取り戻すための活動を続けた。清掃が終わる頃には、海の家の周りはすっかり整備され、貝人間と少年たちの顔には達成感と満足感が浮かんでいた。
――
約束の海開きの日、浜辺は新たな輝きを放っていた。貝人間と少年たちの努力が実を結び、砂浜はすっかり美しく整備されていた。空は晴れ渡り、青い海と輝く砂浜が美しさを演出する。
朝の早い時間から、次第に海辺に人々が集まり始めた。家族連れやカップル、友達同士が楽しげに話しながら、浜辺の景色に目を奪われていた。海の家や浜に設置されたゴミ箱には、ポスターや案内が貼られていて、訪れる人々が積極的に利用していた。
「ここまで綺麗になったんですね。」
一人の観光客が感嘆の声を上げて周囲の景色に感動していた。
子供たちは嬉しそうに砂遊びをして綺麗な波と戯れていた。海の青さに目を輝かせ笑顔で駆け回る姿は、まるで海を照らす太陽のようだ。ゴミ箱の周りには親たちがゴミを適切に処理する様子が見られ浜辺の清潔さが維持されていることが実感できた。
貝人間と少年たちもその光景を見守っていた。少年たちはこれまでの努力が報われたことを実感し満面の笑みを浮かべていた。彼らの目には海が再生し多くの人々がその美しさを楽しんでいる様子が映っていた。
「やっぱり、僕たちの頑張りが形になったんだね。」一人の少年が言い、他の仲間たちも頷きながら「本当に良かったね。」と語り合った。
貝人間もまた浜辺に漂う楽しげな雰囲気に満足し静かに微笑んでいた。彼の目に映るのは再び美しさを取り戻した海岸とそこで楽しむ人々の幸せそうな顔だった。
浜辺は陽光に照らされ訪れる人々の笑顔と歓声で満たされていた。それは、貝人間と少年たちが共に作り上げた海と人々の新たな未来の始まりを象徴する瞬間だった。
――
海開きの日が終わり、浜辺は夕焼けに包まれていた。訪れた人々が帰路につく中海の家の少年たちは、清掃作業の余韻に浸りながら、今日の成功を振り返っていた。突然、海の家の庭の一角に貝人間が静かに立っているのが目に入った。
「貝人間さん!」
一人の少年が声を上げ、他の仲間たちもその声に気づいた。貝人間はいつもとは違って静かに、そして整然と立っていた。彼の姿はもはや生き物ではなくまるで精緻に彫刻された置物のようだった。
少年たちは貝人間の変化に驚きながらも彼の周りに集まった。貝人間の貝殻は以前にも増して美しく夕焼けの光を浴びて幻想的な輝きを放っていた。彼の足はもはや見当たらずその代わりに彼の全体が海の家の庭に溶け込むように設置されていた。
「貝人間さん、どうして…?」少年たちは混乱し、心配そうな顔を見せた。
その時、彼の貝殻に刻まれた繊細な模様が淡く光り優しい声が響いた。「皆さん、私の役目は終わりました。海の家が再び美しくなり、人々が喜ぶ姿を見ることができて、私は満ち足りています。」
少年たちはその言葉に胸を打たれた。貝人間は彼らの努力を見守り支える存在であり続けることを決めたのだと理解した。
「これからもこの海岸を守り続けてください。」貝人間の声は温かく力強いものだった。
少年たちは貝人間の言葉を心に刻みながら彼の周りを囲み感謝の意を示した。彼の美しい姿は海の家の庭の一部として訪れる人々に安らぎと教訓をもたらし続けることとなった。
――
海の深淵へ帰っていった貝人間たちはまだ満足していないようだ。彼らの心には他の場所にも広がる海岸の美しさを取り戻す使命が宿っている。きっと、あなたの街にも同じように美しい海岸を取り戻すために貝人間たちの手が差し伸べられる時が来るだろう。その時まで彼らは海の深淵で静かに待ち続け再び人々と手を取り合う日を夢見ている。
美しい海を守るために私たち一人一人が日常的にゴミを適切に処理し、自然を大切にすることが大切だ。貝人間たちが教えてくれたように海を美しく保つためには日々の小さな行動が大きな変化を生む。ゴミを捨てない習慣を身につけてこの地球の美しさを守っていこう。
貝人間たちより
【~完~】
海からの使者:貝人間の使命 彩原 聖 @sho4168
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます