第2話 戦闘はスタイリッシュに

第2話です。長いですが、お願いします

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六本木ダンジョン 中層 フォレストゾーン


エンドはダンジョン中層で依頼のブツを持っている”モンスター”を探していた。

辺りは木や草が生い茂り、地下のはずなのに太陽光のようなものがサンサンと照りつけている。


足に草が纏わりつくのをうっとおしく思いながらも、モンスターの捜索を行う。

しばらくすると目の前の茂みがかすかにガサガサと音を立てる。

エンドはもしもの時に備え、腰のベルトに付けているナイフを取り出す。

茂みの中から出てきたのは…………頭に角を携えた「ホーンラビット」であった。


「なんだよ……ホーンラビットかよ。……まぁ丁度いいか」


ホーンラビットはエンドの存在を確認すると、逃げるまでもなく、臨戦対戦に入る。

自前の角を全面に出し、ウサギならではの足の脚力でエンドに向かって突進をする。

流石に中層のモンスターだけあって、その動きはとても速い。

左右に行き来する致死性を伴う速さの野球ボールが向かってくると考えればウサギであろうと侮れない。


だがエンドは違う。エンドにとってこの程度のスピードは

エンドはナイフを逆手に持ち、構えをとる。ホーンラビットは未だ突進を続ける。

そしてその時は来た。ホーンラビットはエンドの間合いに入った。

エンドはナイフを振るう。


一瞬の内にホーンラビットの首と胴は分かれていた。エンドのナイフには鮮血がべっとりと付着している。


「いやー丁度良かった。これさえあれば、アイツらも寄ってくるだろう。……にしても臭え」


エンドはホーンラビットの死骸を腰に括り付け、再度モンスターの捜索を続ける。


だがすぐに死骸を括り付ける作戦は効果を発揮する。

エンドは立ち止まり、耳を澄ます。半径10m以内を囲むようにジリジリとそれは向かってくる。

吐息に歯軋り、草を静かに踏む音・よだれが地面に滴り落ちる音。全てがエンドには鮮明に聞こえていた。


ついにそれは姿を表す。それは人間ほどの巨体の四足歩行の獣「ワイルドウルフ」。それが10匹。エンドを囲むように距離を取っていた。

ワイルドウルフは上層の「グレーウルフ」の上位互換であり、その凶暴さと狡猾さは数多の探求者の命を奪った。


「やっとお出ましだよ。ったく早く出てこいってんだ。こちとら勉強もしなきゃいけねえから大変だってのに。……にしてもゾロゾロと。このウサギが欲しけりゃくれてやるよ」


エンドは腰に括り付けていた死骸をワイルドウルフに投げつける。しかしそれには一切反応しない。

最初は手負いのウサギがお目当てだったが、今ワイルドウルフの目にはエンドしか写ってない。

ここにいる全てのワイルドウルフは目の前のデカい肉を求めている。


「……さてと、んじゃ始めますか」


エンドはナイフを手に掴み、力強く一歩踏み出す。まずは一番近いワイルドウルフに狙いを付ける。

一瞬にして目の前に現れたエンドに対し、ワイルドウルフは反応を出来ない。


ナイフを脳天に突き刺し、鮮血が周りに飛び散る。 残り9匹。


その様子を見ていた一匹がエンドに向かって飛びかかってくる。

飛びかかってきた瞬間、エンドはワイルドウルフの下をスライディングすると同時に、腹部にナイフを刺し、縦に裂く。

中から描写できないモザイク必須のモノが出てくる。 残り8匹。


流石に2匹も殺られた事により、全てのワイルドウルフたちが動き出す。

全方位からやってくる敵をエンドは一匹ずつ的確に始末していく。

右からやってくるワイルドウルフが鉤爪で攻撃してくるが、足を左手で掴み、付け根から足をナイフで断ち切る。

その後下に倒れるワイルドウルフを即死級の蹴りを入れ、見事撃沈。残り7匹。


後ろからエンドの隙を伺うワイルドウルフがいた。だが当然エンドはそれに気づいている。

左手にナイフを持ち替え、頭部の側面にナイフを刺す。残り6匹。


「おいおい、ナイフ抜けないんだけど」


ここでトラブルが起こる。先程殺したワイルドウルフからナイフを抜こうとするが、何かが突っかかり、ナイフが抜けない。

だがすぐ次の攻撃が来る。エンドは仕方なくナイフを手放す。迫りくるワイルドウルフを素手で迎え撃つ。

すぐ相手の懐に潜り込み、首の骨を軽々折る。残り5匹。


「素手でも意外とやれるじゃん。ホント俺は”スキル”に恵まれたよ」


素手の攻撃に目覚めたエンドはこの勢いを落とさずに次の敵を狙う。

だが不思議なことに敵が襲ってこない。残り5匹は奥で固まっている。


「……なるほど。さっきの5匹は捨て駒で、残りの5匹。いや残りの4匹は群れのボスを守る守護隊か」


