無題

角野一樹

第1話

 俺は真っ白な部屋の中にいた。ただそこは、部屋というよりも広場といったほうが正しいのかもしれない。

 その広場には長く、幅も決して狭くはない、"部屋"と同じように真っ白な通路のようなものがついていた。そして、なぜか俺は直感的にその通路は走るためのもの、それも陸上競技の短距離走にように全力疾走で駆け抜けていくためのものであると判った。

 しかし、それと同時にこの先へ駆け抜けていってしまうと死、もしくはそれよりも恐ろしいものが待っているのではないかとも感じた。


 その"広場"に目を向けてみると、そこにはたくさんの人がいて、それぞれが思い思いのことをしていた。何人かで固まって話をしている人、賭け事か何かのゲームに興じている人、ストレッチをしている人など様々である。


 その中で、おもむろに立ち上がって"通路"の方に歩いていく人が一人いた。その人が通路の入り口にたどり着いた時、どこからともなく陸上で使われるスターターピストルを持った人が現れた。そしてその時だった。


『位置について、よーい、ドン』


 そう言ってピストルが鳴らされ、その人は走り去っていってしまった。俺自身は驚いたが、ほかの人たちは一切気にする様子がなく、そのまま思い思いのことをしていた。そのような状況では、とても自分からそのことについて訊けるようなものではなかったので、そのまま深くは考えないようにした。

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