第7話
もう伊吹さんが家に来るようになって3週間が経っていた。
そして結構学校にも慣れてる様子だ。
流石のコミュ力。
俺と伊吹さんは学校で、男子の中なら結構喋る方かもしれない。
まだ3週間しか経っていないが、伊吹さんが家に来るのに違和感を覚えなくなっていた。
違和感がないだけで毎日あんなに美味しい料理を作ってくれることにはものすごく感謝しているけど。
俺がこんな感謝の気持ちを心の中で考えていると、お馴染みのバカップルが教室に入ってきた。
月曜日の朝からイチャイチャしやがって。
「おはよう。彩斗」 「おっは~彩斗」
「おはよう。本日も朝からお熱いようで何より」
「そりゃあ私と和真だから!」
「てか、お前は毎日自分の教室通り過ぎてここまで来るのやめろよ」
「はぁー別にいいじゃん。ね~和真」
「そうだぞ彩斗、なにがダメなんだよ」
自覚ないのかこいつら。
「朝からお前ら見てると胃もたれするんだよ!」
俺が思ったより大きな声で言うと、クラスの奴らから「よく言ったぞ!」「流石彩斗だ!」などと賛助の声が聞こえてきた。
その声を聞いた2人を見ると少し顔を赤くして反省した様子であった。
これで少しは懲りたかな。
昼の時間になり食堂に来ていた。
うちの学校は食堂があり。なかなか広いと思う。
そしてメニューが豊富で、味も良く、値段も安くてご飯も大盛りにを無料で出来る。
でも味は伊吹さんの方が美味い。
俺が鯖の味噌煮を持って席に座り食べ始める。
「最近彩斗よく食べるよな」
ふと和真がそう言ってきた。
「確かに最近量食えるようになってるかもな。今日も大盛りにしたし」
伊吹さんが夜ご飯を作ってくれるから、食べる量が増えて、胃が大きくなったかもしれない。
「確かに!ゾンビみたいに痩せてた彩斗が、多少マシになったかも!」
「お前は黙ってろ。菜々美」
今日は珍しくこいつもいる。
友達が皆風邪で休みらしい。
何でこいつはうつってないんだろう。
「そのおかげで顔色良くなってきてるしな」
顔色が良くなったなと、やたらとクラスの奴からも言われるようになったけど、元々そんなに顔色悪かったか?
毎日スキンケアとかしてたのにな。
「確かに、前より暗い感じ無くなって、和真の100分の1くらいかっこよくなってる気がする」
こいつは褒めてるのかディスってるのかよくわからん。
「あーでも!彩斗体育の時とか眼鏡外したら結構カッコイイってクラスの女子が言ってたよー」
「そんな馬鹿な」
「いやでも彩斗結構イケメンだぞ」
いきなり何故か俺を褒め出して照れくさかったので「早く食わないと俺が食うぞ」と言って話を終わらせた。
昼ごはんを食べ終わり教室に入ると担任の近藤先生が教室に居た。
そして近藤先生は俺の顔色が悪くなるようなことを言ってきた。
「テスト範囲の紙を貼っておくから見ておくように。彩斗お前はしっかり勉強しとけよ」
名指しで言ってきやがったこの先生。
勘弁してくれ。
でも今回のテストは頑張らないといけない。
ワンチャン留年するんだから。
留年だけは何としても阻止しないと。
「わかってますよ」
俺は力の抜けた声で返事をした。
「じゃあ私からはこれだけだ。悪いな、昼の時間に」
そう言って先生は出ていった。
「そういえば前のテストもやばかったんだっけ?」
珍しく優しい声で菜々美が聞いてくる。
「…まあな」
俯きながら言うと菜々美がこんな事を提案してきた。
「じゃあさ今度の土日彩斗の家で勉強会しようよ。いいでしょ和真」
「いや、それ…」
「いいなそれ!彩斗もいいか?」
和真が俺の発言にかぶせて言ってくる。
「…本当にいいのか?」
「当たり前だろ。友達なんだから」
「何めそめそしてるのよ。さっさとテスト合格して遊びに行こう!」
「じゃあ頼むよ。ありがと」
そうして土日に勉強会が開かれることになった。
本当に2人ともいい奴だ。
付き合ってるんだから2人で居たいはずなのに、俺なんかを勉強会に誘ってくれて、もう本当に、泣きそうだよ。
そして今回は絶対に良い点数を取ってやると心に決めた。
だが午後の授業を真剣に聞いたのだがほとんど分からずに不安を残しながら下校の時間になった。
これは…結構まずいかも。
俺は学校を出て携帯を見てみると、伊吹さんからメッセージが届いていた。
内容を見てみると、いつも通り食料の買い出しのことについてだった。
『今日アジの特売みたいだから2パック、それとピクルスも買ってきて。よろしく』
それに俺は「了解」と返してポケットに携帯をしまった。
アジでなに作ってくれるんだろう?
