アイドル保険
はた
第1話 あんしんコースさきがけ
「アイドル…保険?」
ある日、マネージャーの酒井さんが、芸能界ならではの…まあ、しきたりのような保険があるとわたしに明かした。
わたしは駒込麗(うらら)。
去年、アイドル事務所クイーンズにスカウトされて、その年には8人組ダンスアイドルユニット「USEFUL」に加入。人気急上昇中の超新星だ。
でも正直、わたしはあんまり乗り気じゃないんだよなぁ。確かに衣装は可愛いかもしんないけど、もっと別の何かを求めてる。
でも、いまさらファンの期待を裏切るわけにはいかないし…。
「うらら?」
「あ、はい、アイドル…保険ですよね?それって何なんですか?」
改めて、酒井さんに聞き返した。
「まあ、言ってみればアイドルはウチの大事な商品でしょ?もし怪我したり、危険な目にあったら大変だから」
なるほど、一般人だったら一生使わない言葉だわ。商品という言い方にはひっかかるけど、疑問はあるにはある。
「そういう事情から護ってくれたり、保証してくれるのがアイドル保険ってわけ」
「それって必ず加入しなきゃいけないんですか?」
「何言ってるの、ウチのメンバーで加入してないのはあなただけよ?今日、来てるから」
「来てる?何がですか?」
「アイドル保険会社の社長さん」
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
わたしはしぶしぶ、日泉アイドル保険の社長さんと面談した。
実を言うと、私の実家は結構、その日暮らしの、しがないラーメン屋。高い保険だとお父さんやお母さん、兄妹にも迷惑かけるかも…。
「うららさん、この度は会えて嬉しいわ。あなたたちは、将来のアイドル業界のトップに立てる資質があると思ってるの」
こちらの方が日泉アイドル保険の社長の清音さん。目を掛けてもらうのは嬉しいけどそれほどかなぁ…。
「まずコースの説明をするわね?」
あ、そんなのあるんだ。本当に保険なんだ。
「一つ目はあんしんコースさきがけ。ウチのエージェントが貴方を必ず、危険から守るの。その分ちょっとお高めのコースね」
「はあ。それってボディーガード…みたいなものですか?」
「そう捉えてもらってもいいわね、他にも病やケガのサポートも入ってるお得なコースね」
「二つ目はなりきんコースうはうは。これにはエージェントは付かないけど、その分、お手当てが一番帰ってくるコースね」
「ほぉ…」
この時はこのコースに魅かれたわたし。これなら何かあっても、家族に還元できるかな?
「三つ目はおためしコースこれから。これはコースさきがけのお試し版ね。その分料金も控えめで」
ふぅん…これもちょっと魅力的だけど、やっぱり家族を思えば二つ目かな。わたしが結論を出そうとしたとき、酒井さんが、
「じゃあ一つ目のさきがけで」
「酒井さん!?」
何、勝手に決めてんのこの人!?人の家庭事情も知らないで!!
「あ、あの!!私の意見は!?そのための場じゃないの!?」
「大丈夫、他のメンバーはともかく、あなたはUSEFULの中でもセンターなんだから、これくらい行かないと」
「いやいやいやいや、大丈夫の意味が分かんないです」
あー…せっかく節約して、家族に仕送りしようと思ったのに。
結局、大人の都合で契約させられてしまった。やっぱり芸能界って怖い世界なのね…。
「…はぁい。これで契約成立ね。執行日は今日からだから」
はやっ!!これから赤の他人がついて回るのか…。ヤな人だったらどうしよう…。
「タツマ。来てるわね?」
「はい」
「うわァーッ!!ビックリしたぁーッ!?」
いつの間にか真後ろに男性が立っていた。黒髪で背も高い。ルックスも私の同業者に負けてないかも…。
「磯島龍間(タツマ)です。今後、ご契約者様のお付きの者として尽力させていただきます。よろしく」
「は…はあ…よろしくお願いします…」
「それじゃあ、あとはタツマが全部やってくれるので」
そう言い残すと清音さんは、扉を開け出ていった。
「私はもう少し仕事があるから。今日はあがっていいわよ」
そして酒井さんも部屋を出た。
「…はー…。何だか矢継ぎ早だったな…」
今後この、えーとタツマさんだっけ。と、行動するのか。カッコいいのは悪くないかも…。
…まさか家までは来ないわよね…?
「…ふー、行ったか」
「へ?」
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