第22話
……って、ルゥイがリンクル殿下の子供とは限らないんだけど。
もしかしたらマーサさんに語ったのが本当のことかもしれないし。隣国で一旗揚げようとした旦那と私との子。
我を忘れるくらい情熱的な恋をして、あれからすぐに結婚した可能性だってある。親が反対したから駆け落ちした可能性だってある。恋は人を変えるっていうし、私らしくない行動を3年間にしているかもしない。
ああ、もうっ!もっと昔の記憶はあるのに……むしろ、3年前の記憶は、まるで昨日のことのように鮮明なのに!
どうしてすぽっと3年間の記憶が抜け落ちているのか。
そもそも、どうして記憶がなくなったんだろう?
熱を出して倒れたことがきっかけだったのか、それともなにか他にあったのか?
確か、昔読んだ本の中でショックなことや強いストレスを感じることがあると自分の精神を護るために記憶がなくなることがあると読んだことがある。
私、何か3年間で辛い出来事があって、それを忘れようとしたの?
どんな強烈なストレスを感じたというの?
ルゥイの顔を思い出す。
あんなにかわいい息子のあんなにかわいい笑顔を見て生活してるのに、強いストレスなんて感じるわけがない。
「ああ、もう早く調べて帰ろう。ルゥイが私を待っている!」
とりあえず今日の目標は両親がどうしているのか調べること。
伯爵家が没落しちゃったのか、どうにもなっていないのか。
本当は連絡を取れれば一番なんだろうけど、記憶がない状態で、もし万が一両親からもルゥイを隠しているのだとしたら危ない。
どう考えても、今の生活がそれほど不幸だとは思わない。
っていうことは、両親の無事が確認できれば、記憶が戻らなくても今の生活をひっそりと続けていても構わない。
苦境を脱しようという気持ちはない。
……ああ、あと……。
気がかりは殿下が幸せなのかどうかだけれど。
優しいく賢いあの子が、幸せになれるよう祈るくらいしか今の私にはできない……。
◇◇場所は変わり王城にて◇◇
カツカツカツと、木を打つ合せる音が騎士たちの詰め所に響き渡る。
「なんの音だ?」
准騎士たちの部屋から聞こえてきた音に、首をかしげて第三騎士団副隊長が様子を見に来た。
一人の准騎士が、丸い球のついた紐を上げ下げし、球がカツカツとなっているのだ。それを何人かが取り囲んでみている。
「何をしている?」
副隊長が准騎士に声をかけると、集まっていた准騎士たちが一斉にこちらに向いてぴしりと並ぶ。
丸い球を手に収めて声をかけた准騎士も姿勢を正した。
「はいっ、隣国から来ていた露天商で買ったものです。遊び方を皆に見せていました」
その言葉に、副隊長が眉をしかめた。
「そういえば、君たちは祭りの期間に集まった隣国商人への聞き取りの仕事が割り振られていたな?ちゃんと回ったのか?」
「はいっ!青い指輪のことを知っている人はいませんでした!」
副隊長が疑いのまなざしを向ける。
副隊長が腰に手を当てる。
「祭りでの商売目当てに隣国からも露天商が集まっているのは知っているな?」
「はい。もちろんです。国内各地からもたくさん来ていますが隣国からもこのひと月はたくさん集まってきます」
副隊長が頷いた。
「そうだ。そこで、広い地域で指輪の情報がないかと聞き取りを行うのが目的だろう?並んでいる商品を眺めて指輪を見つけるだけでなく、どこかで見たことは無いかと情報も集めるのが目的だ」
副隊長の言葉に、准騎士が今度は頷いた。
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