てかピクルスなんか何に使うんだ?
まぁ伊吹さんが作るんだ。
そう期待を込めてスーパーへ向かった。
スーパーに最初に行った時は、どこに何があるのか分からず、物凄く時間がかかってしまったが、今では割と早めに終わらせられる。
伊吹さんに頼まれた物と、土日に家へ来る和真と菜々美に出すお菓子を買って家に着いた。
そして部屋に入ると中から「おかえり」と伊吹さんの声が聞こえた。
その声に「ただいまー」と返してリビングに向かった。
なぜ伊吹さんが1人で部屋の中に居るのかというと2週間前に遡る。
俺が週1〜3でやってるバイトの日、バイトが終わり家に帰ると、玄関の前に伊吹さんがひょこんと座っていたのだ。
「何してるんだよ。こんな寒いのに」
「やっと帰ってきた。何してたの?デート?」
煽ってくるが微か声が震えている。
「んなわけないだろ。それよりなんで」
だが伊吹さんの手元を見てみると食材の入っている袋を持っていた。
それを見て言葉が詰まった。
「…まさか俺が帰ってくるの待ってたのか」
「まぁそんな所」
どう見ても待ってたとしか見えない。
1週間伊吹さんと過ごしてわかったが、可愛い顔して意外とプライドが高い。
だがこれは俺がバイトの事を伝えていなかったのが原因なので、まず謝って冷えた体を温めてもらうために、風呂に入ることを勧めた。
「悪かったな。風邪ひく前に風呂に入って体温めてこい」
そして風呂に入って戻ってきた伊吹さんにもう一度謝った。
「悪かった。バイトがある事伝えてなくて」
「うん。でも私も馬鹿正直に待って池田くんを心配させてしまったからおあいこ。だからこの事は終わり」
「いや、最後にこれ。もうこんなことが無いように」
そう言って渡したのがこの家の合鍵。
伊吹さんは、え!?みたいな反応してる。
まだ会って1週間しか経ってないが、悪いことはしないという確信があったので渡した。
「…信用してくれてるんだ。ありがと。じゃあこれ預かっておくね」
「それと買い物俺が行くよ。荷物重いだろうし」
「それは嬉しいけど買い物とか出来るの?」
少しでも伊吹さんの負担を減らそうと、そう提案したが確かに今までスーパーで買い物をしたことがなく、返答に困る。
「いやまぁ、そこは慣れで」
「フフフッ。じゃあ連絡先も交換しようか。買ってきて欲しいもの連絡するから」
「おう」
そうして伊吹さんに合鍵を渡すだけではなく、連絡先も手に入れたのだった。
少し信頼関係が深まった感じでうれしい。
小中学校の時は、家に帰っても誰も居なかったので、家に帰って「おかえり」と言ってくれるのがこんなに嬉しいとは知らなかった。
ふつふつと心が温まり、安心する感覚がある。
まぁでも伊吹さんが先に家にいるのは、バイトの日と学校がいつもより遅くなった時だけど。
「ところでアジとピクルス買えた?」
「あぁ買えたぞ。ほれ」
伊吹さんに買ってきたアジとピクルスを見せつけると「そういえば池田くんピクルス苦手じゃないよね?」と少し心配そうに聞いてきた。
「ハンバーガーとかに入ってるやつだよね。全然食えるよ」
「うん。ならよかった。じゃあ、買い物ありがとう」
そう言って伊吹さんはキッチンに向かったので、俺も寝室で着替えてリビングに向かった。
そしていつもなら、料理が出来るまで漫画やスマホなどで時間を潰していたが、今日は鞄から参考書を取り出して勉強を始めた。
今回はやばいと言う自覚があり、苦手な数学も手こずりながらも、集中していたので解くスピードは遅いが、何も理解出来ないことは無かった。
「おーい!池田くん、ご飯出来たから運ぶの手伝って」
これはこうか?
