第四十話 優しい世界
今はお昼休み。
あまり長話していては昼食を食べる時間がなくなるので、聖さんとの会話はすぐに終わった。
(結局、俺はロリコンのままなんだ……)
この短時間で聖さんを説得するのは無理だった。
俺の反論よりもひめの直観を信じるようである。まぁ、家族であり最愛の妹の言葉を疑う方がおかしいので、それは当然か。
(とりあえず、嫌われてはいないみたいだからいいや)
二人とも態度がさほど変わらないというか……むしろ、俺がロリコンだとしても逆に寄り添ってくれるので、関係が悪くなるということもなさそうだった。
だったら、そこまで気にしなくてもいいと思ってしまうんだよなぁ。
仕方ない。これから時間をかけて根気よく説明すれば、いつか理解してくれるだろう。
そう楽観的に考えて、俺はこの件で悩むことをやめた。
ロリコンだろうと、みんな優しいのでそれでいいや――。
「――あ!」
扉を開けると、ひめがすぐにこちらを見てぱぁっと表情を輝かせた。
暇だったのだろうか。俺と聖さんの登場をとても喜んでいる。その証拠に、ソファから立ち上がってこちらにてくてくと駆け寄ってきていた。
「意外と早かったですっ。わたしに気を遣わず、もっと二人でイチャイチャしていても良かったのですよ?」
そう言いながらも、構ってほしそうにシャツの袖を引っ張ってくるひめ。
甘えてくるその姿を見ては、放置なんてできるわけなかった。
「ひめちゃん、私たちを待っててくれたの? 先に食べてても良かったのに~」
「はい、もちろんですっ。せっかくですから、みんなで一緒に食べたくて」
「そうなんだぁ~。ふーん……?」
聖さんは何か意味ありげな笑みを浮かべて、ひめを見ていた。
まるで、妹のことなら何でもお見通しと言わんばかりである。
「私と二人きりで食べていたころは、あんまり待ってくれなかったくせに~」
「……な、なんのことですか?」
「うふふ♪ ひめちゃんはウソが下手くそだから、分かりやすくてかわいいなぁ……よーへーと一緒に食べたかっただけって言えばいいのに」
「そ、そんなことないですからっ」
と、否定しながらもひめは顔を赤くしていた。
図星だったのだろうか。俺の腕に顔をうずめて隠そうとしている。かわいいなぁ。
「じゃあ、そろそろ食べようか」
そんなこんなで、少し遅くなったもののようやく昼食時間を迎えることができた。
ひめと聖さんは昨日と同じく、重箱に入った豪華なお弁当である。
一方俺は、コンビニで買った弁当を持参していた。
「陽平くん……今日もわたしたちが用意しても良かったんですよ? 遠慮しているのですか?」
「そうだよ~。昨日はあんなに美味しそうに食べてたのに……どうせ使用人の子が作るから、私たちの手間でもないよ?」
そうなのだ。実は昨日、ひめにはタイミングを見て弁当は持ってこなくていいと伝えていた。
そのことを星宮姉妹は少し気にしていたらしい。
「美味しかったんだけど、ずっと庶民として生きてきたからちょっと緊張するというか……食べ慣れているごはんがいいと思って」
あと、なんだかんだやっぱり申し訳ない!
恐らく万札が平気で使用できるレベルの昼食を毎日持ってきてもらうのは、庶民的な感覚の俺にとって絶対許せないことだった。
いくら星宮家がお金持ちだとしても、このあたりの線引きはしっかりしたい。
毎日もらうのはたかっている気がして、それは対等な関係性と違う気がする。だから、過剰に物をもらうような行為は気が引けるのだ。
「そうなのですか? ふむふむ、陽平くんは馴染みのある味がお好きなのですね」
「へー。君、意外とそういうところはしっかりしてるんだね~」
ひめも聖さんも、ちゃんと俺の気持ちを分かってくれたらしい。
こうやって、少しずつ……お互いに理解を深めていきたいなぁ。
そしていつか、俺がロリコンじゃないことも分かってもらいたいものである――。
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