第10話 Bパート
タクトが手招きし、勝利をホワイトボードの前に立たせる。それから、タクトは屈んで、フォワードベルトに左手を添えた。
「これが仮面バトラーに変身するためのベルト。仮面バトラーシステムバージョン4によって、仮面バトラーフォワードに変身できるんよ」
こまちは、きょとんとした顔をして「ふぉわーど?」と繰り返した。なじみのない言葉を並べ立てられたらこうなってしまうのは致し方ない。
「ってなわけで、勝利」
「え?」
「変身して見せて」
「今ですか?」
変身するたびに体内のシンボリックエナジーを消費してしまうリベロにはできない芸当である。怪人が出現していない、こんなデモンストレーションのために変身していたら文字通り身が持たない。
「こまっちゃんに伝わるように」
「わっかりました……変身!」
フォワードベルトとボールで変身する。サムライブルーの
「仮面バトラーシステムバージョン4は、秘密結社『
決定事項を話すタクトと、情報の処理が追いついていないこまち。知らないワードでまくしたてられた上に、後輩が見慣れぬ姿になって、混乱している。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
勝利は、変身を解除してからタクトを制止した。困惑しているのは、勝利も同じである。
「仮面バトラーって、ボクたちの秘密としてやっていたじゃないですか!」
『そうじゃよタクト。正体不明のヒーローとして、戦っていくんじゃろ!?』
一般市民を巻き込まない。仮面バトラーフォワードは、変身者を明かさない方針だった。週が明けて月曜日に、急展開である。ゴートも納得がいかない。
「せやから、これからはコンマの仮面バトラーとしてやっていこうと思ってん」
『どういう風の吹き回しなんじゃ?』
「タクトと
夜長――ライバル社『
「クオートには『仮面バトラーリベロ』がおるやろ? お互いに、怪人の情報を共有したほうがええやんか。コンマと、クオートは『仮面バトラー事業部』で業務提携したいんよ」
「イヤです!」
こまちはノーを突きつけて、勝利の左腕をつかむ。そこから「勝利くんも『クオートとは仲良くできない』と言っていたわよね?」と、同調するように呼びかける。
「それなら、第二営業部を巻き込む必要はないじゃないですか。第二営業部は、こまっちゃんが汗水流して
「そうだそうだ!」
「仮面バトラーはこれまで通り、基地でやっていきましょうよ」
「これまで通りって! 勝利くん、私に一度も話したことなかったわね?」
「それはその、これまでは、ボクが『仮面バトラーフォワード』として怪人と戦っていることは、ナイショにしないといけなかったので……ほら、こまっちゃんを戦いに巻き込むわけにはいかないでしょう?」
「そう……怪人と、戦っていたのね……」
これで『第二営業部』が『仮面バトラー事業部』となれば、一般市民であるこまちも世界の命運をかけた戦いに身を投じることになる。こまちは勝利の左腕から手を離した。
「もちろん、こまっちゃんの業績はわかっとる。入社から『第二営業部』で育ててきた人脈だとか人望だとかは『営業部』で活かしてほしいんよ」
「人事異動?」
「せやで。まるっと一つの『営業部』に合併して、この場所は『仮面バトラー事業部』にしていく。こまっちゃんは昇進、給料アップや」
「そんなこと、副社長のあなたが勝手に決めていいわけ?」
「勝手には決めとらんよ。ちゃあんと現社長に承認してもらっとる」
「……本当?」
訝しむこまち。現在のコンマの社長は、タクトの叔父にあたる鷲崎
「早くても来週には辞令が出る」
「来週!?」
「そんなに驚かんでも、自分のデスクの位置が変わるだけやんか。こまっちゃんの仕事量も仕事内容も大して変わらんよ」
「いや、変わるわよ。私も『仮面バトラー事業部』に関わっていきたいから」
こまちの申し出に、一瞬、場が凍り付いた。こまち以外の全員が、自らの耳を疑う。
「こまっちゃんが?」
最初に口を開いたのは勝利だった。タクトはメガネを外して、レンズを拭いて、かけ直す。目の前にいる、入社以来の同期が、実はニセモノと入れ替わっている可能性を考えたからだ。
「頼りない新人を支えて育てていくのは先輩の役目ですもの」
「いや、でも、こまっちゃんが仮面バトラーのためにできることって?」
「何よ! あるでしょうよ!」
「たとえば?」
「たとえば……そうね……」
腕を組んで悩み始めるこまち。これといって案があったわけではないらしい。
「今は思い浮かばないけれども、私だって、世界の平和のために戦いたいもの。勝利くんだけには任せないわ」
「こまっちゃん……!」
「わざわざ『仮面バトラー事業部』として立ち上げるのであれば、プロジェクトとして成功させるビジョンは見えているのよね、タクト?」
「いけ好かないクオートの連中と顔を突き合わせる機会は増えるけど、ええの?」
「そこはまあ……自分の気持ちと、折り合いを付けるわよ。子どもじゃあるまいし。私のこれまでのノウハウは、この一週間で引き継げるよう、資料にまとめるわ」
勝利とタクトは顔を見合わせた。決定権があるのは、タクトのほうである。
「おねえさん」
毛先をいじって遊んでいたお嬢様が口を開いた。この場にいる女性は、お嬢様とこまちのみ。なので、お嬢様が「おねえさん」と呼びかけた相手は、消去法的にこまちとなる。
「イーグレットさん、何かしら?」
「足手まといにはならないでね」
お嬢様なりの優しさからくる一言であったが、こまちに正しく伝わったかはわからない。
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