第二十一話 キノコ派とタケノコ派でも


「こ、これは……!」


 キノコのチョコレート菓子を食べた聖さんは、体を大きく振るわせて立ち上がった。

 まるで、雷に打たれたかのような衝撃を受けたようだ。


「――よーへー、なんで教えてくれなかったの?」


「え? な、なにが?」


「こんなに美味しい食べ物を隠し持っていたこと、なんで黙ってたのか聞いてるのっ」


「そんなこと言われても、今日初めて会ったのに無理があるというか……」


 ……いや、ちょっと待ってほしい。

 なんで俺が怒られているのだろう?

 理不尽な言いがかりをつけられているような気がしてならなかった。


「お姉ちゃん、落ち着いてください。怒りたくなるほど美味しいという気持ちは分かりますが、陽平くんが悪いわけではないので」


「ひめちゃん……! そ、そうだね。ごめんね、よーへー。すごく美味しくて、今までの人生を損してた気分になっちゃって、つい怒りが込み上げてきたの」


「そんなに……?」


「お姉ちゃんが怒ってるところ、そういえば初めて見ましたね」


「そんなに……!?」


 ひめのファーストリアクションも面白かったけど、聖さんはちょっと斜め上を超えていた。

 お嬢様にとって、庶民のお菓子はかなりの衝撃を受けたようだ。


 美味しすぎて、このお菓子の存在を知らなかった人生を損した気分になって、怒ってしまったらしい。

 ……どんな人生を送ってきたのだろう? こんな浮世離れしたお嬢様がいることに、俺もちょっとびっくりだった。


 何はともあれ……とりあえず、お気に召したようなので良かったと思っておこう。


「ふーん……なるほど~。こんびに、という場所で買えるのね……ちなみにおいくら――うふふ、よーへーったら冗談言わないで。そんなに安いなんてありえないでしょ……え、本当に? 世間では一般的な普通のお菓子!? ほぇ~、すごい。世間、しゅごい……!」


 ひめと同じような説明を聖さんにもしてあげると、彼女は妹よりも驚いた表情で食い入るように話を聞いていた。


 ひめもよっぽどだと思っていたんだけど……もしかしたら、聖さんの方が世間知らずなのだろうか。

 しばらく、聖さんはお菓子を食べながらポカンとしていた。目が虚ろと言うか、明後日の方向を見つめている。


「お姉ちゃん、タケノコの方も食べてみますか? あと一個残ってますよ」


 そんな姉を優しく見守っていたひめが、そっと聖さんの口にタケノコのお菓子も入れてあげている。

 この姉妹において、しっかりしているのはむしろ妹の方なのかもしれない。姉を気遣うひめは、見ていてすごく微笑ましかった。


「ありがとう、ひめちゃん……こ、こっちも美味しいねっ。でも、私は――キノコの方が好きかなぁ~?」


「分かります。そっちも美味しいですからね」


「うん。タケノコもキノコも美味しかった……本物より、私はこっちが好きかも」


「そうですね。こっちの方が、幸せを感じられますからね」


 まさか、本物と比較して勝るとは製造会社も考えてなかっただろうなぁ。

 二人ともお嬢様なので、もしかしたらお菓子より本物の方が食べ慣れているのかもしれない。


 さすが、競争の激しい市場で生き残り続けるキノコとタケノコだ。

 ひめと聖さんを魅了にしていた。


 ……まぁ、世間ではキノコとタケノコの派閥で争いがちではあるけれど。

 この姉妹は派閥が分かれても険悪になることなく、むしろ幸せを分かち合っていた。


 それくらい、ひめと聖さんは仲良しなのだろう。


 と、そんな感じで和やかな昼休みを過ごした。

 星宮姉妹……知れば知るほど、不思議な二人である。

 どういう生き方をしてきたのか、気になるなぁ――

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