第123話 牢獄からの救出

ゴルドルが連行されてから2ヶ月後、彼は旧ハルザンド王都の地下牢に閉じ込められていた。拷問するわけでも、尋問するわけでもない。ただ閉じ込められているだけだった。牢の各部屋は石壁と鉄格子で仕切られ、片側に6部屋、両方で12部屋ある。出入口付近には看守部屋があり、交代しながら各部屋を1時間毎に見廻っている。ゴルドルが入れられたのは一番奥の右側、そこからは向かいの2部屋の様子がよく見えた。真向かいの牢部屋には1人の少年が眠り続けていた。ゴルドルはその少年が起きているところを見た事がない。


ある日の夜、ゴルドルは眠り続ける少年の部屋に人の気配を感じた。目を凝らすと暗闇の中に小柄で顔を布で隠した男がいて、少年の側に立っている。


「ダレダ。」


「お久しぶりです、ゴルドル殿。私です。ホドムです。」


「オォ、ホドム カ。ドウシテ...」


「ゴルドル殿、この少年の顔に見覚えはありませんか?」


ホドムが少年の上体を起こしてゴルドルに見せる。牢の壁の上部にある高窓から注ぐ月明かりが少年の顔を照らす。10歳ほどだろうか。幼さを残すその少年はジュードだった。


「この少年はジュード様の生まれ変わりだと思われます。おそらく以前の記憶もお持ちでしょう。ですが私が発見した時には既にこの状態でした。」


「アリエル ノカ? ソレニ ナゼ ネテイル?」


「はい、ジュード様もジーク様という勇者の生まれ変わりで、以前の記憶をお持ちでした。この状態は怯者に能力を奪われた事によるものと思われます。」


「ナゼ ジュード ドノ ダト ワカル?」


「スーベニアで新たな隠者が誕生しました。隠者は神託を得る事が出来ます。彼の神託によってジュード様が囚われている事が分かり、我が一族で捜索しておりました。」


「ワカラヌ コト バカリダ...」


ホドムは隠者や怯者の紋章についてゴルドルへ説明した後、少年の救出作戦に話を移した。少年を地下牢から出すだけであればホドムが入ってきた高窓から夜陰やいんに紛れて運び出せば良い。ホドムの部下が少年に成りすまして牢にいれば脱獄の発覚を遅らせられるだろう。問題は王都からの脱出だった。


「アルムヘイグのベントリー領までお運びすれば、そこはジーク様のご親戚が治めている地域です。あとはクリス殿が迎えに来て下さる手筈となっています。」


「ココカラ ナラ キタ ノ ホウガ ハヤイ。」


「残念ながら港は封鎖されています。ゴルドル殿が捕まって以降、南北の交易は停止され、ハルザンド周辺の連邦軍の多くも港付近で待機しています。」


「ワカッタ。」


ーーーーーーーーーー


翌日、夜のうちに運び出した少年を箱に入れ、商人に扮したホドムがその箱を担いで城門へと向かっていた。ホドムの部下達も商人に扮して別の城門へと向かっている。連邦の追跡の手を分散させる為だった。通常であれば王都を出る際は素通りできる筈だが、その日の城門では守備兵が通行者やその荷物を調べている。既に少年の脱獄が発覚しているのかも知れない。


「地下牢から牛男ゴルドルが脱獄した。西門へ向かっている様だ。応援に向かってくれ。」


王都中心部から走ってきた兵が周囲に聞こえる大声で城門前の守備兵へ伝えた。それを聞いて数名の守備兵が西門へと向かう。残されたのは1名の守備兵だけだった。その守備兵は荷物を満載した馬車の男と言い争いをしている。この男もホドムの部下で、守備兵の気を引くために騒いでいた。周囲の通行人も騒ぎに目を奪われている。ホドムは守備兵から見えない馬車の反対側に隠れながら城門を通っていった。


城門を抜けて暫く進むと一台の馬車が待機していた。ホドムはその馬車に少年が収まっている箱を乗せ、アルムヘイグへと急いだ。

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