第10話
皆がご飯を食べた後、俺が洗い物をしていると後ろから伊吹さんが来た。
「じゃあ、私帰るから勉強頑張って」
「あ、うん。今日も飯美味かった!ありがとな」
俺が感謝を述べると「そう。どういたしまして」と言ってリビングの方へ向かい、少し2人と喋って玄関の方へ向かって行った。
その後も勉強は続いたが菜々美に「彩斗だけあんなに美味しいご飯はずるい」と何10回も言われた。
そして長かったようで短くも感じた日々が終わり、テスト本番の朝になった。
感覚的に早く目覚めた気がすると思い、携帯で時間を見てみると、まだ5時10分だった。
いつもはぎりぎりまで寝てるからなんか変な感じだ。
2度寝するか。そう一瞬は思ったが、もう1度寝れる気がしてなかったので重い体を起こした。
俺は朝ご飯を食べて、簡単に今日のテストの復習した。
だけど家じゃいまいち集中出来ない。仕方ないのでいつもより家を早く出た。
毎日通る道なのにいつもより静かで、今から朝が始まるような少し薄暗い住宅街をぼーっと感じながら、学校に着いた。
門にも人がいる雰囲気が無く、流石に早く着きすぎたか。
そんな心配をしながらゆっくり下駄箱まで歩く。
すると凄い集中力で教科書を見ている人を見つけて、少しはほっとしたが、あまりの集中力にこっちまで緊張感を持たされた。
うわ、怖えー。
ピりつきすぎだろ。
けどこの人のおかげで何故か集中出来る気がして俺は教室を向かった。
誰も居ない暗い教室に入りテスト勉強を開始する。
するといつもの倍集中する事が出来た。
そのまま机に向き合っているといきなり教室の電気がついた。
「池田くん?早いね。テスト勉強?電気くらい点けてやらてないと目悪くなるよ?」
「…あーごめん。いつもこの時間に来てるの三輪さん?」
「そうだよ。今日人がいてびっくりしたんだから。気合入ってるんだね」
「いや…俺結構やばいからな」
「あはは、そうだったね。前先生に言われてたね」
「みんなの前で言わなくてもいいのにな、あの人」
「でも、こうやってしかっり勉強してるんだから、よかったんじゃない?」
「まぁそうだけどさ」
「私も池田くん見習って勉強しないと。池田くんも頑張ってね」
「うん。お互い頑張ろう」
そう言って再び勉強を開始した。
その後は俺が早く居ることを少しいじられたり、留年するなよ!と声をかけられただけで何事もなく3日間のテストが始まった。
テスト期間の体感時間は物凄く長く感じ、3日間が終わって全てのストレスから解放された。
あーもう無理。死ぬほど疲れた。
この3日間はいつもより遅く寝て、早く起きてたから、思ったより体に疲労が溜まっていた。
今回もテスト後の打ち上げに誘われたが、疲れがピークで何もしたくなかったので、誘いを断ってすぐに家に帰った。
家に帰ると久々に本棚から漫画を取り出して、ソファーに横になりながら読み始めた。
だが読み始めて10分も経たない内に寝てしまった。
どのくらい寝ただろうか。
俺がソファーで目を覚ますと身体の上に毛布が掛けてあった。
なんでだろうと思い。少し周りを見ると伊吹さんが居た。
「やっと起きた。そんなところで何も掛けないで寝てたら本当に風邪ひくよ」
「悪い。てか毛布ありがと」
「疲れてたのはわかるけど次からはベッドで寝てよね」
それだけ言ってキッチンに戻ろうとした伊吹さんだったが、もう一度こっちを向いた。
どうしたんだ?
