第百十七話 異世界に行っても活躍する系のお姉ちゃん

 大空日向。27歳既婚。学生時代は拳一つで悪ガキどもを全ていた武闘派。ちなみに子供の頃から極真空手をやっていてめちゃくちゃ強い。しかし高校三年生の頃に普通の男子生徒に恋をしてヤンキーを卒業。付き合ってから結婚するまでそこから二年。今は一児の母であり、スーパーの従業員として働いている。


 そんな姉は今、ひめを抱きしめて興奮していた。


「お人形さん? それとも天使? もしかして妖精!? 嘘だろ、心陽と同じレベルの美幼女がこの世に存在したのかよ……信じられない」


 姉さんは親バカである。心陽ちゃんのことを世界で一番かわいいと豪語している。目に入れても可愛くないと本気で言っており、我が子を溺愛している。


 なので、心陽ちゃんと同じくらい可愛い、は姉さんにとって最上級の誉め言葉だろう。


「んっ……?」


 さすがのひめも、抱き上げられて大声を出されたせいで起きたようだ。

 眠そうな目をくしくしと擦って、それから自分が抱き上げられていることと、知らない人にめちゃくちゃ見られていることに気付いたらしい。


(ひめ……人見知りしないかな?)


 少し不安になった。うちの姉は武闘派特有の圧がある。腕っぷしが強いので、最悪殴ればいいと思っている節がある……純粋な意味で、弱肉強食の世界において強者のオーラをまとっているのだ。異世界とかに行っても普通に戦えるタイプである。


 そんな暴力的な雰囲気に、ひめが怖がったりしないか心配していたのだが。


「……陽平くんに似てます」


 心配は杞憂だった。

 姉さんを見ても怖がることはなく平然としている。あまり表情は動いてないが、ひめの基準で考えるとかなり表情が明るい方ですらある。


「もしかして、陽平くんのお姉ちゃんですか?」


「――そうだよっ。よーくんのお姉ちゃんの日向っていうの!」


「日向さん……陽平くんと同じく、太陽に関連したお名前ですね。素敵です」


「そ、それで君のお名前は?」


「星宮ひめです。よろしくお願いします」


 ひめの意識が覚醒したから、だろうか。

 少し姉さんの態度が落ち着いてくれたように見える。さっきまではしゃいで声も大きくなっていたが、ボリュームも少し下がっていて良かった。


「や、やべぇ……可愛すぎる」


 訂正。落ち着いたと言うか、ひめの可愛さに悶えているだけだなこれは。

 とりあえず姉さんが少し遠慮している間に、ちゃんと俺も話に割り込んでおこう。


「ひめ、寝起きで悪いけどこれがうちの姉さんだよ」


 ひめの背中に向かって声をかける。ついでに姉さんからひめを取り返そうとしたのだが、心陽ちゃんがまだ俺の膝を枕にして寝ているので動けないのが残念だった。


 まぁ、流石に急に抱きしめたりはしないだろう。姉さんは子供には優しいのでたぶん大丈夫……と、信じよう。


「やっぱり、そうなのですね……目元が似ていたのですぐに分かりました」


 うーん、似てるかなぁ?

 正直なところ、今まで姉弟で似ていると言われたことは一度もない。姉さんは両親の良いところが遺伝したのかのか美人なのだが、俺は地味なところを遺伝して凡庸なのである。


「あと、雰囲気も似ています……あ、日向さん? 下ろしてもらったもいいでしょうか。陽平くんの顔が見えなくて」


「おっと。そっか、ごめんごめん! よーくんの顔が見えた方がいいよねっ」


「はい。陽平くんとはちゃんと目を合わせてお話したいので」


「……よーくん、めっちゃ懐かれてるじゃん。心陽といい、あんたって子供たらしだね~」


 子供たらしって……聖さんにも似たようなこと言われたなぁ。

 別にそんなつもりはないのだが。


「えへへ。陽平くんにたらしこまれてしまいました」


 ひめはどうして、嬉しそうにそんなことを言うのか。

 まぁ、笑顔が可愛いからいいんだけど。


「かわっ……!?」


 そして姉さんもひめの笑顔を見て興奮していた。

 さすが姉弟だなぁ。俺と感性も近いのか、ひめの可愛さに悶えているみたいだ――。

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