努力好きの天才錬金術師
ファンタスティック小説家
異世界転生
実家の子供部屋で、いつものようにネットサーフィンして配信者のコメント欄を荒らしていると、突然、心臓がきゅーっと締め付けられる痛みに襲われた。
「がはっ……うぅ、これは……!」
直感があった。この前の健康診断で言われたのだ。
老医者に「心不全のリスクがありますねぇ」て。
あっ、死ぬ──そう確信したのは椅子から転げ落ちた5秒後だった。
脳内に突如として記憶が流れ始めた。
これは走馬灯? じゃあ詰みだ。
最初の夢は動画投稿者だった。好きなことで生きていく。お金持ちになれて、有名にもなれる。最高だ。中学生くらいから商品レビューとか企画だとかやっていた。普通に学校でいじめられた。おおいなる黒歴史だ。
次の夢はプロゲーマーだった。ゲームは好きだった。それで稼げて、あまつさえ有名になれる──夢の職業だと思った。だめだった。Apexでマスターにすらいけずに諦めた。”楽しい”だけでやってけるほど競技の世界は甘くなかった。
次に着手したのは配信者だ。前述のとおりゲームは好きだった。競技の厳しさもない。さっそく親に頼み込んで高性能なPCやモニター、マイクを揃えて意気揚々とはじめた。3カ月後、同時接続数は2人。半分はアンチ。つまらなくてやめた。
最後の夢は、Web小説を書き始めてみた。ラノベが好きだった。俺でも書けそうだと思った。夢は世界的な作家だった。2年かけて10万字の力作を書いた。投稿した。ついたコメントは『何が面白いのコレ?』だけだった。筆を折った。
走馬灯の途中から涙が止まらなかった。
これは我が夢の遍歴だ。
名声を追いかけ続けた薄っぺらい人生だ。
才能がない。工夫する知恵もない。努力もしない。なのに何者かにはなりたい。
その結末はお粗末。
32歳、不摂生な生活がたたり、実家にて心不全で死亡。
せめて死の間際に女子高生でも助けてトラックに轢かれてほしい。
ああ、俺の人生、こんなんで終わっちゃうんだ……。
何者にもなれず、何も成せなかった。
最大の心残りは家族のことだ。まったく大切にできなかった。
心臓がきゅーっと締め付けられる痛みに犯されながら、最期の時、俺はもっと頑張って生きればよかったと、深く後悔した。
「産まれたわよ、ヘラ。抱っこしてあげて」
「ねえ、見て! なんて綺麗な瞳なの!」
「あぁ、君の眼にそっくりだね……」
「そう? 私ってこんな寒色系だったかしら?」
「おかあさん、このこのお目目、ぜんぜん、おかあさんににてない」
「ほら、マーリンもこう言ってるじゃない、そもそも私の目は赤いでしょ」
「おとうさん、てきとうばっか」
「あらら、また娘からの厳しいお言葉をもらっちゃったわね、トム」
「ほら、トム、この子に名前をつけてあげて。考えてるんでしょ?」
「おとうさんがまたつけるの?」
「ええ、そうよ、マーリン。私も名づけたかったけど、『名づけは父親の仕事だ』って言って、いじけて駄々こねられちゃったんだから、仕方がないのよ~」
「おとうさん、わがまま」
「こほん。ふたりとも静かに。では、命名しよう。我が家の長男へ──」
「名前はアイザック。アイザック・レッドスクロール。どうかな?」
「すごくいい名前ね。偉大な錬金術師になれそうだわ」
気が付いたら知らない人たちに撫でられていた。
どちらも知らない人だ。てか、ここ実家の部屋じゃなくね?
「あうあぅ……?(訳:俺、いま、心臓が痛くなってそれで……へ?)」
──それが転生だと確信できたのは少し経ってからだった。
そのことに気づいた時、俺は誓った。
今度こそ後悔しない人生を。
怠惰にならず、精一杯に生きるのだ──と。
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