第92話 ゴルドルの一族

北の大陸までの航海は20日程だった。ジュード達が乗る軍艦が着いた大きな軍港には他にも幾つかの軍艦が停泊している。港には褐色の肌で背の高い種族、闇森人達が多く行き来している。彼等の総戦力は如何程だろうか。闇森人に率いられた多種族も含めれば、ジュード達が住む大陸の総戦力を凌いでいるのではないかと思えた。


港での下船手続き、その後にもゴルドルの一族が住む地域までの移動で幾つかの検問所はあったが、ゴルドルが用意した通行許可証のお陰で問題は起きなかった。ゴルドルが付けてくれた案内役であるゴルバという巨躯の青年は、ジュードやフレミアを背負子に乗せて道中を進んだ。重症者と偽っているので検問所ではジュードが乗り、それ以外の険しい道ではフレミアが乗った。軍港から10日ほどでゴルドルの一族が住む村に入った。


ゴルドルの精霊石が砕けた事で予想通り彼等が崇める神は目覚めていた。ゴルドルの一族はいずれも大柄で、周囲からは巨人族と言われているが、伝説にある山の様な巨体ではなく、せいぜいが2メートルを超える程度だった。但し、目の前にいるゴード、ゴルドルの一族が崇める神は3メートルはあろうかと思える巨人だった。


「まさか我が一族を南の大陸から追い出した奴等の子孫に助けられるとはねぇ。一先ず礼は言っておく。それで何を話に来たんだ。」


「アゼルヴェード達の正体と、奴が南に攻めて来る理由を聞きたい。」


「どう答えたもんかなぁ。先ずはこの大陸で起きた事を説明させてもらおうか。分からない事があればその都度聞いてくれ。」


ゴードは説明を始めた。この北の大陸には幾つかの種族が居住し、緩い連帯関係を保っていた。しかし軍港近くの深い森に住んでいた森人族の神が欲を持ち、禁忌を犯して異界の怪物を呼び出してしまった。その際に森人族の神は異界の怪物に飲み込まれ、その影響なのか、全ての森人族が闇に堕ちて変質し、闇森人となってしまった。その異界の怪物がアゼルヴェードで、彼と彼が率いる闇森人達は周囲の種族領域を征服し、その種族が崇める神を精霊石に封じ、力のある者にその石を埋め込んで自分達の手駒とした。


「ゴルドルは一族の戦士長で、オレを助けようと闇森人の軍に一人で突っ込んで捕えられた。それで奴らの手駒にされて、多くの一族の者がゴルドルに殺されてしまった。それで今までは闇森人の管理下で細々と暮らすしかなかったんだ。まあオレが目覚めたからには黙って言いなりになるつもりはないがね。」


「奴等の目的は分かるか?」


「森人族の神を取り込んだり、ゴルドルの様に人と動物をくっつけたりしてる。アゼルヴェードには生物と生物を掛け合わせる力があるのかも知れねえな。それと、奴は各地の女を孕ませて子を増やしているそうだ。その辺りに奴の目的に繋がる手掛かりがあるんじゃねえか。他の種族が持っている情報とも付き合わせてみる必要があるな。」


それから数日は巨人族の村に滞在し、今後の闇森人への対応を話し合った。それからジュード達は、未だに闇森人の侵攻を退けている龍人族の領域へ向かう事にした。ゴードの指示でゴルバが引き続き同行してくれる事になった。

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