第110話 アルムヘイグ奪還

北の大陸から来てくれた神々の助けにより窮地を脱したジュードは、今度は連邦側から攻勢に出る事を決めた。目指すは旧アルムヘイグの王都。アルムヘイグでは地方貴族達が立ち上がって帝国への反乱を起こし、その反乱の火は広がりつつある。またクリスが率いる南方スーベニアも再びアルムヘイグへの侵攻を開始していた。この機に大陸中央の大国であるアルムヘイグを解放できれば、アゼルヴェードが居座る北方のハルザンドだけでなく、西方諸国へ侵攻した帝国軍へも睨みを利かせられる。それによって西方諸侯の残った国々も息を吹き返すだろう。


旧アルムヘイグの王都までは帝国軍の抵抗を殆ど受ける事はなかった。ジュードが率いる連邦軍は北から来た神々と共に進撃を続け、途中でスーベニア軍や反乱軍と合流していった。そうしてアルムヘイグ王都の目前まで迫った時に、待ち構える帝国軍と対峙した。多くの獣人兵が見える。その中に見慣れぬ大きな影、アゼルヴェードの子と同じ触手を持った怪物が何体かいる。北で見た怪物より遥かに大きい。


不味まずいな。あれは怪物の成体せいたいだぞ。アゼルヴェードの子があそこまで大きくなっている筈はない。奴め、森人族の神が持っていた知識を使って異界からまた怪物を呼び出しやがったな。成体せいたいに襲われると我等とて森人族の神と同じ様に取り込まれてしまうかも知れん。」


「倒す方法はあるのか?」


「神性を持たぬのなら普通の攻撃でも倒せよう。だがあの大きさだ。触手に捕まると逃げられずに怪物に取り込まれてしまうだろうな。出来れば近寄らぬ方が良い。」


「倒せるなら問題ない。」


「待て、俺の話を聞いていたか? 奴に近付くのは危険だ。」


「まあ見ていろ。」


ジュードは移動式大型弩弓バリスタの為に用意されていた矢、それは通常の物よりも長くて太い矢だが、それを1つ持ち上げると、腕力と脚力の神装具を使い、勢いを付けて怪物へと投げた。矢は物凄い勢いで帝国軍へと飛び、怪物を掠めて帝国軍の後方へと通り抜けていった。帝国軍の中に動揺が広がる。


「外れたか。次は当ててみせる。神性を持つ相手には通じぬだろうが、そうでなければ問題ない筈だ。」


「なるほどな。では我等も真似るとしよう。」


「無駄撃ちはするなよ。」


「ジュードこそ、次は外すなよ。」


距離をとっては不利と判断したのか、帝国軍の獣人兵と闇森人ダークエルフが突撃してきた。大型の怪物は足が鈍いのか出遅れている。怪物の何体かは逃げ始めていた。連邦軍は果敢に帝国軍へと向かう。何人かの兵が獣人兵に弾き飛ばされようとも怯まない。長槍を獣人兵に突き刺していった。その他の兵はやや遅れて到着した闇森人ダークエルフと斬り合っている。その上をジュード達が投げた矢が通り過ぎ、何本かが怪物達に突き刺さる。


怪物を仕留めるには更に何本かを突き刺す必要がありそうだった。ジュード数本の矢を抱えて飛翔し、怪物の上空から矢を投げ掛ける。その邪魔をしようと鳥の獣人兵が近付くものの、妖精族フェアリー鳥人族ハルピュイアなど空を飛べる神々が獣人兵を退けた。テラスゴも龍に変じて空中の獣人兵を落としていく。その間にジュードが上空から放った矢は次々と大型の怪物に突き刺さり、何体かの怪物が動かなくなっていった。


数刻後、全ての帝国軍を討ち取り、連邦軍はアルムヘイグ王都へと入って行った。おそらく王都内から戦いの様子を見ていたのだろう。ジュード達は大歓声で迎えられた。その歓声に応えながらジュード達は王宮へと進む。だが、王宮内に入って民衆の目から遠ざかった途端にジュードは倒れてしまった。溜まりに溜まった疲労の為だった。


ーーーーーーーーーー


深夜、ジュードが寝かされたアルムヘイグ王宮内の部屋に数人が入って来た。身重のマリリアと、彼女の手を取って導くフレミア達だった。マリリアはジュードが眠るベッドの横に座り、彼の手を取って聖者の紋章の力で癒し始める。半刻程して癒しが終わると、マリリアは軽くジュードの頬を撫でた後、フレミアに抱えられながら部屋を出て行った。マリリアの癒しは翌日以降も続けられ、数日後にようやくジュードは目覚めた。ジュードがマリリアの方に目を向ける。


「誰の子だ?」


マリリアはジュードを直視せずにうつむいたまま何も答えない。まるで子を守る様に両腕で大きくなったお腹を抱えている。


「誰の子だ?」


もう一度、やや強い声を発したジュードに、マリリアは震えながら首を横に振った。答えるつもりはないらしい。ジュードは天井を仰ぎ見ながら暫し沈黙する。そしてマリリアを見ずに言葉を発した。


「お前が近くにいる事を許した覚えはない。さっさとスーベニアへ戻れ。」


「うふふ、ジュード様は言葉選びが下手ですね。戦場に立ち続けるジュード様の側にいたら危険だから安全なスーベニアで出産しろって仰りたいのでしょう。素直にそう言えば良いのに。」


「そんな意図はない。早く出ていけ。」


「はいはい。さあマリリア、ジュード様の安眠の邪魔になりますから行きましょう。」


翌日もジュードが寝入ってからひっそりと聖者の癒しが行われ、数日後にもう十分だと分かってから、マリリアはスーベニアへと戻って行った。

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