第30話 チュープリ
何となく歩いた先でたどり着いたゲームセンター。様々な聞きなれない音が混ざり合って鼓膜を叩く。そんな中で、れんはクレーンゲームコーナーの隣に置かれた筐体を指さす。
「あれやりたい」
そこにあったのはプリクラ機だった。
「いいね」
プリクラなんて撮ったことないけど、少しだけ興味はあって、わたしはれんの誘いに乗る。
二人でお金を入れて、ひらひらしたカーテンをくぐって中に入る。すると、きゃぴきゃぴした機械音声が出迎えてくれる。
『モードを選んでね』
見ると正面の画面に幾つかのモードが表示されていた。
お友達モード。カップルモード。パーティモード。
れんは迷わずカップルモードを選択した。
『それじゃあ撮影を始めるよ!』
『まずは二人でにっこり笑顔!』
指示通り、わたしはカメラに向かって笑う。れんは上手く笑えないのか、口角の端がぴくぴくとしてる。結果いつもと同じ無表情で、それでも容姿の良さだけで画になった。
シャッター音の後、次の指示が飛んでくる。
『二人でおっきなハートを作って!』
急に難易度が跳ね上がる。わたしは見本の写真通りに両腕を上げて身体を曲げる。れんも同じポーズをする。けれど体格や腕の長さが違いすぎて、結局綺麗なハートになる前にシャッター音が鳴った。
反省する間もなく、次の指示が入る。
『今度は二人でぎゅっとハグ!』
「え?」
わたしは思わず困惑の声を上げる。そんなわたしを尻目に、れんはこちらに身を寄せて、少しかがんで、わたしの身体を抱きしめる。そしてそのまま涼しい顔で、カメラに目線を送る。筐体内の温度が一気に上がった気がした。わたしもれんに倣って、いっぱいいっぱいになりながらも、カメラの方を見る。カウントが進んで、フラッシュに包まれる。
顔が真っ赤だったら恥ずかしいな、なんて思っていたら、また次の指示が入る。
『じゃあ最後に、彼女さんがほっぺたにちゅう』
空気が固まった。わたしもれんも絶句している。そうしている間にもモニターの数字は刻一刻と減る。その隣に移された見本の写真では背の小さな女の子が背の高い男の子の頬に口づけしていた。
減っていく数字が急かすようで、わたしは訳も分からないまま、見本の写真をなぞるように背伸びをする。シャッター音が鳴り、白い光に包まれる。
唇に、れんの真っ赤な頬が触れた。
撮影で疲れ切ったわたしは、れんが写真に加工を施すのをじっと見てた。
れんは恐ろしい速さで、キラキラの装飾や文字を加えていく。
「こいびと記念」
「れん&愛」
「ずっといっしょ」
数多のハートや星と共に、そんな文字がキラキラと躍る。わたしはれんの顔をこっそり覗き見る。その顔はやはりいつもと同じ仏頂面で、とてもこの文言を書いているのと同一人物だとは思えない。どうやられんは文字だと少々お茶目さんになるようだった。
そういえば、昔お手紙を交換した時も、ハイテンションな文面だったっけ。
そんな思い出や目の前の構図の面白さにわたしはこっそり笑った。出てきたプリクラは備え付けられたハサミを使って二人で分け合った。ちゅーの写真は直視できないけれど、他の写真は楽し気で、れんの施した加工のキラキラも含めて、とてもいい出来栄えだった。
れんはそれを大事そうに胸に抱えていた。
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