座礁圏(ざしょうけん)

拾井セキ

第1話

 おれ頬杖ほおづえをついていた。なにていなかった。

いてます?」

 なにいていなかった。

真野まのさん、いてますか?」

 こえぬしおれまえをゆらゆらとかざした。

もうわけありません」おれった。

「ですからね、この空間くうかん主権しゅけん真野まのさんにある以上いじょう、あのとびら真野まのさん以外いがいではじられないので、かぎめるのをわすれてもらってはこまるんですよ」

 こえぬしきびしいこえった。

もうわけありません」おれはもう一度いちどった。

 そこで、こえぬしったことがなにかっかかった。「もうわけありません。いまなんておっしゃいました?」おれった。

「はい?」

主権しゅけんってなんですか?」

 こえぬしは、まゆをひそめた。そして、った。

空間くうかん主権しゅけんです。この空間くうかんはあなたのこころなか。つまり、この空間くうかんへのとびらまりはあなた以外いがいはできないんです。だから、毎日まいにちわすれずにかぎをかけてくださいとっているのです」

 っていることがなにひとつわからなかった。

っていることがなにひとつわからないのですが……」

 こえぬしおおきくいきいた。

「よろしい。わかりました。つかれているようですから、今日きょうはもうかえっていただいて結構けっこう戸締とじまりはわたしがスペアキーでめておきます」

もうわけありません」おれい、せきった。

「おつかさまでした。おさき失礼しつれいいたします」と挨拶あいさつをして、事務所じむしょあとにする。従業員じゅうぎょういんよう裏口うらぐちからる。

 まえ砂浜すなはまうみひろがっていた。

 ここは……。

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