第5話


伊吹さんが帰った後シャワーを浴びて、もう一度ベットに入りすぐに眠りについた。

 

朝目が覚めると昨日の夜よりは体調は悪くないが、少し身体がだるかったので学校を休むことにした。

スマホを取り出して学校に欠席する連絡を入れる為電話をかける。


「もしもし。1年3組の池田です。少し体調が悪いので休ませて頂きます」


『池田か、大丈夫か?』


「げ!?近藤先生」


『何だその驚き方は?元気そうじゃないか?』


「いやいや。驚いてないっすよ。体調悪いのはガチなんで今日は休ませてもらいます」


『そうか。まぁしっかり休めよ』


少し声のトーンを落として声を掛けてくれる近藤先生。


「はーい。すみません。今日は休みます」


『あ!そうだ』


いきなり大きな声を出す近藤先生。

うるせぇ。

耳が取れるかと思ったわ。


「なんすか?いきなり大きい声出して?」


『今回のテスト良い点数取らないと留年だからな。まぁ前のテストの時も言ったから、大丈夫だと思うけど。勉強しとけよ』


「あはは。分かってますよ先生。そんな心配しないでくださいよ」


『そうか。今日だけはしっかり休んで、早めに勉強しとけよ』

 

「分かってますよー。じゃあ失礼します」


そう言って電話を切った俺だが、なんかすげぇ体調悪くなってきた。気持ち悪い。

テスト?そんなの知らね。寝よ。そうだ寝よう。

自分にそう言い聞かせて寝た。

何故か目元が濡れていたのはあくびだと思おう。



昼過ぎに目を覚ますと、体調も問題無くなっていた。

スマホを見てみるとクラスの何人からrineが来ていて。

もう大丈夫と返信しておいた。



夕方から勉強して2時間くらい経過していた。割と絶望しているとインターホンが鳴った。

多分伊吹さんだよな?と少し疑問を持ちながらモニターを見るとやっぱり伊吹さんだった。


「もう体調は大丈夫そう?」


伊吹さんは心配そうに聞いてくる。

なのでいつもより声のトーンを上げて返事をした。


「うん!もう元気、元気。もう大丈夫です」


「なら良かった。じゃあお邪魔します」


少し安心した表情で行ってくる伊吹さん。

??待て待て待て。

お邪魔します?


「待て待て。何で??」


「何でって昨日言ったこと覚えてないの?」


「いや覚えてるけど…俺の部屋で作るの?」


「そりゃそうでそ、でしょ。そっちの方が楽じゃない」


噛んでしまった瞬間にぷいっと目を逸らす伊吹さん。そして少しだけ恥ずかしそうな顔をしながら続けた。


「でもほぼ初対面の男だぞ俺。それは分かってるよね?」


「そんなこと分かってるわよ。もし危なそうだった叫びながら蹴り飛ばして家から逃げるから大丈夫よ」


 そんなボコボコにするの?