「テストどうだった?出来た?」
少し心配そうに伊吹さんは聞いてきた。
「流石に全部完璧には出来なかったけど、絶対赤点で無いとわ言い切れるくらいには出来たよ」
「よかった。ここ最近の見てる感じだと、赤点はないと思ってたけど心配だったから」
「本当に伊吹さんのおかげだよ。マジありがと」
「どういたしまして。でもあれだけ教えて赤点ギリギリだったら駄目だから、ね!」
「そっりゃあ勿論」
少し自信が無くなってしまった事は心の中で留めておいた。
そう言って次こそはキッチンに向かって行った。
少しだけ伊吹さんの歩き方が軽やかなのは気のせいだろうか。
土日が終わってテストが返される日になった。
俺の学校は1時間目に全ての教科のテストが返ってきて、1時間目の休み時間に順位が全体の半分まで張り出される。
その順位の確認が出来るように、1時間目の休み時間は30分と長めに取られているとかいう特殊な学校だ。
早く返ってきてほしい人には、いいのかもしれないけど、俺には心臓が悪い。
そしてどんどんテストが返されていく
返される順番が早かった俺は、皆より先に全てが返された。
最後の1枚を返される時に近藤先生から「よく頑張ったな」と軽く声をかけられた。
俺はそれに「どうも」とだけ言い席に戻った。
「彩斗テストどうだった?」
俺は採点ミスが無いか確認していると、和真がこっちに向かって来た。
「全部が過去最高の得点だったわ。和真も勉強教えてくれてありがとな」
「俺は少し教えただけだしな。頑張ったのは彩斗だ。お疲れ」
全員分のテストが返されると採点ミスが無いか確認して、休み時間になると、ほぼ全員が教室を出て、順位が張り出される廊下に向かって行った。
今まで絶対に載ってないのわかってたから、見に行く時の緊張感とか皆無だったけど今回はちょっとだけ緊張する。
絶対載って無いのは分かってはいるが、ワンチャンね。
「彩斗早くしないと全然見れないぞ」
「え?うん、分かった」
そう和真に呼ばれて、慌てて着いて行った。
そんなに混むんだっけ。
慌てて向かったが、俺たちが着いたときには人がいっぱいで、全然見れる状況じゃなかった。
菜々美との合流が遅れたのでそれも影響した。
「うわーこれ相当時間かかりそうだね。早く見たいな!」
ワクワクを隠せてない菜々美。
少しは緊張とかしないのかこいつ。
「てか彩斗はテスト出来たの?ひょっとして後輩に?」
「ならない。でも菜々美も勉強教えてくれてマジ助かった。英語結構自信なかったから尚更」
「ふ~ん。ならよかった」
その後ソワソワした気持ちで見れる所まで待ってると、横から伊吹さんがひょっこり現れた。
「人多すぎない?毎回こんなに人多いの?」
「うん。そうだな。毎回こんなもんかな。みんな順位気になるんじゃね」
順位表をいつも慌てて見に行かないので何となくで答える。
「陽菜子ちゃんは、テスト出来た?」
「…まあまあかな?」
だがその曖昧な答えに和真が突っ込む。
「でも結構クラスで騒がれてなかった?」
「そんなことないですけど」
「あれそうだっけ」
伊吹さんが適当に誤魔化す。その後中身のない会話をしていると、順位が見えるところまで来た。
最初は和真と菜々美が毎回上位なこともあり、前から見ることになった。
順位を前から見ていくと菜々美は6位そして和真は7位だった。
そして伊吹さんはまさかの1位だった。
前が少しざわついてるのはそういう事だったのか。
和真と菜々美の順位は今回も高く、満足する順位だが、伊吹さんの順位を見て目が点になっている。
でも1位って毎回同じ人じゃなかったっけ。
「伊吹さんって、この学校のテスト初めてなんだよね?」
順位を見て驚きを隠せない菜々美が伊吹さんに聞いた。
「うん。初めてだったけど、池田くんに過去問見せてもらってたから問題の感じはわかってたよ」
「でも、授業とか半分も受けてないのに」
少し落ち込んだように菜々美が呟く。
「まじで凄いな」
和真も語彙力が無くなっている。
だが俺はそんな会話を聞き流して1人で自分順位を探しに向かって行った。まぁ絶対無いんだろうけど。
順位表に載れるのは150人までなので今回少し勉強しだけでは載れい事は自覚してる。
無い、無い、無い。100位を過ぎても自分の名前が無いことに「やっぱりな」と呟く。
そして順位を書いてある紙が無くなった。
順位表を見終わり皆の所に戻る。
「彩斗名前載ってたか?」
「載って無かったけどまあ分かってたからな」
「そっかでも、次頑張ろな」
「でも留年は絶対無いんでしょ」
俺と和真が話していると菜々美がそう聞いてくる。
「留年は無いよ。勉強教えてくれて3人ともありがとうな」
そうやって俺が皆に列から離れた場所で感謝を述べていると、何か凄い視線を感じた。
何だ?と思い横を見ると、1人の女子がこっちをガン見していた。
てかあいつどっかで。
「誰あいつ?わかる和真?」
俺がそう聞くと少しだけ言いずらそうな顔をした。
「あーあいつは、毎回1位だった奴なんだけど。多分伊吹さんに負けたから、悔しくてこっち見てるんじゃないかな」
それだからこっち見てるのか。
まぁ気持ちはわからないこともないけど。
その後少しの間こっちを見ていたが、ちょっと目を離したら居なくなっていた。
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