確かに前衛に出ているワイルドウルフの後ろには1匹、一際図体が大きい個体が存在している。

あれがこの群れのボスなのだろう。エンドはジリジリと距離を詰める。

すると前衛4匹が全てが横並びにエンドを待ち構える。


事態が膠着する中、ついにエンドが動き出す。


「こういう時の必勝法は”頭”を殺すことだよね」


真っ直ぐ敵のボス個体に向かう。他のワイルドウルフは無視。エンドは”身体強化”スキルを全開にし、ボスの首元を狙う。

しかし前衛のワイルドウルフはそう簡単に先へ行くことを許さない。

エンドは鉤爪での攻撃を腕で防ぎ、噛みつき攻撃を華麗に回避する。

その最中エンドは1匹の足を掴む。


「ヴァウ!?」

「いっせーの!!」


エンドはワイルドウルフをヌンチャクのように振り回し始める。人一人分より少し重い物体が物凄い勢いで自分に向かってくる。

それは避けようのない車との衝突に似ているだろう。当然攻撃が当たったワイルドウルフは衝撃に耐えられなく死んでしまった。

ヌンチャク代わりにされたワイルドウルフに関してはぐちゃぐちゃになり、臓器などが地面に飛び散っている。


「さてさて〜後1匹!これで今日の仕事は終わり!」


残り1匹はボス個体であるがエンドにとっては余裕の相手。

もしかするとボス個体は逃げ出すかもしれないが、むしろ逃げてくれたほうがエンドには都合がいい。

もうすでに依頼内容は入手できる状況であり、1体だけ倒せればよかったのだから。


だがボス個体は逃げ出すなんて真似はしなかった。それは”ボス”としての維持なのか。

ボス個体は大きく息を吸う。


「おっとそれは話が変わってくるぞ」


エンドの経験上、狼型のモンスターが大きく息を吸うのはある”スキル”の予備動作である。

そのスキルとは「ハウリング」。意味としては”遠吠え”。

このスキルが発動すると、遠くから仲間が来たり、それを耐性のない人が聞いたら、しばらく身動きができなくなる。

生憎エンドには耐性は存在しないし、仲間が来られてもぶっちゃけ困る。


エンドは腰に付けてあるもう1つのナイフを取り出す。そのナイフをボス個体の口の中目掛けて投げる。

「ハウリング」スキルは予備動作が必須なので、その予備動作が中断されたらスキルは発動できない。

投げたナイフは見事に口内に命中し、ボス個体は突然の痛みに悶えてしまう。


エンドはその隙を見逃さず、今度はコート内に潜ませていたナイフを取り出し、首を掻っ切る。


ついに全てのワイルドウルフを討伐し、エンドは少し一息つく。


「いつもより少ないけど、なんか疲れたな。最近はロクにダンジョンに潜ってなかったからかねー。はぁまあいい。仕事を終わらせよう」


エンドはボス個体の口内からナイフを取り出し、そのナイフを使ってワイルドウルフの歯をえぐり始めた。

今回の依頼内容は「ワイルドウルフの歯の調達」である。

ワイルドウルフの歯はとても頑丈で、しかも磨けば光る性質がある。

そんな性質からそれを加工し、アクセサリーにしたりするのが富裕層で流行っている。


だがワイルドウルフの歯は普通に市場に出回っている。ではなぜエンドのような違法探求者に依頼したのか。

単純に市場に出回っているのは時間が経ち、粗悪品に成り下がった、ただの歯なのである。

ワイルドウルフの歯は意外に寿命が短く、すぐに依頼主の元に届けるには違法探求者を頼るしかないのだ。


エンドは依頼分と自分用に歯を取り終える。

ゲームと違って、自分で採取するしかないのがキツイ所。体やナイフに付着している血を払い、その場を後にした。


これからエンドは中層から上層、その後地上へと出る。だがエンドは違法探求者である。

”正規の道”を通ることは出来ない。正規の道にはダンジョン協会員が常駐している。

なので違法探求者は密かに開拓された”違法の道”を使用する。


違法の道の入口に着くと、そこにいる裏社会の人間が道への扉を開けてくれる。ちなみにエンドは顔パスである。


舗装されてない長い階段をしばらく進んでいると、行き止まりに着く。だが少し力を入れて壁を押すと、上層に出ることが出来る。


六本木ダンジョン 上層 ケーブゾーン


中層のフォレストゾーンとは違い、凸凹が多い岩肌の地面に薄暗くジメジメとした空気が漂っている。

エンドは先程と同じに”違法の道”に向かう。


「……………………」

「…………………………」

「………………………………!」

「………………………………〜」


エンドは足を止める。話し声が聞こえる。明らかに人間の声。数は4人。段々とこちらに近づいてくる。


(こんな所に人が来んのかよ。ダンジョン協会員?いやあいつらはこんな大人数で動かない。普通の探求者パーティーだな)


