第9話 Bパート
もう一人、
「帰るで、お嬢様」
「ねえ、お嬢様。ボクたちの家に来ない?」
「何言うとんねん」
勝利に突っ込んだのは、お嬢様ではなくタクトだった。お嬢様は、ポテトをのどにつまらせたのか「ごほっごほっ」と咳き込んでいる。弟の発言を聞いて、兄の
「だって、ボクと兄貴がいるし、ゴートさんもいるし。ほら、とうさんの部屋を掃除すれば、お嬢様の部屋も作れるよ?」
『ショーリ。おぬしは母親を巻き込みたくないのではなかったか?』
「ゴートさんが溶け込めたし、お嬢様も、……なんて言えばいいかな、兄貴?」
ゴートは『
「お嬢様が『
とはいえ、兄は兄なりに考える。情報を整理しよう。
「そうそう。どこで誰が見ているかわからないからね」
「だが、お嬢様の顔を知っているのはオレたちだけではないか?」
「それもそう。
「いやよ!」
望月兄弟のあいだで『望月家で預かる』話が進んでいくなか、お嬢様が声を上げた。ポテトのあぶらと塩の付着した手で、机をバシバシと叩いている。
「わたしはここに住むわ!」
「そんなにポテトがうまかったんか?」
「ええ、そうよ!」
否定しない。勝利が「どれどれ」と木製のボウルに左手を近づける。
「あいたっ」
その手はお嬢様に叩かれた。盗み食いは許されない。
「ぜーんぶわたしのよ!」
「こんなにあるのに?」
「食べたらなくなるわ!」
「こんなにあるのに……?」
「全部食べるわよ! フォワードにはあげないんだからね!」
とうとう木製のボウルをひざの上に置き、両腕で抱えるようなポーズになった。相当気に入ったらしい。
「困ったなあ……」
フォワードの強化、リベロヴァルカンの改良などといったタスクの積み重なっている状態である。お嬢様は基地にいていただかなければならない。お嬢様はタクトよりもシンボリックエナジーに詳しい。お嬢様の力がなければ、思うように開発が進められない。
「なら、ボクが毎日、クオートから基地までポテトを届けるというのは?」
「フォワードが?」
「そう。ボクは
フォワードベルトを指さす。お嬢様の要望を聞き入れて実現するのも、執事の役目である。
「フォワードの転送システムを使えば、基地とクオートを行き来できるでしょう?」
『ふむ。フードデリバリーサービスじゃな』
「うん。揚げたてポテトを産地直送するよ? どうかな、お嬢様」
本来、クオートの食堂はクオートの社員が利用する場所だ。お嬢様の揚げたてポテトを用意するための場所ではない。お嬢様のわがままで、食堂の人員をコンマに転勤させるなんてことはできない。ならば、執事が動くしかないだろう。
「……もう」
「基地に帰りたくない事情があるのか?」
家に帰らず、ライバル会社へ入り浸っていた勝風がお嬢様に問いかける。揚げたてポテトにかこつけて、家出したいのであればまた話は変わってきてしまう。
「いいえ?」
「そうか。それなら、ポテトがあればいいのだな?」
「タクトには感謝しているのよ、これでも。好きなときに外を出歩けないのは、ちょっぴり寂しいけれど……あんなことが起こってしまったから、やっぱり、わたしは基地にいたほうがいいのよね」
あんなこと。
てしがわら遊園地の怪人は、お嬢様を見つけて『ワタシの手柄』と言った。怪人に見つからなければ、あれだけの破壊活動はされなかったかもしれない。犠牲者も出ている。
「ボクが、強くなるよ。強くなって、必ず『
「信じていいのかしら?」
『ショーリは、新たな力を手に入れたでの。それに、ショーブもおる』
「そうそう! リベロヴァルカンも鷲崎さんの力でパワーアップするしね!」
タクトはまだ『できる』とは言っていない。が、勝利は『できる』ことを前提にしていた。
「わたしを守ってね、仮面バトラーたち」
お嬢様は笑顔で、ふたりを見ている。仮面バトラーフォワードに変身する青年・望月勝利と、仮面バトラーリベロに変身する勝利の兄・勝風。ふたりは、ほぼ同時にうなずいた。
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