立てば芍薬
第2話 無難だよ
日常というのは何も起こらないから日常なのであって、退屈だから日常ってわけでもない。
実際、僕は日常に満足している。そりゃ暇な時間はあるけれど、ずーっとこんな平穏が長続きしてほしいと思っている。
……
というのは建前だろうか。
僕は求めているのかもしれない。僕を今いる地点から遠く運び去ってくれるような突風を。
とはいえ……
……
……
殴り殺されかけることを突風とは呼ばないよなぁ……
☆
ある日のことでございました。
明日の数学の時間は抜き打ちテストがあるらしい、とクラスの情報通がどこからともなく仕入れてきた情報を自慢気に語っていた。
数学が苦手科目な僕にとって、その情報は値千金のものである。とはいえ1日頑張って勉強したところでテストの成績が上がるとも思えない。だけれどなんの努力もしないのも違う気がするので、勉強はするけれど。
毎回思うが、彼らはその手の情報をどこで仕入れるのだろう。数学の教授がバラしているのだろうか。それとも超能力だろうか。
まぁどっちでもいい。とにかく今日のところは授業を適当に終えて、そのまま帰路につこう。
「じゃあ、今日はここまでにしよう」担任教師が軽く手を叩いて、「また明日」
そんないつもの言葉でホームルームを締めて、今日という時間割が終わった。
さて早いところ帰ってゲームでもするかと思っていると、
「なぁ……」少し遠くからヒソヒソとした声が聞こえた。「今日、カラオケに行こうと思ってるんだけど……あいつも誘ったほうがいいかな……?」
あいつ……というのは誰のことだろう。別に盗み聞きするつもりはなかったが、内緒話にしては声が大きかったので聞こえてきてしまった。
「あいつ……?」まだ内緒話は続く。「別にいいだろ。カラオケとか好きそうな感じじゃないし……そもそもあんな根暗がいたら盛り上がらなくなる」
「そりゃそうだけどさ……」そうだよ。「クラス替えしたばっかだし……ちょっとは親睦を深めたりとか……」
「あんなのと仲良くなりたくねぇよ。なに考えてるかわからねぇし……変な喋り方だし。全然笑わねぇし」
「……まぁ、そうだな……じゃあ、誘うのやめとくか」
「そうそう。あんなのとはかかわらないほうが無難だよ」
どうやら嫌われてるクラスメイトがいるみたいだなー。顔が見てみたいなー。
……
わかっている。この手の話題は何度か聞いているし、今も視線がチラチラと僕のほうを向いている。
彼らは明らかに僕のことについて話しているのだ。根暗でダサくて笑わなくて面白くもない僕のことを。
その評価は妥当なので怒りも湧いてこない。むしろ申し訳ない。もっと僕が面白おかしく喋れたら彼らを喜ばせてあげられたのに。
カラオケに誘う、という選択肢に入れてくれただけでありがたいものだ。もしも僕がひょうきん者なら彼らの前に現れてお礼を言っている。いや……皮肉になってしまうか。
ちなみに僕はカラオケが好きだ。下手の横好きだが、大声で歌うとスッキリする。下手だから盛り上がらないけれど。
……
ともあれ僕はため息を我慢して立ち上がった。カラオケに誘われることもないだろうから、さっさと帰ろう。
荷物をまとめて立ち上がって、僕は廊下を歩き始める。そしてその途中で、
「――! ――……!」
なんか声が聞こえてきた。
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