神様にお任せ!!

砂之寒天

第1話 転生〜そして神になる〜

 茹だるような夏の昼下がり。私は1人山に登っていた。久しぶりの休暇を満喫するために、登山に来たのだ。

 しかし暑い。滝のような汗は止まる所を知らず、だらだらと体を伝う。水筒の水を飲むが、暑さで水も少し温くなっていた。


 もう、とにかく暑い。目の前がクラクラする。運動は好きだが、長く仕事に捕まっていたせいで運動不足なのだ。いきなり登山なんかするべきじゃなかった。

 再度水を飲む、が、水筒の水はもう無くなってしまった。

 あと少しで登頂。登頂まで登りきってから休もう、と思って歩みを続ける。


しかし。


「あ、れ…」

 視界が段々黒くなっていき…


ドサッ


 私は体が倒れた衝撃を最後の記憶に、熱中症で死んでしまったのであった。



 ふと目を覚ましたら、私は不思議な空間にいた。明るいような、暗いような。暖かいような、寒いような。とにかく感覚というものを超越したような空間にいた。

 病院、だろうか。私は寝ぼけている?

 ふわふわとした意識の中、空間に声が響いた。

「汝は、何になることを望む?」

そう問われた。


 実は私は、長めの厨二病に悩まされていたところであった。超強くなりたい。なろうで俺TUEEEEしたい。そんな願望を持っていた。いや、きっと夢を持つのはいいことなのだ。ちょっと人に言いづらいだけで。


 きっとこれは、そんな私の願いが聞かせた幻聴であろう。であればまぁ、適当に答えておけばいいのだ。


 なので、私はこう答えたのだ。

「全知全能の、神になりたい」

できればサポートしてくれるアシスタント付きで。


 空間から動揺が伝わった気がした。何も無い白っぽい空間が少し揺らいだように見えた。


そして。

「その願い、聞き入れよう…」


そう聞こえた後、目の前を眩い光が包んで、私は気付かぬ間に新しい生を受けることになったのであった。

 

〜〜〜〜


 彼女の登っていた山。そこには転生を司る神が住んでいた。

 己の領域の中で死んでしまった彼女の魂を、神は救うことにした。

 そして問うのだ。

「汝は、何になることを望む?」

 答えは、「全知全能の神になりたい」、であった。己の領域で死んでしまった命に、気まぐれに願いを聞いただけであったのに。真逆そのような願いが返ってくるとは。

 だが願いは願い。神はそれを叶える。別の世界に転生させることによって。

「その願い、聞き入れよう」

 そして、その瞬間、一柱の神がとある世界に誕生することとなったのだ。


〜〜〜〜


 目が覚めたら、森の中であった。登山の途中だったっけ…?と思いながら立つ。なんだか不思議な夢を見た気がする。

 だが何だかおかしい。持っていた登山グッズがない。足も裸足で、服は白いワンピースになっていた。

 寝ぼけていた目がシャキッと覚める。どうやらおかしな事になっているらしかった。寝ぼけている場合じゃない。


「え、え!?」


 突然訳の分からない格好で、右も左も分からない場所に放り投げられてしまったのだ。


「え、えぇ〜どうしよう…!ここどこ…?」

 そう問うと、

『ここはアレット森です』

 と返答があった。頭の中に声が響いたのだ。


「…?」


突然の幻聴?にアホの顔で呆けてしまった。もう一度聞いてみよう。


「ここ…どこ?」

『アレット森です』


 今度もはっきり聞こえた。

 ここで私は1つの考察をする。これは真逆、転生というやつではないだろうか。それも何かしらのスキル持ちの。

 私はなろうをよく読むオタクであった。のでそれに気がつくのも早かった。


 であれば、最初にすることはこれであろう。私は手を前に突き出して、例の言葉を唱えた。

そう。

「ステータス、オープン!!」

『ステータスを表示します』

 そう聞こえた後、目の前に灰色の四角いウィンドウが表示された。

 そこには、


スキル:全知全能


 と書いてあった。

(ほ、本当に出来た…)

 不思議に思い目の前の四角いウィンドを触ろうとしてみるが、感触は無かった。


 しかし、スキル全知全能とは。寝てる間に見た夢の中で、そんな事を言った気がする。

 ここで1つ試してみることにした。

「ね、ねぇ、今の状況って説明できる?」

『出来ます。』


 そうして私は自分が熱中症で死んだこと、そして転生して全知全能の神になったことを知ったのであった。そしてここはアレット森といい、魔物の出る森であるということも。


「…え、?えええええぇ!!!」

確かに全知全能の神になりたいっていったのは私だけど、本当になれるなんて思わなかった!!

頬に手を当てて悶える。


『尚、私への問いかけは脳内でも行えます』

「え、そうなの」

(じゃ、じゃあ…貴方は誰?)

『私に名前はありません。神である貴方をサポートする為に、貴方の願いから生まれました。尚この声は貴方以外の人には聞こえていません。』


 そうなのか…。

 とにかく神になったのだ。まずは何をしよう。と考える。

…とりあえず見た目を可愛くしよう。

 今の私は前世のまま、黒髪黒目のロングである。

 そこから私は感覚で、髪を銀髪に、目を群青色にした。ついでに顔立ちも少し変えて、童顔美少女にした。

 案外神の力に慣れるのが早い。


 (そうだ、サポーターの貴方に名前をつけよう!サポーターの…サタナ!サタナちゃん、よろしくね)

『はい。今から私の名前はサタナ。よろしくお願いします、主様。主様は名前を決めますか?』


名前、名前か…。どうしよう。そうだな…。シュナ。シュナにしよう。

(私の名前はシュナにするよ)

『聡明な名ですね。素敵です』


 次は服をどうにかする。

(今の季節は何?)

『早春です』

とのことなので、白のワンピースを白い薄めのローブに変えた。金色の金具がかわいい。

 ぽんっ、と出した靴下を履いて、白のロングブーツを履いた。編上げと横のレースと花柄が可愛いのだ。


 鏡を出して姿を映す。うん、とても可愛い。

 

『魔物が出ますので、対策を考えておくことを推奨します』

(それもそうだね。一応剣を作っておこう)

私は片手剣を作った。

テッテレー!片手剣〜。青い刀身と、サファイアのような石が嵌め込まれた持ち手。かっこよく出来た。

 剣の勝手など分からないので、あまり使うことはないだろうけれど、念の為ね。


とりあえず人里に向かって歩いていくことにした。

(人里はどっち?)

『案内します。1番近い都は、帝国ルツェルンです。芸術の都です。』

そう言うと、目の前に右向きの矢印が表示された。なるほど、こっちに行けばいいのね。


 暫く進むと、白い犬っぽい獣人がいた。軍服を着て黒縁のメガネをかけている。隣には三毛猫の獣人もいた。同じく軍服を着ている。


先んじて翻訳魔法を己にかけておく。


「こんにちは〜」

「こんにちは。こんな森の中で偶然だな。」


白い犬の獣人の方が答える。


「何してるんですか?」

「パトロールだ。魔物が出るからな、この辺りは。」

「そうなんですねぇ」

「そうなんですにゃぁ」


三毛猫の獣人がへにゃへにゃと答えた。


「どこに向かっているんだ?」

「帝国ルツェルンまで」

「私達が住んでるところもルツェルンだにゃあ。一緒に行くかにゃ?」


願ってもないことだと思った。ここは素直にご一緒させてもらおう。


「お願いします」


という事で一緒に帝国ルツェルンまで行くことにした。


「俺はケイン」

「私はサーニャだにゃ」

「私はシュナだよ」


 自己紹介をし合う。ケインとサーニャか。いい名前だ。


 不意に、木の影から蛇の魔物が出てきた。

「シャーッ」

「あれは…石化蛇メドューサスネークだ!」


 石化蛇メドューサスネークの目から出た光が、ケインの腕に当たる。するとケインの腕が一部石になってしまった。

「クソッ…!」

「大丈夫かにゃっ!?」

サーニャが石化蛇メドューサスネークと応戦しながら問う。

 私も何かしよう。石化蛇メドューサスネークの周りに氷の槍を浮かせ、そのまま勢いをつけて突き刺す。

「ギャアアアアッ!」

石化蛇メドューサスネークは叫んだ後、パタリと倒れて静かになった。


「やったかにゃ…?」

「…やったようだな。助かったよシュナ、ありがとう」

「うん、私は大丈夫」


ケインは石化蛇メドューサスネークの死骸から紫色の結晶を取り出し、皮をはぎ始めた。そして結晶の方を私にくれた。


「魔晶石。やるよ。」

「ありがとう」

『魔晶石はギルドで換金出来ます。』


ナイス補足説明。


「ところでシュナは魔術師ウィザードなのか。」

「まぁ、そんな感じ。ところで…腕、大丈夫?治そうか?」

「何、聖魔法にも精通しているのか?!使い手は少ないというのに。帝国で高い金払って治さないといけないと思ってたから助かるよ」

「う、うん。」


 どうやら本来石化を解くには聖魔法が必要らしい。私は念じるだけで解けるけど。


 ケインの腕に手をかざして、石化を治す。穏やかな光が腕を包み、石化が解けた。


「ありがとう、助かった。お礼と言ってはなんだが、俺の兄弟が出る音楽祭を見ていかないか?チケット用意するよ」

「私の姉妹も出るんだにゃあ」

「え、いいの!?やったぁ嬉しい!」


 そしてなんだかんだで、音楽祭を見に行ける話になった。嬉しい。


「所で今日泊まるところは決まってるのか?」

「ううん、決まってないよ」

「なら私の家に泊まるといいにゃあ」

「え、いいの?ありがとう!」


 正直、宿のことなんて考えてもなかった。最悪神力でなんとかなるし。でもここはご好意に甘えよう。


 少し歩いたら、帝国ルツェルンの門に着いた。

「ケイン殿、サーニャ殿、警備ご苦労様です!そちらは…?」

「連れだ。通してやってくれ」

「はっ。かしこまりました。カードは作っていきますか?」

「カード…お願いします」

「冒険者ギルドで請け負っているので、すぐそこの建物に入ってください」

「ついてくにゃ」

「俺もついてく」


ケインとサーニャは一緒に来てくれるらしい。


「うん、ありがとう」


街に入ると近世の雰囲気の建物が建ち並んでいた。その中の一つに、冒険者ギルドがあった。

ここで換金も行えるらしい。


そして私達はギルドに入ったのだった。

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