エンドは足音を立てず、すぐに岩陰に隠れる。息を潜め、完全に気配を消す。

足音は着々と近づいてくる。しばらく経つと話し声が鮮明に聞こえてくれる。


「あー、ここどこだ?」

「少なくとも中層に行く道はないわね」

「えっと、大丈夫ですよね?」

「結構歩いたぞ。疲れた」


男女4名の会話が盗み聞きする。どうやら中層に向かいたいが、道に迷ってしまったようだ。

中層に行くなら、ある程度探求者としてのレベルは高いんだろう。流石に戦うのは悪手だ。

エンドは引き続きじっとしている。


「…………」

「どうしたユイカ?」

「そこにいる人。出てきなさい」

「「「「…………………………!!」」」」


短髪の髪の女はエンドが隠れている岩陰を指差す。

(おいおい。まさかバレた?ブラフな訳ないし。……なるほど「探知」スキルか)


エンドは諦めて、岩陰から姿を表す。4人は当然エンドを警戒している。


「まさかこんな所に人が来るとは。反射で隠れてしまったよ」

「反射で?何かやましい事があったんじゃなくて?」

「最近は物騒だ。ダンジョンで人殺しが行われていると聞く。あまり関わりたくないのさ」

「……ま、理由としては妥当ね」


4人は手に持っていた武器を下ろす。

(俺演技意外とうまいな......てかさっきユイカと呼ばれていた女。なかなかの実力者だな。探知スキル持ちだからアサシン寄りのジョブだろうか。スピードが速そうだ)


「うちのパーティーメンバーが怪しむような真似をしてすまない。僕は井口 リョウ。こちらが愛川 ユイカ。

 そこの若い子たちがタケルにメイだ」

「……よろしく」

「よろしくお願いします!」

「よろしく!」

「そちらも自己紹介したんだ。僕は……そう……シュウヤと呼んでくれ」

(とりあえず第1段階はクリア。さっさとここから離れよう)


全員の自己紹介が終わり、みんな警戒心が解けたのか。ジメジメとした空気に穏やかな空気が混ざり始めた。

これなら問題を起こさずに地上に上がれるだろうとエンドは確信する。


「じゃあ僕はこれで。皆さん探索頑張ってください」

「もう行くんですか?」

「先程まで休憩してたので、これから地上に戻ろうと」

「そうですか。お気をつけて」

「ええ、では」

「あ!すいません!念の為、”探求者ライセンス”を見せてくれませんか?」

「…………」


エンドはリョウの言葉にピクリと静止してしまう。まさかライセンスを出せと言われるとは想定外だった。

最悪なことにエンドはそんなモノ持っていない。


「……分かりました。少し探すので待ってもらっても?」

「もちろん。構いません」

(やばいな。持ってないよライセンスなんて。とりあえず探すふりしながら考えるか)


エンドはありもしないライセンスを探し始める。その間にこの状況からの打開策を考える。

(1つ、このまま逃げる。俺の身体強化スキルなら逃げられるだろうか?いやスピード特化のスキル保持者がいたら負ける)

(2つ、ダンジョン内での紛失を装う。無理だ。ダンジョンは入るときにライセンス必要だから、一緒に確認なんてされたら終わる)

(3つ、殺す。全員殺して隠蔽。これが一番簡単。でもやるなと言われている。クソ!タイムアップか!)


「どうですか?見つかりましたか?」

「……はい。やっと見つかりましたよ。いやー整理整頓はちゃんとしないとね」


エンドはリョウの元へと近づいていく。相手はなんの警戒心を持っていない。


「はいこれが……」

「ライセンスですか?」

「鉛玉です」


エンドはリョウのデコに銃口を押し付け、引き金を引く。

バンッ!!

一発の銃声が響く。リョウは叫びもせず、床に倒れる。


「「!!!!!」」

「キャ、キャアアアアアアアアア!!!」


メイと呼ばれていた少女はありえない光景に悲鳴を上げる。

その他の二人はすぐに武器を取る。


「人殺しを見るのは初めて?あんまり人は殺したくないんだけどね」

「よくも……よくもリョウを!!!」

「フフ……フハハハハハ!ハハハハハハハハ!」

 

エンドは高らかに笑う。その狂気が相手の表情をどんどん暗くさせる。


「さぁ殺し合いを始めようか」

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次の話の前に用語・スキル解説とキャラクター紹介を入れようと思います。

応援よろしくお願いします。

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