「いや変なことはしないし大丈夫だけどさ」


俺が心配そうに言う。


「大丈夫よ。私、人を見る目だけ自信あるし。他の人の部屋に2人きりで入ること無いから」


それはどういうこと?と聞こうと口から出す瞬間に答えが返ってきた。


「お隣さんが倒れるような人じゃなかったらね!」


「ですよねー」


そう言って伊吹さんは部屋の中に入っていった。




やっぱり伊吹さんが部屋にいると凄く緊張する。

部屋に来てから大体30分が経っている。

伊吹さんは白黒のエプロンを着てキッチンで料理をしている。

そして俺はさっきまでやっていた勉強の続きをやろうとしているが、全然集中出来ずにいた。



それから何分経っただろうか。

伊吹さんが「出来たから運ぶの手伝って」と声を掛けてきた。


「おっけー」


そう返事をして、俺は勉強道具をすぐ片付けて、伊吹さんの居るキッチンに向かった。

出来上がった料理を机に並べると、向かい合うように座った。


「今日は消化にいい物にしたから」


机に並べられた料理は、かき卵うどんと鶏肉と人参と大根を使った煮物だった。

かき卵うどんは、卵がうどんを隠すくらいふわふわになっていて、煮物は全体にしっかり味が染み込まれているようで、食欲を誘う匂いがした。


「まじで美味そう」


俺は勝手に口から言葉が漏れていた。


「何見入ってるの早く食べよ」


「確かに冷めちまうもんな」


2人で頂きますをして食べ始めた。

うどんを口に啜ると、ふわふわの卵と出汁、そして少しの生姜の香りが口の中で広がり、うどんの専門店で食べるような味だった。

鶏肉と人参と大根の煮物は、何でこんな短時間で味か染み込んでるのか分からないくらい染み込んでいて、噛むと染み込んでいるタレが味覚を刺激してまじで美味しい。


「まじで美味すぎる」


俺がそう感想を言うと、伊吹さんはこれくらい普通よ見たいな顔をしながらも、少しだけ笑って「ありがとう」と言ってきた。



2人とも食べ終わると、少しだけ今日の学校の事を聞いた。その話が一段落すると伊吹さんが「洗い物したら帰るね」と言ってきた。

流石にご飯も作って貰って洗い物もしてもらうのは良くない。


「洗い物くらい俺がやるから帰って大丈夫だよ。洗い物くらいさせてよ」


「そう?じゃあお願いするね」


「うん。おけ洗い物は任せろ!てか今日の料理美味かった。ありがとう」


「じゃあまた明日ね」


「また学校でな」



昨日昼過ぎまで寝ていたから、少し寝るのが遅くなったが寝溜めのお陰が中々に寝起きが良かった。

軽く寝癖を直し化粧水と乳液をして歯を磨いて学校に行く準備をする。



学校に着くと和真は朝練なのかまだ教室には居なかった。

伊吹さんの周りには人が多く居た。


「彩斗〜体調大丈夫か?」


教室に入り少しだけ中に進むと桜井から声を掛けられた。


「おう。全然大丈夫だったわ」


本当は全然大丈夫じゃないんですけどね。


「それなら良かった」


「心配をかけて悪いな」


「気にすんな。それと次はカラオケ来いよ!」


「あ、うん。行けたら行くわ」


「うわ!それ来ねえ奴じゃん」


大きな声で、桜井と会話をしながら、席に向かって行く途中で「何が大丈夫だったの?」と小声で圧をかけられた気がしたが、無視して席に座った。


 


 






 











 



 




























