不透明な毎日
「ことちゃんは、いつもしっかりしてて偉いね。わたしとは大違いだなぁ。」
っ…。また、夢か…。いやな夢。もう朝か…、学校行かなきゃ。
そう、私は受験生なんだ。眠くても、学校に行きたくなくても、起きて学校に行って、いつも通りに過ごさなくてはいけない。何で高校行くのか、とか何で勉強するのか、なんて考えている暇もない。
「おはよう」
私は周りに心配されないよう、毎朝、鏡の前で挨拶の練習をするのだ。
「こと~、今日も夜まで自習室?」
「うん、そのつもり」
「ことは偉いな、ホントに合格しちゃいそうだな。」
「受験なめすぎだって、もう。みんな必死なんだから~。じゃあ、行ってきます。」
私の両親はすごく優しい。いつも私のことを一番に、必死になってくれる。受験だってこれでもか、ってくらい応援してくれているし。私はホントに恵まれていると思う。
2人の期待を裏切らないように、頑張らないと。
私は駅に向かって少し急いだ。
「こと、おっはよ~~、今日も早いね!!」
「花、おはよ。ぎりぎりに来ると電車激混みなのが嫌なだけだよ。」
「うちは早起きだけは特にだめだからなぁ。こと、尊敬してます!」
「はいはい、ありがと。」
花は高2で出会った私の親友。いつも笑顔で可愛くて、男子からもモテモテ。こないだも告白されて、断ったとか…。
「え、ちょっと待って、こと。それ、今日提出だっけ、やっば。今から頑張ってくる。」
「がんばれ!」
私は心から明るくてかわいい花が大好きだし、ほんとに羨ましい。そう言うと花はいつも決まって、「ことは行きたい大学決まってるし、みんなから頼られてるし、うちはことの方が羨ましい!!」って言ってくれるけど、私は彼女になりたかった。
—キーンコーンカーンコーン
「起立、礼。さようなら。」
「花、もう帰る??」
「あ、ごめん、A組の男子に呼び出しされて。」
「え、また(笑)?相変わらずモテモテだね。じゃあ、先に帰るね。」
「ホント、ごめん。また明日!!」
花の走り去る後ろ姿はいつだってきらきらしているように見える。花は誰もが思い描く女子高生って感じ。すごいな、花は。あんな子が私の友達でいてくれているのが不思議に思っちゃうくらい。明るい彼女はいつもみんなを笑顔にしちゃう、そう本物の花のように。
「今日も早い!偉いね。」「62番空いてますか?」「空いてますよ。」フロントで挨拶をしたら、いつも通り、私は塾の自習室のこの席に座る。エアコンの風が直接当たらなくて、通路からも離れたこの席が私のお気に入り。私はいつも通り、教科書を開いた。
…だめだ集中できない…。いったん休憩しよ。インスタグラムを開くと、わたしの憧れのアイドルやモデルさん、女優さんが笑っていた。可愛すぎる。いいな、楽しそうで。前世にどんだけ徳を積んだらこうなれるのか…。
私には密かな夢がある。まだだれにも言えてないけど。中2のとき、ドラマや映画に出ている女優さんに憧れを持ち始めた。きっかけはコロナウイルスで休校になったとき暇でずっと映画とかドラマとか見てたから。暇で友達にも会えなくて寂しかった毎日に彩りを与えてくれた。毎日毎日、のめり込むようにたくさんの作品を見た。私は映画に、ドラマに、女優さんの演技に支えられた。そしたら女優になりたい、って自然と思った。女優さんって何にでもなれる。警察官にも、教師にも、医者にも、…毒親にも、犯罪者にも、患者にも。
人より多くの経験が出来るし、何よりも誰か別の人の人生を歩めるみたいで羨ましかった。
一生懸命になれている女優さんがまぶしくて、いつか同じ舞台に立ちたい、そう夢見始めたのが昨日のことみたい。しかも、自分の演技で、一生懸命作った作品で誰かを感動させることができたり、誰かの人生の支えになったりできるなんて。私も一人でも多くの人を笑顔にできる女優さんになりたい。
「っ…。」
隣の席に誰かが来て私は慌ててスマホを閉じた。
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