僕のお父さんは元ヤクザ
@eightywalk
第1話 影のある男
僕のお父さん、章浩はとても優しい人だ。
僕が幼い頃から、彼はいつも僕のそばにいて、たくさんのことを教えてくれた。
僕の名前は智成。
小学5年生で、元気な男の子だとお母さんはいつも言ってくれる。
でも、僕がこうして毎日を笑顔で過ごせるのは、間違いなくお父さんのおかげだと思う。
お父さんは、僕にとってヒーローだ。
彼は何でもできる人だった。キャッチボールをするときも、釣りに行くときも、いつも僕に優しく教えてくれた。ボールの投げ方を教えてくれたのは、お父さんだった。僕がどうしても上手くいかないときは、何度でも一緒に練習してくれた。
お父さんは僕のことを見守りながら、いつも励ましてくれたんだ。
そして、毎年の夏休みには、お父さんと一緒に釣りに行くのが僕たちの恒例行事だった。
僕が小さな魚を釣り上げると、お父さんは「よくやったな、智」と微笑んでくれた。その笑顔が、僕にとって何よりの宝物だった。
お父さんは、釣り糸が水面に落ちる音や、風に乗って流れる匂いを感じながら、ゆっくりと時間を過ごすことを教えてくれた。
そんな穏やかな日々が、僕の心を癒してくれるんだ。
家族みんなで過ごす時間も、僕にとっては大切なものだった。
お母さんが作る美味しいご飯を囲んで、4人で笑いながら食事をする時間。お父さんとお母さんが楽しそうに話すのを見ていると、僕も自然と笑顔になる。
お父さんはいつも、お母さんのことを
「いい女だ!」
と冗談交じりに褒めて、僕とお兄ちゃんを笑わせてくれた。
だけど、お父さんには時々、何か言葉にできない影があることに、僕は気づいていた。
たまに、遠くを見つめるような目をして、静かに考え込んでいることがあった。
そんな時のお父さんは、普段の明るくて優しい姿とは少し違って見えた。
でも、僕はその理由を深く考えたことはなかった。
お父さんは僕たちのことを大切にしてくれているし、家族を愛してくれている。
それで十分だと、ずっと思っていた。
しかし、その平穏な日常に変化が訪れたのは、ある夏の日のことだった。
学校の休み時間に、友達のヒロキが僕に話しかけてきた。
「智成さ、お前の父ちゃん、昔ヤクザだったって、ホント?」
その言葉を聞いた瞬間、僕は耳を疑った。
ヤクザ?お父さんが?そんなこと、信じられない。
僕のお父さんは、優しくて、家族を大切にする普通の人だ。
ヤクザなんて、あの怖い人たちのことを指すんじゃないのか?
僕は一瞬、ヒロキが冗談を言っているのだと思った。
「そんなわけないだろ。お前、嘘つくなよ。」
僕は笑い飛ばそうとしたけど、ヒロキの顔は真剣だった。
「いや、俺のお父さんが言ってたんだ。章浩さんって、昔ヤクザで有名だったって。でも、今はもう足洗ったってさ。」
僕は何も言えなくなった。ヒロキのお父さんは、この町でも評判の良い人で、嘘をつくような人ではない。
僕の頭の中には、いろんな思いが交錯した。お父さんがヤクザだったなんて、そんなの嘘に決まっている。でも、もし本当だったらどうしよう?僕は心の中で、ただそれが嘘であってほしいと願うばかりだった。
家に帰ると、お父さんはいつものように優しい笑顔で僕を迎えてくれた。
その笑顔を見ると、僕は一瞬、自分が学校で聞いたことがまるで夢だったように感じた。でも、頭の片隅には、どうしてもその言葉が引っかかって離れなかった。
「お父さん……昔、ヤクザだったの?」
ついに、僕はその質問をお父さんにぶつけてしまった。お父さんはその言葉を聞いて、一瞬だけ驚いたような表情を見せたけれど、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。そして、僕の目をしっかりと見つめながら、静かに口を開いた。
「智、そのことについてちゃんと話しておこうか。」
お父さんの声には、どこか覚悟のようなものが感じられた。その時、僕は初めて、お父さんの過去に触れることになるのだった。
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