何か違う気がする。数字デカすぎね?
ってなんだ?肩に感触が。
「何回も呼んでるんだけど。って勉強してたの。あ、そういえば今日先生に言われてたもんね」
「まぁな、今回は結構やばいから」
「でも、ご飯出来たから片付けてよ」
「うん。悪い」
俺が片付けてキッチンに向かう為に立ち上がろうとすると伊吹さんがテストについて聞いてきた。
「そんなにまずいの?」
「いやーまぁ結構…まずいかな」
「具体的どのくらいまずいのよ?」
「…下手したら留年するくらいです」
俺が少し考え込んだ挙句正直に伊吹さんに伝えると「笑えないわね」と結構青ざめた顔で言ってきた。
「はい。本当に洒落になってないです」
「ご飯食べたら勉強見てあげよっか?」
伊吹さんがそんな提案をしてくれる。
たがあまり多くの人に迷惑かけるのも良くない。
伊吹さんにも進めたい勉強や趣味があると思うし。
「いやでも迷惑じゃないか?」
「別にどうせ私はいい点数取れると思うし」
凄い自信だ。流石転入試験を合格してるだけはあるなと思う。でもうちの学校のテストは結構難しい。いくら転入試験合格してても心配になる。
「本当に大丈夫?うちの学校結構テスト難しいけど」
「大丈夫よ。私の心配より自分の心配しなさい」
伊吹さんに正論を言われると「はい」としか言えなかった。
その後キッチンに着き2人で料理を運んだ。
今日の料理のメニューは、ホウレンソウのおひたし、きんぴらごぼう、みそ汁、それに今日買ってきたアジを揚げたアジフライ、そしてアジフライの横にたっぷりのタルタルソース。
3週間毎日伊吹さんの料理を見ているが何回見ても盛り付け彩りが完璧で本当に食欲がそそられる。
そして2人とも席に着くと同じタイミングで「「いただきます」」と言って食べ始めた。
俺はいつもみそ汁から口に運ぶ。
このみそ汁は出汁が効いていて本当に美味しい。
だがそれは他も同様だ、味の染み込んだホウレンソウのおひたし、程よく辛みが効いたきんぴらごぼう、それに今回のメインである、ピクルスの酸味が効いたタルタルソースがかかっているアジフライ。
酸っぱいものが好きな俺にはアジフライとタルタルソースの相性は抜群だった。
「これ本当に美味い!」
「それ、私の好きなものだから作ったのだけど、池田くんの口にあって良かった」
伊吹さんは嬉しそうに言ってくる。
「アジフライおかわりってある?」
「あははは、ごめんね、おかわりの分作ってなくて。最近の池田くんよく食べるね」
「こんなに美味いとな」
「どうも」
その後もちょこちょこ会話をしながら食べ進めていった。
料理が美味し過ぎてテストのことが頭から抜けていた。
2人も食べ終わって、俺が洗い物を終えると勉強をやる気満々の伊吹さんがリビングで待っていた。
「洗い物ありがと」
「うん」
「じゃあ早くやるよ」
「は、はい。よろしくお願いします」
初めて見る伊吹さん先生バージョンに変に敬語になってしまう。
いつも道理。いつも道理。
そう心で唱えながら勉強が始まった。
最初は少し緊張しながら勉強を始めたが、伊吹さんの教え方が物凄く上手ですぐに集中でき、こんなに分からない事が分かるのって楽しのかと改めて思いなおした。
「思ったよりは出来るんだ」
「伊吹さんの教え方がうまいからだよ」
「そんなことないよ。私ヒント出してるだけだから。だから応用問題になると、そのヒントをしっかりと理解出来てなくなるから、解けなくなるでしょ」
「…確かに」
その後も勉強は続いて行き日付を回る手前で伊吹さんは帰って言った。
最後にこんなことを言って。
「明日からも勉強するから気合い入れてよ」
なかなかの熱血系な伊吹さんに少し怖いと思いつつも教えてくれる有り難さに感謝して「お願いします」と返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます