第136話 孤島から北の大陸へ

孤島に着いてから半年が経過し、北の大陸へ向かう時期となっていた。物資の補充を終え、北大陸の大まかな方向も聞き出せている。大型船も細部まで補修・補強を終えていた。あと数日で出航という段階でクリスとマリウスはルーベルから相談を受けていた。


「お前達のお陰で怪鳥の脅威が去り、我等も自由に移動できる様になっている。そこで相談だが、北の大陸にいると言う種族との橋渡しをお願い出来ないだろうか。北の大陸と交易出来れば、我等の生活も向上するだろうと考えている。」


「それはお任せ下さい。ただ、北の大陸とこの島とを行き来する航路を確立せねばなりません。交易が開始されるまでに長い期間が必要だと言う事はご理解下さい。」


「それは分かっている。航路を確立するには正確な海図が必要だろう。我等も海の中なら手伝える事がある筈だ。」


魚人族マーフォークの手を借りられるなら心強いです。」


「任せよ。それとな、今回のお前達の航海に魚人族マーフォークを何人か連れて行って欲しい。こちらが公益に出せる品は香辛料や魚の加工品などだろうが、それを紹介する事が目的の1つ、北の大陸で我等の生活に使えそうな物を探すのがもう1つの目的だ。北の大陸と友好を結ぶ為にも、我等一族から誰かを行かせるべきと考えている。」


「分かりました。具体的には誰をお連れしましょうか。」


「ルルとその従者だ。表向きは次期族長として見聞を広める為という事になるが...実はな、ルルがジゼルと別れるのを嫌がって、どうしても一緒に行くと言うんだ。」


「はぁ〜、そうですか。それは断れませんね。」


ーーーーーーーーーー


魚人族マーフォークが住む孤島を出発して十数日、航海は順調だった。連れて来たヨナは既に成鳥と同じ程に大きくなり、今ではジゼルとルルの2人を乗せて飛べる。ヨナの体に革紐で座席を括り付け、くつわ面懸おもがいを頭部に装着し、搭乗者が手綱で方向を伝える。この日もジゼルとルルがヨナに乗って上空から周囲を警戒していた。


「ねぇジゼル、あれは何かしら?」


ルルが指し示す方向には陸地が見えた。ジュードだった時に見た記憶がある。北の大陸だった。港と思われる場所には大型の船が何隻か停泊しているが、周囲の何箇所かから煙が上がっている。明らかに何かの問題が起きていた。ジゼルはヨナを船に戻してクリス達に状況を伝えた。


「北の大陸が見えました。このまま真っ直ぐに進んで下さい。ただ、港から煙が上がっています。何か問題が起きているかも知れないので、僕はこのままヨナで急行します。危険だからルルは船で待機してくれ。」


「嫌よ、私も一緒に行く。」


「ジゼル君、先を急いで。私達も直ぐに追いかけるわ。」


「仕方ない。行ってきます。」


ジゼルはルルを乗せたまま港へと向かった。


ーーーーーーーーーー


その日の早朝、南に2隻の大型船が見えるとの連絡を港の見張りから受け、ガイは港湾守備を担当している森人族を集め、港へと向かった。直ぐにガイの元に集まったのは30名程だった。同時に近隣に住まう種族の長に伝令を出したが、援軍が到着するのは早くても昼過ぎになる。


「矢手は遠距離からの攻撃を徹底。その他の者は里に通じる門を閉じて港を封鎖、その後は矢手の守りに就け。相手がどんな武器を持っているか分からない。密集し過ぎると狙われるぞ。」


南北の緊張が高まっている現在、両大陸を行き交う船は僅か、それも着港する際は事前に小舟で知らせてくるのが暗黙のルールであり、大型船がいきなり着岸する事はない。あるとすれば、それは侵略行為か海賊行為か、何れにせよ戦闘は不可避だった。


港に近付いた大型船は着岸直前から船上に設置した大型弩弓バリスタで火矢を放ち、その火矢によって港の設備などが燃え始めていた。門の一部も燻っている。接岸した大型船からは敵兵が次々と降りて来て、梯子で門を登り始めた。森人族が矢で門を登ろうとする敵兵を撃ち落としていたが、相手の数が多く、何人かは門を乗り越えてしまった。ガイは門の内側で待ち構え、乗り越えて来た敵兵を斬り倒していた。


その時、巨大な影が上空を通り抜けたかと思うと、1人の少年がガイの前に降り立ち、光の剣でガイ達に迫っていた数人の敵兵を次々と斬り倒した。

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