第百二十九話 幼女をペットはまずい

「にゃぁ」


 ひめが猫のポーズで鳴いている。

 それを見て、息が止まった。


(か、かわいすぎる……!)


 あざとい。でもよく似合っている。

 なるほど。たしかにひめは猫……いや、子猫っぽい気がする。


 最初は警戒心が強くて、こちらの様子をしばらくうかがっていた。

 しかし一度懐いたらそれからはずっと近くにいてくれる。遠く離れると寂しがるところも、子猫っぽい。


 表情は大きく変わらない。しかし、こちらに関心がないのかなと思って別のことを始めたら、構ってほしそうにすり寄ってくる……そんなひめを思い出した。


「にゃー……ねこちゃんです。いかがですかにゃ?」


 冗談、なのかなぁ。

 相変わらず表情はそこまで動いていない。真顔で猫のように手をこまねいて、それからぐっと身を寄せてきた。椅子に座る俺のひざに座って、今度は胸元にすりすりとほっぺたをこすりつけてくる。


「陽平くん、飼ってみませんか? にゃー」


 あ、あざとい……!

 でもめちゃくちゃかわいい。こういう時、俺も男子なのだと実感する……かわいい仕草に心臓が射抜かれていた。


「――飼うっす! ワン!」


 あまりにもひめが可愛かったせいだろう。

 たまらず、柴犬がひめを飼おうとしてきた。あ、間違えた。柴犬じゃなくて久守さんである。


「久守さんはダメです。陽平くんがいいので。にゃー」


「つ、つれない態度も素敵っすね……じゃあ、あたしを飼ってくださいっす! ワンっ」


「わたしは飼いたいのですが……陽平くん、いいでしょうか?」


 ……ん???

 何の話をしているのか分からなくて混乱してきた。


 話を整理しよう。まず子猫のひめが俺のペットになろうとしていて、そのペットに柴犬の久守さんがなって……つまり、ペットがペットを飼うことの許可を求められている、ということになるのか。


「ちゃんとお世話するので許してください。にゃー」


「お願いっす! 大空先輩、外で放し飼いでも大丈夫なんでっ。ワン!」


 ……あと、その取ってつけたような語尾も混乱の大きな要因なんだよなぁ。


 こちらは分かりにくいというか、単純にかわいすぎて困っているだけだが。あ、もちろん久守さんじゃなくて、ひめである。久守さんも魅力的な人なのだが、俺はもう少し落ち着いた人の方が――って、そんな話はさておき。


「ひ、ひめは大切な友達だから……ペットではちょっと物足りないかな」


 ひとまず、彼女の子猫化をやめてもらわないといけない。

 可愛すぎて会話がままならなくなるので、どうにか制止を試みた。


「つ、つつつつまり恋人ってことっすか!? マジの年の差ラブロマンスじゃないっすか……こ、こここれはスクープっすよ! 記事にするのがもったいない大事件じゃないっすか!? 大丈夫っす、ちゃんとあたしの胸の内に秘めておくのでどうぞ恋愛はご自由に! 年齢なんて関係ないっすよ、愛さえあれば!!」


 ひめを落ち着かせようと思ったのに、なぜか久守さんが暴走した。

 ……この人が来てから話がおかしな方向になってるんだよなぁ。久守さんって結構はちゃめちゃな人な気がする。


 いい子であることは間違いない。今だってスクープを見つけたのに、公表せずに内緒にすると言ってくれていた。これで安心してひめと恋人になれる……と思っているのなら、まずそもそもそういう関係性ではないと気付いてほしいけど。


「大切な友達……えへへ」


 そしてひめはふにゃふにゃになっていた。

 久守さんの発言はたぶん聞いていない。俺に大切な友達と言われてすごく嬉しそうである。


 と、とにかくこれでひとまず子猫化は解けたみたいなので、良かった。

 これでもうドキドキしなくてすみそうだ――。

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