第20話 Aパート

 紋黄町もんきちょうの南部。団地に住まう人々の駐車スペースの端に、鷲崎わしざきタクトは『COMMAコンマ』の社用車を停めた。


「やば。


 後部座席から降りるなり、秘密結社『apostropheアポストロフィー』の幹部であるタコ型怪人アイコンのオクタンが小さな身体を震わせる。タクトもオクタンと同じく、何者かからのを感じた。周囲を警戒するも、人影はない。


朱未あけみくんは出迎えてくれへんのか」

「電話してみちゃう?」


 オクタンはデコレーションされた携帯電話をちらつかせる。小灰町しじみちょうの『Quoteクオート』の社屋内で、タクトは知川ともかわ朱未と会話をした。そのときは、オクタンと朱未が会話していて、途中でタクトと代わったのだ。


「ウチは朱未くんのお宅がどこにあるか知っとるで」

「まぢ?」

「面接をしとるからな」

「あっ、そっか!」


 タクトが朱未と顔を合わせたのはほんの数時間前の話。朱未の面接での発言と、揚羽あげは大学の学生課から聞いた情報を照らし合わせて不審な点があったため、聞き込み調査を試みようとしていた。その途中でオクタンのクオート襲撃の報せを受けて、急遽行き先を変更し、クオートに向かったのである。


いひんのなら、こちらから行くまで」

「罠があるかもしんないのにー?」

「ほなら、おねえさんが先歩く?」

「やだ」

「さよか」


 すたすたと歩き出すタクト。左腕にしがみつくようにしてついていくオクタン。アスファルトに舗装された道の、両脇には街路樹が植えられている。その街路樹の上からの視線に顔を向けると、そこには何もいない。日が暮れるには早い時刻だが、だんだんと薄暗くなってきていた。


「六階やな」


 タクトは携帯電話を取り出し、メモしてきた住所と、建物名を確認する。間違いなくこの第四アパートだ。


「あそこ、あそこにありえんでかさのクモいるんだけど! ウケる!」


 オクタンが指差す先、壁にサッカーボール大のクモが貼り付いている。一匹ではなく、十数匹は見えた。クモたちは、タクトとオクタンをじっと見ている。様子をうかがっているようだ。


「クモの巣、っちゅーこっちゃな」


 この場所にたどり着くまで、タクトとオクタンをしていたクモたちが木々からおりてくる。どこかから見られているような、じっとりとしたイヤな感覚は、彼らからの視線だった。


「ようこそ。仮面バトラー事業部のおえらいさん」


 六階から一階へと動くエレベーターから、仮面バトラー事業部のおえらいさんタクトと呼びかけつつ、怪人が現れる。2月3日Xデイ、紋黄町のショッピングモールに出現し、望月もちづき兄弟の父親・望月大貴だいきの命を奪った怪人。クモ型怪人だ。


「よう知っとんな。誰から聞いたん?」

「おひさー!」


 タクトは怪人をにらみつけ、その隣のオクタンは右手を挙げて挨拶した。対照的なふたりに、クモ型怪人は複眼を光らせる。


「てゆうか、元のサイズに戻れたんだね?」


 クモ型怪人は、ショッピングモールで怪物と化していた。怪人は他の生物からシンボリックエナジーを奪い取り、トランスフォームシステムをフル稼働させて、より強力な怪物へと変化することができるのだが、一度怪物となってしまうと元の怪人のサイズには戻れない、とされている。オクタンが仮面バトラーフォワードと仮面バトラーリベロとの戦闘中に怪物化を思いとどまったのは、この不可逆性があるからだ。


「オクタンよ」

「んー?」

「クオートに行ったからには、仮面バトラーリベロを倒したのであろうな?」

「もちのろん! って言いたいところだけど、そのリベロがまぢで鬼つよで無理だったぽよ」

「ほう」

「めんごっ」

「ソレで許されると思うなよ!」

「びゃっ!?」


 クモ型怪人の手から糸が紡ぎ出されて、オクタンを拘束する。たぐりよせて、自らのかたわらに置いた。


「独断専行で敵地に向かい、しくじるとは何事だ!」

「でもぉ! 内部しっちゃかめっちゃかにしたし! 三体は確実に倒したし!」

「口答えをするな!」

「もぎゅ!?」


 口に糸が巻き付けられる。タクトはこのを、一歩引いて見ていた。アポストロフィー内での力関係としては、クモ型怪人のランクが上なのだろう。


「まあいいだろう。こうして、仮面バトラーとのの機会が設けられたのだから」

「もごぉ?」

「ウチのこと、覚えとってくれたん? ありがたいこっちゃ」


 タクトはスーツの内ポケットから指揮棒を取り出す。赤い執事バトラーに変身するために必要なアイテムをために必要なアイテムである。


「オマエにとってはか?」

「いいや? あのときのウチとはちゃうで」


 右手に握った指揮棒を振りかぶり、ムジカドライバーを宙に出現させる。左手でムジカドライバーを掴み、装着した。


第四楽章バージョン4演奏開始アクト


 五線譜が空から舞い降りて、周囲のクモたちを散らしながらタクトを中心にして包み込む。五線譜には音符が表示され、ドライバーからは『奏でろ深紅のサウンド! 響けサラウンド!』と、仮面バトラーとは異なる変身音が流れた。


「変身」

女神ミューズ、シエロのご加護がありますように』

「……ないよりはあったほうがええな?」

『仮面バトラー、コンダクター』

「仮面バトラーや。よろしゅうな」


 ムジカドライバーを仮面バトラーシステムバージョン3から仮面バトラーシステムバージョン4にアップグレードした仮面バトラーコンダクター。改め、仮面バトラーマエストロ。赤い執事バトラーの背中に、ヤタガラスの翼がつく。


「音楽の力は、通じなかっただろう?」

「ちゃうちゃう。それは前までのウチ。今は、シンボリックエナジーっていうで戦うようになったんよ」


 望月勝風しょうぶのリベロヴァルカンを仮面バトラーシステムバージョン4に換装し、無事に成功した。次に取りかかったのが、自身の持つムジカドライバーのアップグレードである。アポストロフィーに対抗するために、シンボリックエナジーを武器に変えるべくして改造した。


「オクタン!」

「ぷえ?」

「共に戦え!」

「ふつーにいやなんだけど。おにいさんの味方になりまーす」

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