失敗続きの転生に先はあるのか?

いずいし

第1話 転々々転生

 ま…まぶしい……。それに何だ?この浮遊感は。


 気付いたら知らない天井……では無く、水の中ってお魚転生とかで?



 少し落ち着いて考えてみても、ここが何処で、何故自分が水の中で浮遊しているかは全く分からなかった。


 プールの中でただプカプカと浮いている、そんな感じだった。時折、手足を動かして移動を試みるも、たいして距離は稼げない。


 そして、気付いた時には巨大で半透明な虫に囲まれていた。


 俺的には『ぎゃーーー!!』と、盛大に叫んでいたけど、声として発声されることはなかった。しかも、良く見ると俺の手足も虫の様な形をしている。


 え??転生したら魚じゃなくて虫だった、ってパターンなの?!しかも何この虫は?!超弱そうなんですけど!すぐ死にそう!!


 神様、1つくらいはチート下さいよ!!


 気持ち叫んだ風にガチで訴えた。出ない声を大にして訴えた。


 すると、あるイメージが浮かび上がった。





『異世界言語(会話・読み・書き)』





 ……………………虫に異世界言語を覚えさせても使えねぇだろうがぁぁぁぁぁぁー!!!!

 ねえアホなの?神様って実はアホの子だったの?!テメェがいっぺん死んでやり直せや!


 再び出ない声を大にして理不尽を訴えていると、太陽がサンサンと照り出し、俺の入っていた水の水温が上がって来た。


 熱い……なにこれメッチャ熱いんだけど!


 水温の上昇と共に、周りにいた虫達が徐々に活動を停止して行く。


 そう、死んでいった。


 そして俺もあっという間に死んだ。


 振り返る余地も無い程に短い一生ミジンコ人生だった。


 嘘だろ? 

 これが俺の異世界?転生なのか…………?


 やり直し……キボン…ヌぅぅ………………









 むむ……真っ暗、と言うか目が見えない。あれ?俺さっき死んだ気がするんだけど……。


 なんか今度は首根っこ咥えられてプラプラされてるぞ。それに声が出た。『にゃ〜にゃ〜』と。


 マジか…今世は猫かよ?!前世ミジンコよりはマシだけどさぁ。

 でも猫は猫でも強い猫かもしれない。今後の俺の成長に乞うご期待だ!


 しっかし、マッマは何処まで俺をプラプラ運んで行く気なんだ?


 生まれて間もないせいか目も見えないし、きっと歩く事も覚束ないだろう。今はマッマを信じて身を任せるしか方法は無いな……。


 それより、神様!今度こそまともな転生チートをくれたんだろうなぁ?




『異世界言語(会話・読み・書き)』

『収納(時間経過無し・容量無限)』




 あ〜〜〜ん〜〜〜〜……正直、猫に『収納』は微妙だな。

 俺としては、ここ異世界に来てまでリアル猫に小判は止めてほしかったよ。

 それなら寧ろ攻撃系の魔法をくれ!!


 再び脳内で文句を喚いていると、マッマが急に走り出した!


 プラプラが激しいブランブランへと変わり、必死にマッマが走っているのが分かった。

 俺は少しでも振動が抑えられる様に手足と背中を丸め、荒い息でも俺を離さずに咥えてくれているマッマの負担を減らそうとした。


 そして俺でも分かってしまった。背後から追いかけて来る複数の足音が。この臭い…クソ犬共だ!


 懸命に逃げるマッマをもてあそぶ様に犬共は執拗に追いかけ、ついにマッマと俺を取り囲んだ。嫌でもその気配と臭いで気付かされる。


 クソ、このままじゃ駄目だ!俺を放して!マッマだけなら逃げられるはずだよ!


 だけど俺がどんなに鳴いて訴えても、マッマは俺を離さなかった。迫りくる犬共に爪を出して抵抗をし、最後まで戦ってくれた様だった。


 そしてマッマが声も無く死んだ。飢えた犬共はマッマを喰らい、そして俺も頭からバリボリと食われ呆気なく死んだ。そう、また死んだ。


 こんな転生もう嫌だ!何なんだよ!これは!


 マジふざけるな!俺は改善とやり直しを要求する……ぞ…………………











 ………ん?………………水の中アゲイン。

 えーーーーーー?!これって、またミジンコなのかよ?!


 おい神様!ふざけ……んっ?……手が……指がある!見えないけどちょっと動かせるし!足もだ!キタコレやっと人間だよな?!

 良かった……良かったよ〜〜!3度目の正直で人間転生が叶ったんだ!


 よーし良し!じゃあ今度こそ、使えるチートを頼むよ〜!冗談抜きで頼むよ!




『異世界言語(会話・読み・書き)』

『収納(時間経過無し・容量無限)』

『魔力検知(魔力濃度やその動きが瞬時に分かる)』





 ん??で???だからなに?!?!

 ここは魔力が濃いね〜〜〜とか分かってもしょうがねぇだろ!!

 お〜〜い〜〜!!何の役に立つんだよコレ魔力検知は?!


 あれ?何だか、回りから締め付けられる様な感覚が……もしかして生まれるのか?俺様爆誕の時か?!

