第百九十八話 食えるか、食えないか。それだけだ

 さて、俺の件が落ち着いたところで。

 想定していたよりも長く休憩してしまったので、すぐに聖さんのダイエットが再開となった。


「ひ、ひめちゃん……そろそろきゅーけーにしない? もう、足がぼーになっちゃったなぁ」


「まだ五分しか歩いていませんよ。足が棒になるには早いです」


 ダイエットとは言っても激しい運動はしない方針らしい。広い公園内は三人でのんびり歩いている。

 ウォーキングにしても、ペースは少し遅い。八歳のひめはどうしても歩く速度が遅いので、そちらに合わせてゆっくりになっているのだ。


 それでも、聖さんはもう疲れたらしい。


「うぅ……クーラーはどこ? 暑いよぉ。このままだと丸焼きになっちゃう……」


「お姉ちゃんを焼いたら美味しそうですね」


「どういう意味!? 私のお肉は脂がのってて美味しいってこと……? どうなの、よーへー!」


「なんで俺に聞くのかなぁ」


 ひめが言い出したから、俺には関係ないのに。

 ……まぁ、たしかに三人の中で誰が美味しそうか考えたら、たしかに聖さんかもしれないけど。


 それを言ったら聖さんが拗ねると思うので、何も言わないでおいた。


「三十分は歩きたいですね」


「さんじゅっぷんはムリでーす」


「……十五分にしましょうか」


「じゅうごうふんもイヤでーす」


「わがままばかり言ってると、また陽平くんが痛い思いをするかもしれませんよ?」


「……ご、ごめんなさい」


 聖さん、先ほどの件を深く反省しているらしい。その一件を出されたらすごく申し訳なさそうにしていた。

 もう全然気にしていないのだが、十五分くらいは歩いた方が健康的だろう。そういうことで、もうしばらく歩き続けた。


「あっちの池にいる鯉って食べられるのかなぁ」


「鯉は下処理が大変と聞きますね」


「あ、鳩さんだ。鳩って食べられるの?」


「野鳥を捕獲して食べることは法律で禁止されているのでダメですよ。海外では食べるところもあるみたいですが」


「ふーん。あ、セミさんだ。あれ、揚げたら美味しいらしいよ~」


「聖さん……お腹空いてるの?」


 さっきから食べ物の話ばかりである。

 視認できるものを食料か否かで分類しているのだろうか。それにしては、ラインナップが特殊すぎる……鯉はまだ分からなくもないけど、鳩と虫までそういう目で見ているとは思わなかった。


 まぁ、たくさん食べる人は好きだ。

 好き嫌いが激しかったり、必要以上に減量している人が悪いというわけじゃないけど、個人的には健康的に食べている人が良いと思っている。なので、聖さんのスタンスは決して嫌いじゃない。


 ただ、夏休み前はちょっとお菓子を食べすぎていたので、それは健康的と言えないだろう。お菓子を持ってきていたのは俺だし、実は責任も感じている。

 なので、聖さんのダイエットにも付き合っているというわけだ。もちろん、自分自身も引きこもっているので、運動不足の解消という意味もあった。


 これくらいのウォーキングは、聖さんだけじゃなくて俺にとってもいい運動になっている。

 そんなことを考えながら、歩いていると。


「……陽平くん、ちょっといいですか?」


 ひめが足を止めて、それから俺の手をちょこんと引っ張った。

 どうしたのだろう? 俺も足を止めて、ひめの話に耳を傾ける。


「いきなりで悪いのですが、抱っこしてもらってもいいですか?」


 そして、突如として出された提案に、俺はポカンとしてしまうのだった――。

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