第89話 不安を抱えて

神帝アゼルヴェードがこの大陸へ来てから1年が経過し、多くの国を征服した今、マリリアがやるべき事といえば早く神帝アゼルヴェードの子を身籠る事だった。政務などは闇森人達がやってくれる。身の回りの事も侍女達の役割だった。イェリアナは既に妊娠している。シルリラも妊娠の兆しが現れたそうだ。マリリアは焦っていた。


神帝は夜に時間があれば寝室に訪れてくれる。神帝は、昼は人の姿だが、夜になると大きく黒い粘液状の姿で、体表には幾つもの触手があり、表面は滑りのある液体に包まれている。最初に見た時は驚いたが、今はその姿を見ると愛おしく感じる。


神帝に出会ってから、そして妃となってからも、神帝は3人を同じ様に愛してくれていた筈だ。特に初めの頃は常に3人が共に行動していたので、夜の営みも3人同時だった。それなのに自分だけが妊娠していない。体質のせいか、聖者の紋章のせいか、あるいは時折思い出すあの男、ジュードが気になっているせいか。あの男は自分が止めを刺した筈だ。なぜ今頃になって。


神帝は最近では王宮の侍女達と閨を共にする事があり、その時はマリリアの寝室には来ない事が多い。王宮の侍女達は完全に隔離され、王宮の外と連絡を取る事が禁じられている。神帝の秘密が外に漏れる事はないだろう。侍女達は、神帝と数回も交われば大抵は気が狂って地下牢送りになるが、もしかすると神帝の子を身籠る者が出てくるかも知れない。


このまま身籠る事が出来なければ神帝は自分をどうするだろうか。不安を抱え、ベッドの上に座りながら、マリリアは寝室のドアが開くのを待った。



第六部 完

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