第6話 Aパート
てしがわら遊園地を破壊したのはゴースト型
だが、警察も、まさか新社会人の青年がてしがわら遊園地で大暴れしたとは思っていない。あの望月大貴の息子とあればなおさらだ。
「ごめんねえ、勝利くん」
勝利は犯行現場に居合わせていた重要参考人として、取調室に招待された。警察は警察として、やるべき職務をこなさなければならない。取調室に現れたのは父親の知り合いであった。
「おじさんも仕事なんだ」
知り合いだからといって勝利は『仮面バトラー』という存在を伏せなくてはならない。知り合いだからこそ、なおさら巻き込めない。どこからどう伝わるかわからないなら、警戒が必要だ。
「はい……わかってます……」
大事な情報は隠しつつ、事情を説明しなくてはならないのは、口下手な勝利にはたいへん難しい課題である。気付けば、夜の九時になってしまっていた。
「ただいま」
勝利は、疲労
右肩にはまだ話し足りない様子のゴートが鎮座している。警察からの事情聴取の前に、カバンの中へと封印していたゴートが解放されたのだ。
ゴートはそのぬいぐるみのようなかわいらしい見た目を活かして、警察署では無言を貫いていた。
『なんてことをしてくれたんじゃ!』
お説教タイムが始まったのは署を出てからである。しばらく黙りこくっていた反動か、普段よりも声が大きかった。勝利は、何も言い返すことができない。
「勝利!」
帰宅した息子に、母親が駆け寄ってきた。てしがわら遊園地に怪人が出現したことは、すでに報道されている。お嬢様が【復元】を使用していないからだ。Xデイのショッピングモールの悲劇以来の大事件とされていた。
「よかった……ほんとうによかった……」
出かけたきり、連絡もなく、帰ってこない。最初は夫。次に長男。次男までもとなると、母親としては堪えられない。
「心配かけて、ごめんなさい」
母親に抱きしめられた勝利は、謝ることしかできなかった。署を出てからの勝利は謝りっぱなしだ。ほかにも謝らなければならない相手がいる。
***
翌朝。
勝利は『
タクトからは、ゴートからよりも激しく叱責されるのではないか。普段が穏やかな人間ほど、怒ったときには怖いものだ。勝利は鉛のように重たい足をなんとか動かして、基地までやってきた。ゴートが逃がしてくれない。
「……おはようございます」
「なんや、青い顔して。朝が苦手なタイプなん?」
「い、いや、早起きは得意ではないですけど、そうではなくて」
「まあまあ。そこ座りぃや。コーヒーでええか?」
「……はい」
ホワイトボードには、昨日てしがわら遊園地で撮影されたとおぼしき仮面バトラーリベロの写真が貼られていた。限界までズームして撮られたものらしく、どことなく荒い画像となっている。おそらくはSNSに転がっていた画像だろう。
「どーせ昨晩、ゴートはんにこってりしぼられたんやろ? せやから、ウチは怒らんよ」
「えっ」
『タクト!?』
「怒らんけど、反省はしてほしいやな。反省した上で、何があったんか詳しく聞かせてほしいんよ」
椅子に腰掛けた勝利の前に、マグカップが置かれた。ブラックコーヒーがなみなみと注がれている。
「この黒い仮面バトラーは、なんや?」
ライバル会社『
「仮面バトラー、リベロです。そう名乗っていました」
「ウチが作ったんとちゃうなぁ。こんなの知らんもん。ウチの仮面バトラーシステム4をパクったんかな。いや、違うか。仮面バトラーフォワードの活動は表沙汰になっとらんもんな」
勝利に一瞬のためらいが生じた。この基地の存在は、コンマの社員にも知られていない。だから、仮面バトラーシステム4に関する情報が流出するとしたら、基地に出入りできるほどの存在が持ち出す、以外にはあり得ない。
「リベロは、Xデイにショッピングモールに現れた赤い仮面バトラーの戦闘データと、怪人のトランスフォームシステム? がどうのって言っていました」
赤い仮面バトラー。勝利はまだ遭遇していない。亡き父親と共闘した、とされている。 ショッピングモールには参上したが、ほかの地域で怪人が出現した折には登場していない。したがって、目撃情報はXデイの一件のみだ。
「リベロとは、結構しゃべったん?」
「ああ、はい。それで、一ヶ月後、フォワードと戦いたいって」
「一ヶ月」
「そしたら、お嬢様を返してくれると」
「ほーん?」
「リベロも、お嬢様の力を必要としているのだと」
「せやろな。シンボリックエナジーをこの世でもっともうまく操れるんは、お嬢様やしな」
シンボリックエナジー。勝利も視認している光の玉のようなもの。
「シンボリックエナジーって、結局何なんですか?」
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