第14話

 よし。

 とりあえず中央に向かって歩いて行こう。

 流石に、貴族街に入れば私のこの服装では目立ちすぎるだろう。

 だけど、その外側。貴族街に出入りする商店が並ぶ区域なら、この服装でもギリギリ問題ないはずだ。

 下町は王都にいたころにも来たことがなかったため道は分からない。でも中央のお城は見えているから迷子になることは無いだろう。

 住んでいる国境沿いの街に比べてとても人が多い。

 お店の数もけた違いだ。広場はずらりと屋台が取り囲んでいる。

「お祭り……みたい」

 ふと前世の祭りの屋台を思い出してつぶやきが漏れた。

「なんだい、あんた王太子の誕生祭に来たのかい?残念ながら祭りは数日前に終わってるよ」

「あ……えっと」

「あはは、落ち込むことはないよ。そういう人いっぱいいるけど、祭りは終わってもひと月くらいはいつもより王都はにぎぎわってるからね。ほら、祭りで一儲けしようと集まってきた人が屋台に出店、たくさんいるから楽しいよ」

 屋台以外にもフリーマーケットのように地面に物を並べている人もたくさんいる。

「出店するのは厳しいんですね」

 准騎士の制服に身を包んだ者たちの姿が目立つ。

 出店を一つずつ回ってじっくりと品を見ながら店主に聞き取りをしている。

「いや。商売してるやつはどの街でも商業ギルドに登録しているはずだろう?商業ギルドで王都での短期商売許可証をもらっていればいいはずなんだけどねぇ」

 と、女性は首を傾げつつ楽しむんだよと声をかけて去って行った。

 准騎士は、年若い騎士になる前の子や騎士昇格試験に受からなかった貴族の子や平民だ。騎士とちがい王宮へと上がることはできない。

 つまり、王宮で顔を合わせていた騎士がいることは無い。……万が一私の顔を知っている人がいたらと心配することもない。

 そっと准騎士の横に並び、店の商品を見ているふりをして会話に耳を傾ける。

「指輪は置いてないか?」

「指輪?」

 指輪を探してるの?准騎士が?

「ああ、青い石が付いた指輪だ」

 青い石?殿下にもらった青い宝石のついたネックレスを思い出す。

「宝石か?そんなもんはこんな露天で売ったりしないだろう」

 確かにそうか。

「いや、宝石ではない。青く染めた石だ。小指の爪くらいの大きさの石がついた銀製の指輪を探している」

 青く染めた石?……どこかで見たような?どこだったかな?

「なんでそんなもん探してるんだ?騎士様が」

 騎士ではなく准騎士だけど、もしかしたら庶民には見分けはつかない?制服がちょっと違うんだけど?

「!#%&&’$%’(分からない)」

 首をかしげると、大きな声が聞こえてきた。

「だから、指輪を見なかったか?」

「$’%(%)#)”($%$#”)$$($((私は何も悪いことはしてない!)」

 焦ったような声と困ったような声。

 他の准騎士が隣の露店の男性に話かけているようだが、露天主はこの国の言葉があまり分からない隣国の者のようだ。

 准騎士に話しかけられれば、不正を疑われているのかとか、追い出されるのかとか、不安になるよね。

「あの、紙と筆記具は持っていませんか?」

 隣にいる准騎士に尋ねる。

「ああ、あるにはあるが」

 不審な目を向けられた。そりゃそうか。それでも准騎士は准がついていても騎士だ。紳士的な態度が求められる職業なだけあり、特に女性には丁寧に対応してくれる。

「ありがとうございます」

 紙を受け取ったお礼を言い、隣国の言葉で「指輪を探しています。湯指の爪くらいの大きさの青く染めた石のついた銀の指輪です。知りませんか?」と書いた。そして、その下に発音をこの国の言葉で書く。「アシャーム リョル……」

「彼の国の言葉です。指輪を探していると書きました。もし文字が読めないようなら、ここを読んでください」

 騒ぎになりつつある露天に立つ准騎士に紙を渡す。

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