第111話 アルムヘイグの再建

ジュードが倒れている間にもアルムヘイグでの帝国軍の掃討戦がいにしえの神々や連邦軍によって進められ、また並行して解放された都市の建て直しが図られていった。この頃には大陸東部の連邦内での再建・復興が進み、各国の新王による統治も落ち着きつつあったので、連邦政府はアルムヘイグに注力する事が出来た。しかし誰を王位に就けるかで揉めた。


アルムヘイグは英雄王ジークが生まれた国であり、またジークがゲイルズカーマイン帝国を打倒した際に中心的な役割を果たした国でもあった。それだけにジークが治めたジョルジアと同様に、あるいはそれ以上に、国民は英雄王ジークへの尊敬と憧れを抱いている。それ故に、英雄王の再来と呼ばれ、また実際に光を纏って敵と戦うジュードは、アルムヘイグでは熱狂的に迎え入れられた。アルムヘイグの先先代の王に連なる公爵が王候補となったものの、国民の中にはジュードを王に推す声が多く、これに幾つかの有力貴族までもが賛同した為、新王を決定する事が出来ずにいた。


「もうジュード様が王位に就けば良いだろう。」


「それでは連邦の各国が黙っていないだろう。ジュード様は連邦議会の議長と連邦軍の最高司令官でもあるんだ。これ以上の権力強化は猛反対される。連邦制の崩壊に繋がるぞ。」


「各国首脳が反対したとしても民衆はジュード様を支持するさ。ジュード様さえ了承してくれれば、連邦制を廃して統一国家にしても良い。」


「そんな無茶な。あぁ、ジョルジアの様にジーク様の血族が残っていれれば民も納得しただろうが...」


ジュードが寝込んでいる間に王位に関する議論は白熱したが、ジュードが王位に就く事はないと理解していたユリシスはこの議論に加わらなかった。数日後、ジュードが目覚める。やはりと言うか、当然と言うか、ジュードは王位に就く事をあっさりと拒否した。議論は尚も続いたが、結局、国王が空位のまま王候補であった公爵が国王代理に収まった。国民の落胆は大きかったが、ジュードは取り合わなかった。


「ジュードよ、面倒な事になっているようだな。」


「皆の意見も分かるが、戦う事しか出来ぬ俺が王になったら周りが迷惑する。それに国が勇者1人の存在に依存すると、どうしてもその武威ぶいに頼ってしまう。本来の勇者はこの大陸全ての人を外の脅威から守るべき存在で、何処どこか1つの国に属するべきではない。皆には勇者と王は別の役割である事を理解し、勇者に依存しない国を考えて欲しい。」


「なるほどな。ジュードなりに考えているわけか。そうだ、いっそのこと北大陸に来るか? 森人族エルフの領土が放置されたままだし、そこに移住すれば良い。王だの何だのと言う奴はいないし、こっちよりは住み易いと思うぞ。」


「考えておくよ。」


王位問題が一応は決着すると、滞っていた重要案件の議論や承認が進み、アルムヘイグの再建が加速された。またそれと同時にアルムヘイグの連邦への参加が正式に決定され、国民へも告知された。実質的にジュードが主導する連邦に加わった事で、ジュードを王にと推していたアルムヘイグ国民も表面上は納得した様だった。


ジュードは体調が万全になると、ガイ達と共に帝国への侵攻準備に取り掛かった。残るは旧ハルザンドの王都周辺と西方諸国の一部のみ。闇森人ダークエルフや獣人兵も大きく数を減らしている筈だった。しかし新たに現れた異界の怪物達、それに森人族エルフの神を取り込んだアゼルヴェードがいる。激しい戦いになる事が予想された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る