第四十七話 懐も胸も大きい

 聖さんの表情がどこか怖い。

 いつもほんわかしていて、ゆるゆるな空気を漂わせる彼女なのだが……今は俺のことをジトっとした目で見ていた。


「少し、気になってはいたんだよね」


 聖さんは、正座している俺を見下ろしながらぽつりと呟く。

 そのせいでさっきからずっとふとももが目の前にあって、目のやり場に困った。


 どうしよう。とりあえず、床でも見ておこうかな。


「よーへーって、私よりもひめちゃんとお話している方が楽しそうだなぁって」


「そんなことないと思うけど……」


「いや、そう見えるよ。だって、今もほら……私と目を合わそうとしないもんね」


 それにはちゃんと事情があるわけで。

 ふとももが見えすぎるとか、ワイシャツの丈が短くてお腹あたりがチラチラ見えるとか、胸元付近がすごくパツパツとか……もちろん、言えないんだけど。


「私のこと、興味ないんでしょ?」


 ただ、聖さんは俺が目を合わそうとしないことを曲解している。


「なぜならよーへーは、ちっちゃい方が好きだから」


「……誤解だと思う」


「誤解なんかじゃないでしょ? だってよーへーは、小さいチョコパイの実が好きって言ってたよね? それはロリコンさんだからでしょ?」


「それはどうなんだろう?」


 発想が飛躍しすぎてるような。


「……やっぱりおかしいよ。ねぇ、よーへー? 私ね、Gカップあるの」


「え? な、なんで急に?」


 いきなり胸のサイズを言われても、困る。

 どうリアクションしていいか分からなかったので俯いたままでいると、聖さんがしゃがんで俺の顔を覗き込んできた。


「Gカップなんだよ?」


「……そ、そうなんだ」


「どう?」


 ぐいっと、胸を強調するように見せつけてくる聖さん。

 腕を組むようにして持ち上げているせいか、いつもよりボリューム感がすごい……そしてやっぱり見ていられないので、今度は横に視線をそらした。


「どうって……大きいな、と」


「それだけ?」


「それ以外に何かあるの?」


「……ほら、やっぱり」


 今の応答で何を確認したのだろうか。

 聖さんは呆れたようにため息をついて、再びゆっくりと立ち上がった。


 もう一度俺を見下ろして、彼女は小さくため息をつく。


「男の子って、大きい方が好きなんだよね?」


「まぁ……一般的には」


「うん、だから私は別に見られることはあんまり気にならないの。男の子が見てしまうのは本能であって、下心とかがあるわけじゃないってちゃんと分かってるから」


 ……や、優しい。

 もちろん聖さんの考え方は、一般的なものとはちょっと違う気がする。

 服の上からでもジロジロ見られることを嫌悪する人もいると思う。ただ、聖さんに限っては、そこはちゃんと理解していると言ってくれた。こういう部分に、懐の大きさを感じる。


 さすが、ひめのお姉ちゃんと言えばいいだろうか……この姉妹、他者に対して寛容なんだよなぁ。


「でも、君からはあんまり視線を感じないんだよね」


 そして話は、ここに繋がるわけだ。


「よーへーはいっつも、ひめちゃんを見てる。あの子のことをすごく気にかけている……ひめちゃんはそのことを喜んでいるし、それが悪いことではないと思う。でも、私よりもひめちゃんばっかり意識しているのが、やっぱりちょっと不自然に思えて」


「そういうわけじゃないんだけどなぁ……」


「説得力がないよ。だって、私……Gカップなんだよ?」


 こんなに大きいから、見ないと逆に不自然だ。

 聖さんはたぶん、そう言っているのだろう。


 うーん……本音を言うと、照れて直視できないだけなんだけどなぁ――。

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