第10話 清正呼び戻される 修正版

※この小説は「倭城(わそん)」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


空想時代小説


 西生浦倭城(ソソンポワソン)での生活がまた始まった。

 城がだいぶできてきた。浜の近くの出丸だけでも堅固な石垣が組まれている。そこから山に向かって竪堀が掘られ、その内側に石垣が縦に伸びている。上にいけばいくほど広がっていて、ところどころに曲輪がおかれている。頂上近くに行くと、二の丸がある。そこに入るには鉤型の道と桝形の門を越えなければならない。敵が攻めてきても三方から鉄砲や弓矢で攻撃できる。

 本丸には見晴らし台が気づかれ、そこに上がると遠くまで見渡すことができる。北は蔚山(ウルサン)方面、東は海、南は機張(キジャン)方面が見渡せ、敵の動きがよくわかる。西は尾根が続いているが、そこを切り開き馬で降りる道ができている。規模は小さいが守りには充分である。まわり道をすると、ふもとにでられるので、攻めてきた敵は突然現れる騎馬隊に驚くであろうと思われた。

 隼人は出丸の守備を任されたので、十兵衛もそこの配置となった。鉄砲隊30名を預けられている。

 敵が攻めてくる気配はなかった。地元民とのあつれきもほとんどなかった。略奪はしないし、地元民が石や木材・食料をもってくれば、それなりの褒美を与えたからである。

 そんなある日、陣内に激震が走った。清正が大坂に呼び出されたのだ。太閤の逆鱗に触れたということである。何がなんだか分からないうちに、清正公は船で去っていった。そこで隼人が配下を集めて話を始めた。

「今回の清正公の帰国のこと、寝耳に水のことで皆驚いたことと思う。今後は黒田長政公の配下となる。することは今までと変わらん」

 との話に安堵する者が多かったが、一人の家臣が口を開いた。

「殿はどうして帰国されたのですか?」

 その問いかけに隼人はしばし間をとってから

「先の晋州城(チンジュソン)の敗戦の責めを問われたということじゃ」

 との声に、皆にどよめきが起きた。

「殿は行ってはいないではないか!」

 という声が多く上がっている。隼人が重ねて言う。

「その行ってないことが問題とされたのだ。長政公から誘いがあったのに、それを断ったことが敗戦につながったと小西行長から大坂へ報告がいったらしい」

「そんなバカな! 隼人さまが3000の兵を連れ参戦し、半分以上を失ったというのに・・・」

 兵の中から嗚咽(おえつ)がもれている。晋州城攻撃の主将である細川忠興が第一軍の将である小西行長に泣きついたのは明白である。後でわかったことだが、行長の傍らには朝鮮奉行の石田三成がいたということである。講和をのぞんでいる二人が共謀して、抗戦派の清正を帰国させたというのが実情だということがわかるのは後日のことである。

 十兵衛が弥兵衛といっしょに曲輪にもどってくると、そこに隼人がやってきた。

「隼人さま、どうされましたか? 先ほどはお疲れさまでした」

「うむ、まいった。また仕える殿が代わってしまう。清正公は剛毅でよかったのだが、長政公はな・・・」

 隼人が言いたいことはすぐに分かった。晋州城攻めでも細かいことを言われ、時には激高する長政を見ていたからである。

「実は、殿からの伝言をもってきた」

「殿からですか?」

「うむ、今度政宗公が渡海してくる。そこで、十兵衛とその配下を政宗公に返せ。という伝言じゃ」

「そうですか、やっと殿が来られますか。隼人さまと別れるのはつらいですが、これも定めでござるな」

「うむ、縁があったらまた会おう」

 というやりとりがあり、翌日、弥兵衛とともに釜山へ出向いた。そこに懐かしい顔があった。1年ぶりの再会である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る