第百六十二話 なんだかんだ二人とも楽しみで早く来た模様

 少し、気合が入りすぎていただろうか。

 予定していた三十分前にはもう、約束の場所に到着してしまった。


(思ったより近かったなぁ)


 やってきたのは、市内で一番大きな図書館。

 俺の家からバスで移動しないと来れない場所である。実は初めて来る場所なので、時間に余裕をもたせたのだが……それにしても、早く到着した気がする。


 まぁ、待つことはそこまで嫌いじゃない。

 アクティブな人間ではないせいか、ぼーっとしているのは得意だ。ちょうど、図書館の入り口付近にはベンチが何個か設置されている。そのうちの一つに座って待っていよう。


 と、そんなことを考えながら腰を下ろす。

 スマホでネットニュースを眺めながら、時間をやりすごそうと思った矢先。


「あ、陽平くんです。こんにちは」


 わずか五分後のことだった。

 ふと声が聞こえて、顔を上げた。


 そこには白銀の少女がちょこんと立っていた。


「陽平様、どうも」


 その隣には、メイド服を来た子供……じゃない。

 小柄だけど立派な大人である、芽衣さんもいた。あれ? 芽衣さんがいるのは聞いてなかった。でもまぁ、一緒にいても全然気にはならないのでいいか。


「こんにちは……って、早いね」


「それはこっちのセリフよ。陽平様だって早いわ」


 たしかに。むしろ二人からすると、俺の方が早すぎるのか。


「初めて来る場所だから、迷ったらどうしようと思って早めに出ただけだよ」


 想定以上に移動がスムーズだったおかげで、早く到着した。

 まぁ、結果的に二人を待たせずにすんだので良かったと思う。


「陽平くんを待たせるわけにはいかないと思って早く家を出たのですが、それは失敗しちゃったようですね」


「いやいや、別に待つくらい気にしないのに」


「年下ですから」


「年齢なんて気にしてないよ。次からはゆっくり準備していいから」


 いい子だなぁ。本当に。

 でも、気を遣わないでもいいよとは言っておきたかった。堅苦しい関係性ではないし、遅刻したって大丈夫と思ってくれていた方がこっちも気楽である。


「……陽平様、ただの方便だから気にしなくても大丈夫よ。ひめお嬢様は楽しみでそわそわして待ちきれなかっただけだもの」


「芽衣さん、それは内緒でお願いします」


「口が滑ったわ。陽平様、今のはなしで」


「もう聞いちゃったからなぁ」


 なるほど……いい子である上に、ひめはとにかくかわいいだけだった。

 気を遣ったわけじゃなくて、待ちきれなかっただけらしい。それならまぁ、いいのか。


「早く来たのはたまたまよ。道が空いていただけ、といいうことにしておくわ」


「はい。そういうことにしておいてください……陽平くんも、あまりジロジロ見ないでください。恥ずかしくて目が合わせられません」


 ひめがもじもじしながらそっぽを向いた。

 そういう仕草も愛らしい。でも、困らせたいわけじゃないので、言われた通り少しの間は目をそらしておこうかな。


 その代わりに、今度はメイドさんの方に目を向けた。


「芽衣さんが送ってくれたんですね」


「ええ。帰りも迎えに来るわ」


「……あれ? 図書館には一緒に来ないんですか?」


 てっきり付き添いかと思ったのだが、そうではないみたいだ。


「陽平様が来るまで、一緒に待っていようと思ってただけよ。それに、この格好だと目立つから長居しないわ」


 たしかに、メイド服はよく目立つ。

 今も、図書館に出入りする利用者にジロジロと見られていた。まぁ、芽衣さんは見た目が幼いので、子供とみられているのか周囲の目も微笑ましいのだが。


「そういうわけだから、一旦帰るわ。ひめお嬢様、帰宅の際は連絡お願いね」


「はい。送ってくれてありがとうございました」


「陽平様、ひめお嬢様をお願いね。じゃあ、また後で」


 と、いうことで芽衣さんはくるりを背を向けて歩き去っていた。

 後には、俺とひめだけが残された――。




//あとがき//

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