第106話 帝国の反撃

ジュードが旧ジョルジアの王都を取り戻してから数ヶ月後、その王都へアルムヘイグ側から帝国軍が迫っていた。帝国としてはジョルジア北方、ハルザンド東方のオアシス都市から侵攻する手段もあるが、何度かの小競り合いに於いてオアシス都市に設置された大型弩級バリスタにより追い払われた経緯があり、また砂漠地帯である為に大軍の移動には適していない。それよりは奪取された旧ジョルジア王都をアルムヘイグ経由で攻めた方が良いと判断したのだと思われた。


旧ジョルジア王都の城壁や城門は仮の修復が終わったばかりで防御は当てに出来ない。連邦政府は王都西部の平原地帯で迎え撃つ事を決め、議会の承認を経て、連邦軍に出動を命じた。ジュードはガイと彼が集めた有能な将校に連邦軍主力の指揮を任せ、合わせてスーベニア軍を率いるクリスに側面からの牽制を指示した。ジュード自身は、巨人族ジャイアントのゴルバと龍神族ドラゴニュートのティーゼを率いてスーベニアとは反対側、ジョルジア北部から山岳地帯を抜けた先にあるベントリー領を経由して帝国軍の側面へ回り込むと決めた。


ベントリー領は英雄王ジークの長兄が拝領はいりょうした地域で、現在は長兄の息子が治めている。また途中の山岳地帯はかつてジークの配下であったヨルムの一族が今も住んでいた。諜報部隊のホドムが事前に話を通している。


「初めまして叔父上、それともジュード殿とお呼びした方が良いですか?」


「ジュードと呼んでくれ。今回は面倒を掛けるな。」


「我々も帝国の圧政に辟易へきえきしていましたので、打倒帝国の為に微力を尽くします。ジュード殿の動きは帝国に漏れていない筈ですが、既に帝国の進軍は始まっていますから猶予ゆうよはありません。早速ですが、帝国軍の状況を説明させて下さい。」


帝国軍はガイが率いる連邦軍主力とクリスが率いるスーベニア軍の両方へ対応する為、軍を大きく2つに割っていた。またこの2つの軍とは別に、複数の獣人兵を中心とする別働隊がジョルジア王都を急襲すべく動いているという事だった。別働隊の位置はホドムが捕捉していた。ガイ達の連邦軍が構える場所を大きく迂回し、王都へも連邦軍後方へも襲いかかれる位置を目指している。


「ベントリーに近いな。このままだと王都だけでなくガイの方も危ない。この別働隊が目標地点に到達する前に俺が殲滅せんめつしよう。ホドムはガイやクリスに状況を知らせてくれ。ガイも別働隊の動きを把握しているだろうが、彼には帝国軍主力に集中してもらいたい。」


かしこまりました。」


「ジュード殿、お気を付けて。我々は同志である貴族家と共に帝国軍の後方にある補給路を撹乱するつもりです。」


「分かった。無理はするなよ。」


ーーーーーーーーーー


ベントリー領を出たジュード達はジョルジアとアルムヘイグの国境付近の森林で帝国の別働隊を発見した。茂みにひそみ様子を見る。情報通り帝国の別働隊には複数の獣人兵がいた。山羊の獣人兵だろうか。見覚えのある顔だった。その隣の背の低い闇森人もよく見ると見覚えがある。山羊の獣人兵はイェリアナ、背の低い闇森人はシルリラだった。2人ともジュードが知っていた頃の若々しさはなく、その顔にはシワが刻まれていた。その他の獣人兵は褐色の肌、また闇森人ダークエルフを獣人兵に造り替えたのだと思われた。


「行くぞ。」


ジュードは紋章を光らせながら獣人兵の集団に斬り掛かった。神装具は速さと防御を選択した。ミケは後方のマリリアと共にいるので神装具は2つしか使えない、


斬り掛かってきたジュードに驚く事なく獣人兵は素早く迎撃体制をとる。中央の奥にイェリアナ、それを守る様に他の獣人兵が前面に出ていた。龍神装具の速さについて来る厄介な猿の獣人兵も複数いて、周囲の木々を使って複雑な動きを見せつつ人間の頭ほどの大きさの石を投げてくる。またその投石攻撃の合間を縫ってイェリアナが斬撃をジュードへ飛ばしてきていた。イェリアナの隣に立つシルリラに動きはない。


投石や斬撃はジュードの光の盾に弾かれて傷を負わせる事はないが、ぶつけられる度に強い衝撃がある。その為にジュードは獣人兵に近付く事が出来ずにいたが、そのジュードの後方から放たれた矢がジュードの近くを通り抜け、奥にいた獣人兵の1体に突き刺さった。慌てた猿達が矢が飛んできた方向へ石を投げたが、矢手であるマリリアには届かなかった。攻撃がマリリアに向いたその隙をジュードは見逃さず、一気に敵との距離を縮め、前面に出ていた何体かの獣人兵を斬り倒した。ゴルバ達巨人族ジャイアントも大楯を構えながら距離を詰め、獣人兵の何体かを引き付けていた。


「助けて、ジュード...」


ジュード達に押され気味だった獣人兵の一団の中でイェリアナが突然に叫んだ。ジュードがイェリアナに眼を向ける。その胸にあった精霊石はマリリアの矢によって砕かれていた。

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