第二十二話「反撃開始」
「アリシア、交代よ!!」
クレアさんが叫び、アリシアは牽制を止めてメイリーの元へ。
アリシアが授吻を追えるまで、クレアさんが敵と対峙することになる。
後ろでアリシアとメイリーが授吻している。
気恥ずかしさは一切ない二人にあたしが何故か恥ずかしくなる。
いけない、あたしはクレアさんに集中しないと。
アリシアはまだ敵の攻撃を受けていないから、瞬間移動で懐に入られることはない。
だからクレアさんは容赦なく相手に近づくことが出来る。
クレアさんが優しく手を横に薙ぐと、そこには太陽のような炎の球が五つ現れた。
「焼き尽くしなさい――
その炎の球をクレアさんは敵に向かって蹴り飛ばす。
木々を焼き、大地を焦がしなら炎の球は敵に向かって進んでいく。
「遅ぇ!!」
敵は難なく躱す。
ただクレアさんの炎の球は敵を誘導する為のものだった。
敵が躱し逃げ込んだ位置に、炎脚から生み出される爆発に乗って、クレアさんは敵に直行する。
「ドラァ!!」
炎を纏い空気を焼きながらクレアさんの蹴りが敵の頬を掠める。
近接戦闘なら敵の魔法を発揮出来ない。
でも敵のナイフは両方とも九割程刀身が赤く変色している。
どちらのナイフで斬られても終わり。
そんなリスクを冒してでも敵の懐に入り純粋な近接戦闘に持ち込む必要がある。
「ハァアアアアアッッ!!!!」
「ヒャァアアッッ!!!!」
互いの間合い、最早あたしの眼が追い付くレベルでの攻防じゃなかった。
轟く爆炎、クレアさんの気合の叫びと敵の興奮した声、敵とクレアさんの種器がぶつかる音だけが、さっきまで防戦一方だった相手と互角に渡り合ってると認識できる要因。
“
「けど、あんな動いたら……」
いくら互角に渡り合っているとはいえクレアさんは怪我人。
あんなに激しく動いたら出血は酷くなる一方だ。
「アハハハハッ!!
「べらべらとうっさいわねぇ!!」
激しい金属音と熱気の籠った爆音の中、そんなやりとりが微かに聞こえる。
威勢の良いクレアさんだけど、喉が切れたような掠れた叫びが心配になって仕方がない。
「グフっ!?」
「クレアさん!?」
せき止めていた何かが外れたように、クレアさんは多量の血を吐き出した。
クレアさんが心配なのはもちろん、別のことが気にかかった。
クレアさんが吐いた血に敵がナイフを突き出している。
これに意図があるとすれば――――マズい!!
「させないよ!」
敵の突き出したナイフを弾く光の剣。
ブロンドの髪はクレアさん同様光り輝き、キラキラと光の粒子が漂う。
透き通るような金色の羽衣が、アリシアの周りでゆらゆら揺れる。
「
授吻を終えたアリシアが助けに来てくれた。
思わず見とれるアリシアの
「なるほど。斬った相手というわけじゃなく、その
「正解。そこの火の女は出血に吐血とチャンスは多かったが、なんとまぁ勘の良いこって、血を吸わせようも全部対処された。学生のくせにだ。この国の未来は明るいねぇ」
敵の本音か嘘か分からない言葉にアリシアは嬉しそうに笑う。
「君ほどの使い手がそこまで言ってくれるなら、
アリシアのセリフにクレアさんは目を見開いて驚いていた。
クレアさんは自分の事をアリシアがどう思ってるか分からないと言ってた。
今アリシアが言った通り、アリシアもクレアさんをライバルとして見ていて、クレアさんはそれが嬉しいんだろう。
「輝け――
アリシアの頭上に巨大な光の球体が出現する。
直視できないわけじゃないけど、それでも光り輝くそれが地面を明るく照らす。
「クレアに代わり、ここから先は私が相手をしよう」
「あぁ……楽しませてもらうぜぇ!!」
敵が距離を詰めようとした瞬間、アリシアが生み出した
敵が身体を捻って辛うじて躱すと、光の一撃は地面を抉る。
すぐさまアリシアが敵との距離を詰める。
「え、でもあんまりクレアさんから離れないほうが……」
敵はクレアさんの居場所なら一瞬で移動できる。
敵が移動して来た際、カバーできるところにいないと――――
「大丈夫よ」
あたしの疑問にクレアさんが息を切らしながら答えてくれた。
「アイツの
え、マジで?
