女子高生のきょうだいが唐突に出来たら当然起こること

にょーん

第1話 なんの変哲もないはずの放課後

 学年が二年に上がって初めて迎える金曜日。

 来週から本格的に授業が始まるということもあり、周囲からはだるいだの、勉強しなくていい今遊ぶしかないだの、いろいろ聞こえてくる。

 なんにせよ新しい俺のクラスメイトは友人たちとめいめいに会話しながら部活へ向かったり、放課後を謳歌しに街を目指したりしている。

 俺以外。


「……」


 俺の周りは非常に静かだった。

 クラス替えをしたとはいえクラスメイトが全員知らない人間になるわけではない。

 たいていの場合何人かの友人とはそのまま同じクラスになるものだ。

 加えて今のクラスになって一週間が経ったのだ。

 嫌でもクラスメイトと交流する時間はあるし、交流していれば友達が増える。

 だからみんな仲のいい人間の一人や二人は抱えている。

 ただそれは常人の場合だ。

 常人でない俺には当てはまらない――。

 なんてかっこつけてはみたものの、ただ極端に俺は他人と喋るのが嫌いなだけ。

 たまに日本語を話すのが久しぶりすぎて「ニホンゴワカラナイアル~」ってなる。ならない。

 ともかく。

 俺はほとんどクラスメイトと喋らないし、そんな俺に友達なんてできるわけがない。

 去年から変わらない生活に俺は何の感慨も抱くことなく、荷物をまとめる。


「てか二人と同じクラスなれてホント良かったー」

「ほんとにそれ! 先生が配慮してくれたのかな」

「かもね」


 近くの席の女子の会話が聞こえてきた。

 やや派手な感じの女子Aとゆるふわな感じの女子Bに、ダウナーな女子が首肯する。


「配慮するなら彼氏とクラス別にしないでほしかったけどねー……」

「泣かないでー!?」

「私たちがいるじゃん」

「持つべきものは友達だよっ」


 瞳を潤ませた女子Aがダウナー女子に抱きつき、女子Bがうむうむと腕組み後方プロデューサー面。

 仲が良くて大変結構。

 数分見ているだけで伝わってくるこういった固い友情は、ぼっちの俺には一生縁のないものだろう。

 今日も家に帰ってゲームしてマンガ読んで少し勉強しよう。

 エンタメがあふれている現代に他者との交流は不要なのだ。

 自室で俺を待つエンタメ達に思いを馳せながら俺は立ち上がり教室の出口へ歩き始める。


「今日どっか行く?」

「行こー! 葉月はどこか行きたいとこある?」

「あ、私今日はパスで」

「お、まさか彼氏かー!?」

「彼氏っていうか――」

「ぐえっ」


 女子達の隣を通り過ぎようとした俺の襟元が強くつかまれ、口からうめき声が漏れる。

 そしてダウナー系女子こと、今年の春から俺の姉となった大友葉月が首をかしげる。


「新しい家族?」

「「け、けっこんーーーーー!?」」


 そんな葉月の言葉に彼女の友人二人が驚愕に目を見開く。

 というか新しい家族って何だ。俺はペットかよ。


「お母さんに買い物頼まれたの。一緒にいこ」

「……」


 顎が外れそうなくらい口を開けて驚く友人二人に構うことなく、葉月はなんでもないことのように俺を誘う。

 この常に目が半分閉じているみたいな大友葉月と俺が家族になった理由を語るには、年始まで遡らねばならない。


「てかこの男子誰?」


 おい。

 ひそひそと耳打ちしてるが俺にはちゃんと聞こえてるからな女子B。

 まあ俺も女子Bの名前知らないけど。

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