運命湾曲のReverseFate

@banana_877877

第1話 目覚め

俺には名前が無い

正確には、思い出せない

記憶もまっさらだ

写真のような過去を思い出せるものもない

唯一あるものは

白を基調とした装着できる機体のようなものだけだ

何か大事なことを忘れている気がする

はぁ...考えるだけ無駄か


日課である畑の手入れをする、平和だ

昔は宇宙から飛来した

『ディスペア』

と名付けられた漆黒の異形の存在との争いがあったらしいが、昔のことだ

そもそも覚えてないしな

というか、安易に『絶望』と名付ける政府のネーミングセンスは如何なものかと思う


『お〜い、おじさ〜ん!』

聞き馴染んだ生意気な声が聞こえてくる

『おはよう!今日も死んだ魚みたいな顔してるね』

『うるせえよ』

こいつは『ソウタ』、近所のクソガキだ

『今日はいつにも増して顔死んでるね、大丈夫?』

『大丈夫だよクソガキ、ありがとな。』

『だからクソガキじゃないって!ソウタ!ちゃんと名前あるんだから呼んでよおじさ〜ん』

『なら俺だっておじさんじゃなくてちゃんと名前が...』

『名前...』

『おじさん?...』

『...あぁ、すまん。なんでもない』

『とにかく、おじさんは元気だから心配すんな。』

『わかった...そういえば、かあちゃんがおじさんのこと呼んでたよ!なんか手伝って欲しいことあるんだって!』

『あいよ、行ってくるわ。』

『あ!そうそう。僕、山で遊んでから帰るからかあちゃんに伝えといて!』

『気をつけろよ〜』

そうして、俺は集落に向かった


ここは村の集落。こじんまりとした村だから規模は大きくないが、活発なところだ。

『お、にいちゃん!新鮮な野菜揃ってんぞ!』

八百屋のゲンさん。

『お〜いあんちゃん!今日の夕飯は魚はどうでい?サービスするぞ!』

魚屋のスズキさん。

人数は少ないが他にも色々な人がいる、みんな良い人だ。

そうしてるうちに家に着いた。

『ごめんくださ〜い』

『はいは〜い。あら、おにいさん!ソウタの伝言聞いて来てくださったのかしら?ありがとねぇ』

この人はソウタのお母さん、『アケミ』さん。

『いえいえ。それで、手伝って欲しいことってなんしょうか?』

『それがねぇ、うちのお父さんが腰をやっちゃって...』

『裏山に腰痛に効く薬草があるのだけれど道が険しくて私一人じゃ行けないのよね...』

『お願い!お礼するから代わりに取ってきてくれないかしら?』

『大丈夫ですよ、お父さんにお大事にって伝えておいてください。行ってきますね。』

『あ、そういえばソウタからの伝言で「山で遊んでから帰るね!」だそうです。』

『わかったわ、ありがとね〜!』


裏山

この山に薬草があるという。

『渡された地図によると、たしかこの辺...あった。』

何の変哲もない緑の薬草だ。ストックできるようたくさん持っていこう。

『ん?』

違和感

緑の草の中に真っ黒な花がある。

よく見たらところどころ、まばらに咲いている。

それにいつもならセミや小鳥などの声が聞こえてくるはずだが...やけに静かだ。

いったいなんだろう...俺はこの花を知っている気がする...

『...摘んでみるか』

花に触れたその瞬間

『ウッ?!』

頭に電流が走った



ディスペア襲来 ディスペア襲来

ただちに戦闘配置についてください

(なんだ...?)

『ちょっとベネットッ!いい加減起きなさいよ!』

(誰だ?これは...俺の記憶なのか...?)

『は や く起きなさい!』

『さっさと行くわよ!ディスペアがそこまで来てるんだから!』

乱暴だが優しく、俺は目の前の女に連れてかれた

『ほら!早く装着して!戦うわよ!』

そういって彼女は慣れた手つきで装着する

(あの機体...家にあった物と似てるな...)


ザザ...ザザザ...

(ウッ...なんだ...?ノイズが...)

場面が変わる


青いはずの空が黒に埋め尽くされている

夜ではない

それがおびただしい数のディスペアであることに気づくまでにそう時間はかからなかった

手に重みがある

とても冷たい

最悪なイメージが頭を過ぎる

視点が下に移動していく

呼吸が荒くなる

(嫌だ...)

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)

見たくない

願いは通じず

その瞳に映るのは...


無残にも、だが美しく

戦場で命を散らせた先程の彼女の姿であった



『...ハッ!!!...』

『はぁ...はぁ...はぁ...』

『なんなんだ今のは...』

忘れたかった、だが忘れてはいけない記憶

『...もう、こんな時間か』

気づけば夕暮れ

カナカナとひぐらしが鳴いている

『...戻ろう』


あれは、確実に俺の記憶だった

そして自分の名前も思い出せた

『ベネット』

それが俺の名前らしい

だが肝心のあの女の名前が分からない、思い出せない

絶対に忘れてはいけない、思い出さなければいけない

なのに思い出せない

思い出そうとすれば頭が割れるように痛くなる

クソ...

そうこう考えてるうちに戻ってきていた

『薬草、取ってきました』

『あら、ありがとねぇ。随分遅かったわね。』

『あはは、少しばかり居眠りしてたようで...』

『遅いといえば、ソウタがまだ帰ってきてないのよ。いつもなら帰ってくる時間帯なのに...』

胸騒ぎがする

いつもより静かな山

突然変異のような真っ黒な花

そして記憶の中で見た真っ黒な怪物...

『ちょっと!いきなりどうしたの!?』

気づけばソウタを探しに走り出していた


『はぁ...はぁ...』

『たしか...最後に会ったのはここら辺だよな..』

俺はソウタと最後に会った自分の家の周囲まで戻ってきていた

『クソガキーッ!!どこだー?!』

周囲を見渡す

すると

夕暮れの風景には似つかわしくない真っ黒な羽が山道に向かって落ちてるのを発見する

『うわぁぁぁぁッ!!!!』

少年の叫び声が木霊する

『ソウタァッ!!!!』

真っ黒な羽の後を追い、全力で走った


『はぁ...はぁ...どこだッ?!』

真っ黒な羽は花畑に続いていた

そしてそこには

鮮やかな花々の中に倒れている少年の姿があった

『ソウタッ...!!』

『おいッ...!しっかりしろ!!』

脈はある

『よかった...気絶してるだけだ...』

安堵するのも束の間

出会ってしまう

真っ黒な体 真っ黒な羽

そして際立つ真っ赤な目

体長は3m程だろうか...

先程の記憶の中で見た怪物と見た目が一致する

『こいつが...ディスペア...』

『クソッ...』

恐怖で足が竦む

全身の細胞が危険信号を発する

今すぐこの場から逃げろ

頭では分かっているのに体が動かない

ディスペアと目が合う

俺を見つけたのが嬉しかったのか

そいつは笑みを浮かべていた

真っ赤な口内が見える

飢餓状態で獲物を見つけた動物のように、無我夢中でこちらに向かってくる

(クソッ...俺は死ぬのか...?!まだ思い出せてないことがあるのにッ!...)

ディスペアの手がこちらに伸びる

(畜生ッ...!!)

その時

白銀の光が家の方向から輝く

一瞬の光であったがディスペアは動きを停止し動かなかった体は動くようになった

その隙を利用し、俺は全力で光の方向に走った


家に着く

そこには

黒を焼き尽くす程に、だが優しく光る真っ白な機体があった

自分の過去のことは思い出せない

だがその光を間近で見た瞬間思い出した

こいつの使い方を...

『ちょっとおにいさんッ?!大丈夫?!いきなり走って行って...!』

『アケミさん...ソウタを頼みます』

『ソウタッ?!どうしたの?!それにその光は...?』

『説明は後でします、今は早く集落に向かってソウタくんの治療をお願いします』

『...わかったわ』

話がわかる人で助かった

『さて...2人きりだな』

山道に入るところにそいつがいる

どうやらこの光を嫌がってるらしい

このままなら襲われる心配はない

だがこの光がいつまで続くか分からない

...俺が、戦うしかない

光の中を進み、機体に触れる

『...今はまだ、思い出せない。』

『昔のこと...そしてあの女性の名前も...』

『絶対に忘れちゃいけないはずなんだ。だから思い出したいんだ、力を...貸してくれッ!!』

『いくぞ...!【シリウスッ!!】』


懐かしい感じがする

体に馴染む

『力が...漲る...』

さて...

『ほったらかして悪かったな』

ディスペアと相対する

怖くて動けなかった先程の自分が嘘であったかのように、自らディスペアの正面に立つ

『お前らがなんなのか...俺は詳しく知らねえ。いや、思い出せねぇ』

『だがこれだけは分かる、体とこの機体が覚えてる』

『お前らはこの地球に居ちゃいけねえッ...!』

気づけば体が動いていた

ドゴッ!!

顔面に右ストレート

ディスペアが吹っ飛ぶ

さらに追撃

バキッ!!

空に蹴り上げる

『おらぁッ!!!』

ズドーン...

地面に叩きつけたが、ディスペアはまだ動いている

『中々タフな奴だな』

赤い目が光る

(くるッ?!)

とてつもないスピードで飛び上がってくる

ドンッ!!

『ぐっ...』

逆に地面に叩きつけられてしまった

『いっ...てぇ...』

(またくるッ?!)

ドガァーン

『あっっぶねぇッ!!』

瞬時に横に飛び上がり回避した

飛来したディスペアが攻撃してきた場所を見ると地面が大きく抉れていた

あれをまともにくらっていたらと思うとゾッとする

こいつが集落の方に向かう前に決着をつけなくては

『おいデカブツ、そろそろ終わらせるぞ』

殴る蹴るだけではダメージ不足だ

あいつを一発で倒せる火力を叩き込まなければいけない

だが地面に向けて撃てば甚大な被害が出てしまう

守ろうとしてるものを自分で壊してしまうのは本末転倒だ

『狙うなら...空だな』

ディスペアに向けて瞬時に突撃する

ドガッ!!!

腹にアッパーをおみまいする

巨体が宙に舞う

『いくぞデカブツッ!!』

この命、燃え尽きたとしても

『ガイア・ラースッ!!!』

蒼銀の光は、黒を飲み込んだ

その光を下から見ていた人達は口を揃えてこう言ったという

『『彗星のようだった』』



ゆっくり下降し、地面に着く

『流石に疲れたな...』

座り込む

不思議なものだ

この機体の着方、戦い方、そして名前

全部知らなかった、いや記憶から消えていたはずだ

だがこいつの光に触れた瞬間、手に取るようにわかった

黒い花を触った時もそうだ、記憶が蘇った

『俺に関連するものに触れれば記憶が取り戻せるのか...?』

...試す価値はありそうだ

きゃああああッ!!!

『なんだ?!』

集落の方を確認する

上がる火の手

逃げ回る人々

複数体のディスペアが集落を襲っていた

『クソッ!あいつだけじゃなかったのか?!』

急いで集落に向かう

『...間に合ってくれよッ!!』



『かあちゃん!!』

『はぁ...はぁ...私のことはいいから...早く逃げなさい...!!』

『やだよ!!一緒に逃げようよ!!』

ソウタの母、アケミは倒壊した瓦礫の下敷きになっていた

『待ってて!今どかすからッ!!』

ガシャン ガシャン

不吉な足音

(さっき見たやつだ...)

『こんの...どけよぉ...』

ガシャン ガシャン

近づいてくる

『ゲホッ...ソウタッ!!』

『私のことはいいからッ...早く逃げて!!』

『お願い...』

『嫌だ!!!』

『かあちゃんは...俺が守るんだッ!!』

ディスペアがソウタに手を伸ばす

『うっ...』

恐怖のあまり目を瞑る

次の瞬間、眩しさで目を開ける

『...え...?』

『かあちゃんは俺が守る...か』

『よく言ったッ!クソガキ!!』

ズドンッ!!

ディスペアが吹っ飛ぶ

『おじさん?!』

『どうしたのその格好?!カッコイイッ!!』

『説明は後だ、今瓦礫どかしてやるからかあちゃん連れて早く逃げろ』

『よいしょ』

人の力では到底持ち上がらない重さの瓦礫だが軽々持ち上げる

『ほらソウタ、あとはお前の仕事だぞ』

『...!うん!』

『いくよかあちゃん!』

おんぶする

『ありがとおじさんッ!!』

行ったことを確認する

『さて...』

先程吹っ飛ばしたディスペアがそこまで来ていた

どうやら怒ってる様子だ

『グルルル...フシュー』

『怒りてえのはこっち方だよ、好き勝手暴れやがって』

『ぜってえ許さん、ボコボコにしてやるから覚悟しろよ』

ガシャン ガシャン

『ん?』

1体

ガシャン ガシャン

『んん?』

2体

ガシャン ガシャン

『んんん??』

3体

ガシャン ガシャン

『...嘘だろ』

4体のディスペアが乱入

計5体のディスペアを一気に相手しなくてはならなくなる

『流石にそれは卑怯だr(((』

バキッ!!!

攻撃をくらってしまい吹っ飛ぶ

『...いってぇ...』

『だいぶまずいな...』

こちらが不利なのは誰の目に見ても明らか

『さっきの技はエネルギー切れで使えねし..』

そうこうしてる内にディスペアが向かってくる

ドンッ!!

『あっぶね...!!』

1体目の攻撃はかろうじて避ける

だが

ズドンッ!!

『ガハッ...』

隙を突いた2体目の攻撃をもろにくらってしまう

(最悪だ...もろにくらった...体が...動かねぇ...)

依然ディスペアはこちらに向かってくる

(畜生...ここまでかよ...)

ディスペアがこちらに手を伸ばす

(くっ...)

その時

希望の一筋の光が、ディスペアを貫いた

(なんだッ?!)

『おっじさ〜ん🎶間一髪だったねぇ』

『おい、あんま初対面の人におじさんとか言うな...』

『うちのバカが失礼しました、大丈夫ですか?』

『あ、あぁ...』

そう言って俺に手を差し伸べたのは黒髪ショートの気だるそうな女、咥えたタバコがよく似合っている

『ちょっと〜!バカは酷いんじゃない?』

そう言って現れたのはツインテールで橙色の髪をした元気そうな女の子だ

『残りはコトが全部倒しとくね〜🎶』

『コト?』

『あぁ、コトってあいつの名前です』

『申し遅れました、俺はペルセウス』

『ディスペア対策機構、通称アースの適合者で2等兵です』

(アース...?初めて聞く名前だが知ってる気がする)

『ところでおにいさんのお名前は?』

『STARを着てるってことはアースの人間ですよね』

『スター?』

『おにいさんが着てる機体のことですよ』

『(STARを知らない?着ているのに?何者なんだこの人...)』

『へぇ...こいつSTARって言うのか』

『機体の通称名がSTARであって一機ごとに名前もありますよ』

『俺が着てるやつはアルゴルって言います』

『コトが着てるやつはスラファトっていうんだよ!』

『コト、戻ってきたのか』

『5体全部やっつけて村民の人達の避難も完了したよ!』

『そうか、よくやったな』

『えへへ〜』

(仲がよろしいようで...)

『話が逸れましたが、おにいさんの名前は?』

『それを着てるのにSTARを知らない、ということは盗品の可能性があります』

『組織の人間かどうか判別したいので名前を教えてください』

『(着ているSTARの輝きを見るに恐らく一等兵...もしくはそれ以上...そんな人間がSTARを知らないなんてありえるのか?いったい何者なんだこの人は...)』

『名前は...ベネット』

『ベネット?!』

『え?うん...』

『(彗星の名を冠する者...ならSTARを知らないことがますます不思議だ)』

『...ベネットさん』

『はっ...はい』

『俺たちと一緒に、アース本部に来ていただけませんか?』

『少し...考えさせてくれ...』

(もしかすれば...そこで俺の過去に関する情報が手に入るかもしれない...)

(だがここを離れていいのだろうか...)

『行ってもいいが、1つ...条件がある』

『なんでしょう』

『この集落がまた襲われるようなことがないように、ここに住む人が安心して暮らせるようにして欲しい』

『任せてください、それをするのが俺たちの仕事です』

『...ありがとう』



そうして俺はアース本部に向かった


2話目に続く...

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