あたしとメイリーは速やかにクレアさんから離れる。
そうしている間もアリシアと敵は一進一退の攻防を繰り広げている。
アリシアの魔法から自分の種器を守るには魔力を削られることを承知の上で魔力で守るしかない。
いくら敵の魔力が残りいくらか、魔法の魔力消費も分からないけど、クレアさんとの戦いでそれなりに消費しているはず。
「アッハーッ!!」
興奮している敵の攻撃に、アリシアは攻めあぐねている。
「あのアリシアが押されてる……」
「無理もないわ。アリシアもアタシもユリリア人相手の実戦経験が少ない。この差は戦場では大きな差よ」
「え、でもアリシアさんってサラちゃんを助けた時にエネミット王国に行ってませんでした?」
「魔法の使えない相手との戦闘とユリリア人同士の戦闘は、十倍くらいしんどさが違うわ。ユリリア人相手は普通の戦闘に比べて魔法分析、魔力操作、魔力配分と考えることが多い。こればっかりは訓練では中々身に付かないわ」
そういえば授業でブレイドは一回の戦闘で多くの汎用魔法を使ってるって言ってたっけ。
自分の持つ手札から正解を選び続けなければ死ぬ。
その緊張感は想像も出来ない程凄まじいものなんだろう。
「でも……ならどうすれば……」
このままじゃ結局アリシアも押し負ける。
クレアさんと交代するとしてもクレアさん自身もう戦えるコンディションじゃない。
「心配いらないわ。アリシアが時間を稼いでくれたおかげで準備が整った」
クレアさんは力を振り絞るように立ち上がる。
クレアさんから離れていたから気が付かなかったけど、纏っていた熱気がより一層強く激しくなっている気がする。
クレアさんは膝を胸元に引き寄せるように片足を上げる。
地面に一本軸が通っているかのように、片足で立つクレアさんはバランスにブレが無い。
「アリシアッ!!」
クレアさんが叫ぶと、アリシアは一秒も満たないうちにクレアさんの行動を読み取り呆れるように笑った。
「強引だがそれしかないか」
クレアさんは敵に
そして
「ちょ!? アリシア! まだクレアさんが!!」
「彼女は大丈夫さ――
上昇した
何かを察した敵はすぐにナイフを外に投げるが、それよりも先に閉じ込めた光線がナイフを弾く。
「何を……まさか!!」
さっきまでどんな状況でも楽しんでいた敵が初めて動揺と冷や汗を見せる。
状況が分からず、あたしはアリシアに抱えられながら見守るしかない。
「させるかァ!!」
あたし達が
しかし敵がナイフを突き出すより先に、クレアさんは強く地面を踏みつける。
「――――
――――――――ッッッッ!!!!
クレアさんが地面を踏みつけると同時、爆撃音が全身に響く。
山が火を噴く様に、炎の柱が周囲を焼き尽くす。
灰色の煙と深紅の炎が巻き上がり、圧倒的なその火力にあたしはクレアさんの身が心配で堪らない。
「クレアさん!!」
「サラ、心配いらない。クレアの
それを聞いてとりあえず安心した。
「
アリシアの
「なら早く戻らないと。敵がまだ動けたらクレアさんが危ない」
「それもそうだね。その前にメイリー、補充しても構わないかな?」
「あ、はい。
アリシアはあたしとメイリーを下ろすとすぐにメイリーと授吻を開始する。
なんだろう、すっごい気まずい。
「さて、行こうか」
授吻を終えて、あたし達はクレアさんの安否を確認しに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます