ひとりよがり
一閃
第1話
あなたは少し気まぐれなところがあった。だから、私は冷静を保とうとした。小さなことでイライラしたり愚痴ったりしたくなかった。
「セーターとか編んでよ」
と、平気で言う。
「男の人って手作り苦手なんでしょ?」
と、雑誌で読んだアンケートを思い出していた。
「そんなことないよ」
と笑いながら言った。
そして、色やデザインを細かくリクエストしきた。もう、秋が始まっていた。
もうすぐ付き合って一年になろうとしてる。気まぐれなあなたと少し冷静な私は周りからみれば、どこかドライな関係に見えていたかもしれない。
『会いたい時会えたら会えばいい』
『約束なんてしなくてもなるようになるよ』
あなたが『約束』と言う縛りを嫌がってることには気がついていたから、私も突き詰めず『楽しく会えたらいいか』ぐらいのスタンスだった。
ある夜のことだった。私は思わぬ言葉に戸惑った。ベッドの中で、
「男の子がいいな」
と、あなたが呟いた。微睡(まどろ)んでいた私は一気に目がさめた。あなたは反対にまぶたを閉じて、
「キャッチボールがしたいんだよ」
と、続けた。
「そうなんだ」
と、流すように言うと、あなたは眠りにおちていった。
私との将来を約束するの?それともただの希望的観測?結婚する友人もチラホラ出始めた私は、どちらにせよ答えを聞くのが怖くてそのままスルーした。
セーターも形になってきた頃、少しずつあなたからの連絡が減ってきといた。セーターを編みながらモヤモヤした感情になるのが嫌で編む時間も減っていった。
『忙しい?』『体調悪い?』『何かあった?』言葉を探してみたけど、どれもあなたは苦い顔をするだろう。私から連絡しても「悪い、ダチと呑んでる」「まだ仕事中なんだ」と切られる数も増えてきた。
確認?何の確認?『私を愛してる?』『どうして会えないの?』『会えるとき会えればいいんでしょ?』『タイミングが合わないだけよ』自問自答を繰り返す。どんな答えが欲しいのか…わかることが怖い反面わかりたい気持ちもある。『どうする…?私』
会えば相変わらず優しい。
「よさげな深夜カフェ見つけたよ」
「ベトナムコーヒー飲みに行く?」
カフェ飯が好きな私を誘ってくれたりもする。余計に確認したいことも言えないでいる。これが今のあなたのスタンスなんだと思うしかない。
「セーターどうよ」
「ん~あまりはかどってないかな」
「もうすぐクリスマスだし、頑張ってよ」
と、あなたは笑うけど、私は笑えないし、「うん」としか言えなかった。本当にあなたはそう思っているの?疑心暗鬼になってる私といて心地良いの?
あなたの言動がどうこうじゃなく、私の問題だ。私はどうしたいの?どう思ってるの?『わからない』『わかりたいけど』『わかりたくない』
クリスマスがきた。セーターは間に合わなかった。クリスマスは仲間たちと集まって賑やかに過ごした。少しほっとした。セーターの言い訳をしたくなかったから。お互いプレゼントは用意したがセーターのことはふたりとも言葉にしなかった。多分、これがサインだったんだろう。
新しい年が始まり、ふたりで初日の出をみて、初詣もした。なんとなく、それとなく日々を過ごしていたある日、あなたの友人から忠告があった。
「ヤツが知らない女と呑んでた。誰?ときいたら同僚だって言ってたけど…ヤツのことだから」
同僚?遊び?本気?どんな言葉が当てはまるんだろう。
忠告から数日経ち、あなたは私を車で連れ出した。大きな公園が見える道の路肩に車を停めた。真冬にしては暖かい小春日和の午後。池には水鳥が浮かび、ほとりのベンチには小柄な老婦人が座っている。あなたはハンドルに覆い被さるように私と同じ風景を見てる。不意に名前を呼ばれた。
「2番目じゃだめなんだよね」
いつもと違う低い声でいつもの笑みもない。
「えっ?」
「2番目じゃだめなんだよね」
同じトーンで繰り返す。人を好きになったり、愛したりするのに順位付けが必要なの?私からさよならを言わせたい?それとも本当にキープの2番目?あなたは何を伝えたいの?あなたの気持ち、私の答え、色々と模索してみた。1分なのか10分なのか…沈黙のなかでやっとみつけた答えは、
「帰るね」
だった。今、私が何か言ってもあなたに響かないだろう。怒りも悲しみも感じないまま車を降りて歩きだす。あなたに、私の背中を見送る最後の優しさはあったのだろうか?振り返ることはできなかった。
自分の部屋に辿りつきコートも脱がずどのくらい座り込んでいただろう。空はすっかり暗くなり、部屋は冷たい空気に包まれ音ひとつない。カーテンを閉めようと立ち上がった時、涙がこぼれた。涙がひとすじ流れたあと、溢れるようにこぼれ嗚咽に変わった。号泣しながら編みかけのセーターをほどいた。『愛してた?』『愛して欲しかった?』『2番目って何?』『あの時不安を言葉にしたら…』いろんな思いが堰をきってあふれ出した。
セーターをほぐし終わり、大きく息を吐き、
「そっかぁ」
と、天を仰いだ。私は私が思う以上にあなたを愛し、欲(ほっ)していたんだ。あなたを失いたくなくて、冷めたふりして、わかったふりしていたんだ。素直に気持ちを伝えていたら…。
今頃、あなたは誰かに微笑んでいるだろうか。それとも少しはうなだれていてくれるだろうか…どちらにしても、もう私には関係ないことだ。
ただ、ひとつ…最後にちゃんと「さよなら」を言えば良かったと思いながらカーテンを閉めた。
ひとりよがり 一閃 @tdngai1
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