 「伊吹さんそういえば俺が気絶する前に貰ったタッパーどう

した?」


「あれ、冷蔵庫に入れさせてもらったよ」


「よかった。そういえば中身なんだったの?」


俺はタッパーを貰っただけで、中身を知らずに気絶してしまったので気になって聞いてみた。


「唐揚げだけど、苦手じゃないよね」


唐揚げが苦手。そんな男は俺は見たことが無い。


「今から食べてもいい?」


俺は我慢が出来なくてそう聞いてしまった。


「駄目です。今から雑炊作るからそれを食べてください。それと気にしないで、今日特別に唐揚げのお弁当を作ってあげる」


「いや流石、それは悪いよ」


「いいの余ったら捨てるだけだし、食べて 」


捨てると言われるともったいないので断りずらく俺は「じゃあお願い致します」と頭を下げた。


そうして伊吹さんは「キッチン借りるね」と言って部屋の外に出ていった。

そして部屋の中が静かになっていくと、俺はまだ夢の中にいる気分だった。

昨日初めて会った美少女に看病されて、しかも今さっきまで同じ部屋に居て、しかもこれからご飯を作ってくれると言う。

出来すぎてる気がする。


俺がそんな思考を巡らせていると、また部屋の扉が開いて伊吹さんが雑炊の入った土鍋を持ってきた。

開ける時くらい教えてくれたら開けたのに。


「熱いから気おつけて食べてね」


そう言って伊吹さんは俺の前に土鍋を置く。

そしてその土鍋を上から覗き込むと、鼻の奥までカツオの出汁が広がり、しかも米は立っていて、色々な野菜で見栄えも良く体に良さそうで、俺の食欲が最大限まで高まった。


「本当に池田くんは何も作って無いのが一目でわかる冷蔵庫だったよ。私の家が隣だったから良かったけど、何も無さすぎてお粥になる所だった」


「え?てことは伊吹さんの家から材料持ってきたの?」


「ええ、そうだけど」


「じゃあ材料費は払わないと、後で渡すから忘れて帰らないでよ」


「別にいいわよ。これはお隣さんさんの好でやってあげてるだけだから」


「……何で昨日会ったばかりの俺にこんなに優しくしてくれるの?」


もう普通に疑問だった。


「こんな不健康な同じクラスの同級生がいたら少しは心配になるの。目の前で倒れるし」


「…その節はどうもすいません」


「まぁそんなことはいいから冷めないうちに食べて」


「じゃあ材料費の話は後にして、いただきます」


そう言って食べ始めた。

熱いのに食べるスピードが落ちるとことなく食べ進めてお腹が空いてたのもあって5分くらいで食べ終わってしまった。


「本当に美味しすぎる。人生で1番美味しかった」


「大袈裟だよ」


大袈裟では無い。

今まで生きてきて、ろくな食べ物を食べて来てなかったので、本当に伊吹さんの作った雑炊が人生で一番うまかった。


「こんなに美味しいもの毎日食べていいの?」


本当は断るつもりだったのだが、こんなに美味しいものを食べてしまったら、口から勝手に毎日食べていいのと聞いてしまっていた。


「池田くんはお世辞が上手いのね」


「お世辞とかじゃなくて本当に美味しいんだって」


もう伊吹さんの作った料理しか食べれないくらい。


「そんなに褒めないで流石に照れちゃう」


少し照れていて、頬がピンク色に染まっていて凄く可愛い。

そんなことを言われて俺は何も言えなく、少しの間沈黙ができた。

それに耐えれなくなったのか伊吹さんが「じゃあお弁当作るから帰るね」と言って部屋を出ていった。


「うん。今日はありがとう」


そうしてこんなような夢の時間は、あっという間に終わりを告げた。



朝7時頃になると家のインターホンが鳴った。

あ、伊吹さんか。

昨日はいきなりで驚いてしまったが、今回は2回深呼吸をしてしっかりと心の準備をして玄関の扉を開けた。

だが俺の心の準備は無意味だったようだ。

目の前には制服姿の伊吹さんが立っていた。


その伊吹さんはスカートを少し短めになっていて、髪の毛をしっかり整えてあり、改めて見ると本当にスタイルが良い。

俺には朝から刺激が強すぎて玄関で固まってしまった。



「何ジロジロ見てるの?」


「あ、ごめん!」


俺は慌てて横に目をそらした。

しまった。あまりに可愛すぎて伊吹さんの事を見すぎた。

嫌われたかもしれん。

これはいち早く弁解をしないと!と思い、もう一度伊吹さんの事を見ると弁当を前に差し出していた。


「じゃあ、これ約束のお弁当」


それだけを言って伊吹さんは足早に部屋に戻って行った。

それを見届けて玄関の前で固まってしまった。

終わった。

やってしまった。

後悔の言葉が次々に頭に浮かぶ。

完璧に嫌われたなこれ。



俺は朝から最高の経験と最悪な経験をしてしまって何とも複雑な気持ちで学校に着いた。

そして教室に入り恐る恐る伊吹さんのいるところを見ると、普通に周りに人と話していた。

朝の事はあまり気にしていなそうだ。

良かった。

俺はほっとして昼の弁当のことが凄く楽しみになってきた。



そして待ちに待った昼休みの時間がやってきた。

だがここに来て重大なことに気が付いた。

昼の時間はいつも購買でパンを買っていたのに、いきなり弁当なんて持って来てたら流石に和真が怪しむよな。

どうしよう。

そうするとタイミングよく和真が声をかけてきた。


「彩斗?買いに行かないのか?売り切れるぞ」


「今日はあれだ、弁当があるからパン買いに行かなくていいんだ」


なにも誤魔化し方が思いつかず正直に言ってしまった。


「彩斗が弁当!誰に作ってもらったんだ?」


まあ、そりゃそうなるよな。

もう適当に誤魔化すしかない。


「お隣さんに作ってもらったんだよ」


別に嘘は言ってない。


「お隣さん?女の人か?」


「そうだけど…ただのお隣さんだよ」


我ながら嘘丸出しな言い訳だがもうこれで押し切るしかない。


「ふ~ん、普通はただのお隣さんなんかに弁当んなんかつくらないけどな」


和真は含みのある言い方でこっちを見てくる。


「うるさい。もう食うぞ」


「へいへい」


何とか和真からの追求をおえて、まあ完全に怪しんでるけど。

だけどいったんそのことは忘れて俺は弁当を開けた。

そして中身は唐揚げを中心として、卵焼き、ほうれん草のおひたし、赤ウインナー、そして梅で味付けされたパスタが入っていた。

本当に美味しそうだ。


「お、マジで美味そう、羨ましい」


「うるせい彼女持ち。菜々美ならと弁当作ってくれるんじゃね」


「う、唯一の菜々美の弱点を突くなよ。菜々美も料理頑張ってるんだから」


そう菜々美は料理がとてつもなく苦手なのだ。

昔弁当を菜々美が持ってきた時は、菜々美自身がドンびく味だったからな。

その後和真が懸命にフォローして、立ち直りはしたが、それ以来菜々美が弁当を作ってくることはなかったんだよな。


「いつもお前らの惚気話聞かされてるからな、その仕返しだ」


こういう時しかやり返せないからな。

そう言うと、和真がやられた。という顔をして少し気持ちよかった。



そしてその後は喋りながら食べていると和真が俺のことを何故かガン見してきた。

正直きもい。


「何見てるんだよ?なんかついてるのか?」


「いやな、美味そうに食べるなと思って」


は?何言ってるんだこいつは?


「美味いんだから当たり前だろ」


美味い物を美味そうに食う。

当たり前だろ。

だが和真は少し驚いた顔をして「そういう事が簡単に言える所が彩斗のいいところなんだろうな」と何やら照れくさい事を言ってきた。

だが俺はその和真の言葉を聞き流した。

少し照れ臭かったし。

だけど手作りの弁当ってこんなにうまいのか。

正直なめてたなこれは。



 本編


「彩斗体調大丈夫か?」


朝学校に来ると真っ先に桜井から声をかけられた。


「おう。全然大丈夫だったわ」


本当は全然大丈夫じゃないんですけどね。


「それなら良かった」


「心配をかけて悪いな」


「気にすんな。それと次はカラオケ来いよ!」


「あ、うん。行けたら行くわ」


「うわ!それ来ねえ奴じゃん」


大きな声で、桜井と会話をしながら、席に向かって行く途中で「何が大丈夫だったの?」と小声で圧をかけられた気がしたが、無視して席に座った。





 


 


 


 






 

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