第2話 電気の紋章

アルコールの冷たい香りと、微かな薬品の匂いが空気中に漂っている

僕はゆっくりと目を開け、痛む体を起こした。視界がぼんやりしていて、頭の中はまだ混乱している


周りを見回すと、真っ白な病室が目に飛び込んできた。壁も天井もシーツも、すべてが無機質な白で覆われていて、一人の男がこちらを見つめていた


「やっと目が覚めたか」


軽い口調が耳に届く。僕と同じくらいの年齢だろうか?整った顔立ちに、流行の黄色い服がよく似合っている。首からは砂時計のペンダントがぶら下がっていた。


「お前、もう体は大丈夫なのか?」


体中に痺れるような痛みが走っているが、動かせないほどではない


「大丈夫です……でも、あなたは?」少し戸惑いながらも問いかける


「ああ、俺は飛鳥蒼空あすかそらだ」


飛鳥と名乗る男は机の上に置いてあった小さな手帳を手に取り、僕に見せた


蒼空お前は如月湊きさらぎみなとで合ってるな?」


蒼空これ、お前が倒れていた場所の近くに血が付いて落ちてた」


それだけではなく、スマホと財布も同じ場所にあったと言って、机の上に置かれていた。


蒼空お前、本当に体は大丈夫か?自分の体を見てみなよ」と促され、僕は少し遅れて自分の体を確認する


体を見ると、全身にメロンの網目のような火傷の跡が広がっていた。驚きと恐怖が胸を締め付け、思わず息を呑む。


蒼空それは電紋と言う火傷の跡だ。雷のような強い電撃に当たった時にできるんだ」


蒼空だが、あの時雷は鳴ってなかった」


蒼空そして現場には感電死したと思われる黒い犬と君の姿……何があったんだ?」


その問いに、僕は目を閉じ、必死に記憶を辿った

少女たちを庇った瞬間が断片的に蘇るが、その先が思い出せない。どうしても記憶が途切れてしまう。心の中に焦りが募る


よく覚えてないけど……少女たちを庇って左腕を噛まれたくらいから、記憶が曖昧で……」思わず顔をしかめながら、言葉を絞り出した


突然、胸が冷たく締め付けられる


あ!少女たちは無事なのか?」飛鳥の答えが怖かったが、聞かずにはいられなかった。


蒼空心配するな。警察と救急車が駆けつけて、少女たちは病院へと運ばれたよ」


飛鳥の言葉に、肩の力が抜ける。そうか……」安堵感が全身を包み込むが、同時にどこか釈然としない気持ちが残る


蒼空片方の少女は義足になったが、もう片方は君のおかげで無事だ。同じ病院にいるから、会いに行くか?」


飛鳥の提案に、僕は一瞬迷った。少女たちの顔を思い出し、会うべきだという気持ちが頭をよぎるが、次の瞬間にはその思いを振り払った


別にいい」そう言って、ベッドから立ち上がる


蒼空冷たい男だな」

蒼空は僕に対しそう言ってくる


喉が渇いてるから飲み物買ってくる。病院に自販機は流石にあるだろうし……」


僕はそう言って机の上のスマホと生徒手帳をポケットに入れ財布を手に取り病室を出ていく


出る間際に蒼空帰ってきたら話があるからな」そんな声が聞こえた。


何の話だろう……その一言が頭に残り、僕は無意識に眉をひそめる。考えを振り払うように、静かな廊下を歩き始めた。無機質な白い壁が続く病院の中、自販機を探しながらも、心の片隅で蒼空の言葉が繰り返し響いていた。


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