第百六話 椅子になるのが上手な男子高校生

 たぶん、心陽ちゃんが『俺の膝に座ろう』とひめに提案したのだと思う。

 この子はいつもこうやってくっついてくるのだ。まぁ、今日は二人いるのでちょっと遠慮して、膝の中央ではなく端っこに座っているけれど。


 ひめのこと、よっぽど気に入っているのだろうなぁ。

 自分のスペースを半分譲っている心陽ちゃんを見て、ちょっと嬉しくなってしまった。


(友達には、こうやって優しい子なのかな?)


 気に入った異性にのみ、めんどくさくなるタイプなのかもしれない。

 姉もそういえばそんな感じだった気がする。彼氏には愛が重かったものの、弟の俺や周囲の友達には優しかった。その血が心陽ちゃんにもちゃんと流れているようだ。


(それにしても……軽いなぁ)


 こうしてみると、二人って小さいんだなぁ。

 両ひざの上に座っているひめと心陽ちゃんを見て、そんなことを思った。


 何せ軽い。二人の体重を支えてもそこまで大変ではない。

 長時間この姿勢を維持するのは難しいかもしれないが、おやつを食べる間くらいなら全然余裕そうだった。


「よーちゃんはすっごくいすがじょーずなんだよっ」


「はい。心陽さんの言う通りでしたね……座り心地がいいです。最上級の椅子だと思います」


 いや、椅子じゃないんだけどね?

 家具のように扱われていることに若干の不満はあるものの、とはいえこの状況は嫌いじゃないので何も言わずに受け入れた。


 まぁ、心陽ちゃんはいつもこんな感じなので、慣れているというのも理由の一つである。

 それから更に、ひめがとても嬉しそうなので、嫌がる気持ちになれなかった。


「陽平くんのおひざの上……えへへ」


 教室でもよく授業中にひざの上に座っていたけど、この位置はやっぱり落ち着くのかもしれない。

 こんな顔をされては、当然ながら下ろすなんていう選択肢が生まれるわけない。このままの状態でおやつを食べることにした。


「いただきまーすっ」


 心陽ちゃんは早速お菓子を食べ始めていた。

 コンソメ味のポテトチップスが既に開封されてある。その隣にはとんがったコーンもある。二つも食べきれるのかな……まぁ、三人いたら大丈夫か。


「よーちゃん、こはるは黒いのがいいっ」


「はいはい。飲み物ね」


 心陽ちゃんの要望通り、プラスチックのコップに黒い炭酸ジュースを入れてあげる。次に左ひざにいるひめに視線を向けて、どっちを飲むのか聞いてみた。


「……わたし、どちらも飲んだことがありません」


「え? そうなの?」


 ひめ、ジュースも飲まないタイプなのか。

 そういえば俺と出会うまでお菓子も食べたことがないと言っていたので、ジュースも同じようなものか。


「基本的にスイーツやジュースは芽衣さんが作るか、注文してくれますので……市販のものはあまり食べたことがないです。ケーキやクッキー、紅茶やフルーツジュースなどは食後に嗜むのですが」


 なるほど。そういうことだったんだ。

 今日もクッキーを持ってきてくれているし、普段は芽衣さんが色々と用意してくれているのだろう。


 お菓子は食べすぎると害もあるので、健康に気を付けるなら頻繁に摂取しない方がいいのかもしれない。

 まぁ、俺は毎日食べちゃうんだけど……自重しないとなぁ。


「ん~っ。やっぱりポテチにはこれだねっ」


 ただ、今日だけは健康のことなんて忘れていいのかもしれない。

 心陽ちゃんも、普段は姉に制限されているらしいが、今日は自由を許されているらしい。ポテチに黒い炭酸ジュースという悪魔的組み合わせに舌鼓を打っていた。


 まぁ……たまにはこういう日があってもいいだろう――。





//あとがき//

お読みくださりありがとうございます!

もし良ければ、フォローや下の『☆☆☆』レビュー、コメントなどいただけますと、今後の更新のモチベーションになります。

これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る