 よし、ここはいっちょマッマを安心させる為に、立派な産声を上げてやるぜ!



「ぎ、ギャーーーーー!!!!」



 ええ?!俺の声きったな……それにもう目が見えるぞ。これが異世界仕様の人間なのか?


 あれ?あれれれ?

 手が……変な色だ。それに爪がもう生えてるし……嫌に鋭利だ。

 コレもう凶器認定頂けるレベルの爪だよ。

 あ!もしかして着け爪…じゃないよね〜!俺生まれたてじゃん!



「ギャッギャ(生まれたぞ)!」

「ギャゥギャギヤッ(次を仕込め)!」

「い…や……嫌!!もうイヤァァァーー!パパ助けて!ママァァァーー!!」


 

 マッ…マ?……え…ゴブリンが……ゴブリン?!嘘だろ?!俺、ゴブリンなのか?!


 マッマは俺を生んだばかりだと言うのに、狂った様に叫んで暴れていた。それをゴブリン達が囲んで組み敷いている。


 やめ…やめろ…やめろやめろやめろクソ野郎!!ふざけんなクソ屑共が!!


 魔物特有の事なのか、俺は既に四つん這いで動く事が出来た。必死にマッマに取り付くゴブリンを払おうと、手を振り、爪を立て、噛みつき向って行ったが、成長したゴブリンの力には敵わず、腕の一振りで近くの壁にぶち当たってそのまま意識を失くしてしまった。



「………ギャ……ギャゥン………(い……痛い)」



 意識が戻って辺りを見回すと、マッマが近くに居るのが見えた。他のゴブリンは気が済んだのか居なくなっていた。

 マッマは生気のない虚ろな目をして横たわっている。弛緩した身体は、暴行された跡で埋め尽くされていた。


 ……ごめんね………生まれたてのゴブリンの俺じゃ助けられなかったよ。でも今なら1つだけ出来る事がある。


 そしたら俺は地獄行きかな?でも、それでいいや。


 俺はマッマの近くに寄り、手を添えて開いた目を閉じさせた。



「……………ギャぅ(ごめん)」

「………しなせ…て……おね…がい……」



 俺は、鋭利な爪でマッマの柔らかい首を切り裂いた。


 まだ幼さの残る顔立ちのマッマは、小さく咳をしてそのまま静かに息絶えた。


 俺は泣いていたが涙は出なかった。どうやらゴブリンには涙腺が無い様だ。それじゃ目が乾くだろ、とかそんな下らない事を考えて、動けずにその場でボーッと座っていた。


 暫くすると、血の匂いを嗅ぎつけた他のゴブリン共が戻って来た。そして死んだマッマを見て激昂し、今度は俺を囲んで嬲った。


 そこで3度目の死を迎えた。今回も短かったな……でもいいや。畜生よりはずっといい……












 フワフワと温かな水中を揺蕩たゆたう。おいまた水の中かよ………。神様も芸がねぇな。


 だけど心地よい揺れ、規則的に伝わる鼓動。“伸び”をするには少し狭いけど、伝わる安心感がそこにはあった。

 

 気持ちいい………。スパリゾートかここは?


 その温もりに包まれて微睡み、そして時折手足を動かす。今までと違ってとても穏やかだ。


 その温かさとは別に、へその辺りにはぽわ〜っと少し温度の高い塊があるのが分かった。何だろ……これ……手足みたいにちょっと動かせる。へそから心臓、頭、指先にまで動かしてまたへそに戻した。そうすると、身体が全身ぽかぽかとして来た。今までが適温だったからちょっと熱い。


 そんな風に感じていたら、急に周りの水が少なくなった。……あれ?どうして??


 そんな変化に気付いた後、微睡みとは無縁の怒涛の変化へと切り替わって行った。徐々に狭くなる環境。呼吸の仕方を忘れたみたいに喘ぎ、頭は千切れそうな程の圧迫を受けた。その立て続けに襲ってくる痛みと混乱で泣き叫んでしまった。



「…ケフッ…コフッ………オギャー!!」



 これは赤ん坊の声だ。人間の赤ん坊の泣き声だ!確かに俺の口から出ているんだよな?確認したくても、まだ目が見えないし、そもそも開かない。



「ああ!良かった!大丈夫ですよ…大丈夫、よく頑張りましたね坊ちゃま……。」



 俺に声を掛けて来た女は、そう言うと布地で俺を包み、胸に抱いて静かに背中をトントンと優しくたたいてくる。その鼓動と同じリズムで俺はやっと落ち着きを取り戻せた。今度こそ人に転生したんだ!


 だが、周りの環境は今迄のそれとは比べられない程の喧騒と緊張感に支配されていた。



「カトリーヌ!お願いだ、目を開けてくれカトリーヌ!」

「ああ、奥様!!早く治療師を!誰でもいい至急治療師を呼んで来るんだ!」

「はい!!」



 人々が慌てふためき、懸命に女性の名を呼ぶ男の声が続く。そして暫くすると、静寂と共に啜り泣きの声へと変わっていった。


 見えないけど伝わって来るのは嘆き。



 その日、俺は母の命と引換えにこの世に生を受けた。



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