第六部

第75話 異形の者

ジョルジア王国から北方のハルザンド王国へと抜ける街道を2騎の人馬と1台の馬車が急いでいた。2騎はジュードとクリス、馬車の御者台にはガイ、中にはマリリア、イェリアナ、シルリラ、フレミアの4人が座っていた。整備された街道とはいえ、馬車はかなり揺れる。馬車の中の4人は辛そうにしているが、誰も文句を言わない。その他の3人も馬に掛け声をかける以外は一言も発しなかった。彼等は少しでも早くハルザンドの王都へ到着したかった。


「ハルザンド王国から救援要請が来ました。救援部隊の編成を急がせますが、ジュード殿にはハルザンドへ先行して頂きたい。」


そうジョルジアのマルス王から要請されて翌日にはジュードはハルザンドへ向けて出立していた。当然ながらハルザンドの王女であるイェリアナはついて来たが、イェリアナの横で話を聞いていたマリリアとシルリラも同行した。ハルザンド程の国が隣国とはいえ小国でしかないジョルジアに救援要請を出すという事は、それだけ急ぐのか、それともジュードでなければダメなのか、いずれにせよ尋常ならざる事態に陥っている可能性がある。それ故にジュード達は先を急いだ。


ハルザンドの西は西方諸国群、南はアルムヘイグとジョルジア、東はライドル共和国があり、北は海となっている。国土の多くは砂漠地帯で、ハルザンドとジョルジアとを結ぶ街道はあるものの、部分的に砂に埋もれてしまう事も多く、馬車の移動は適さない。本来は馬の移動も適さないのだが、餌場と水場だけは一定距離毎にあり、無理をすれば王都まで早く辿り着けると思われた。


「俺とイェリアナはこのまま馬で王都に向かう。他の者は砂漠向けの移動手段を確保してから後を追ってくれ。」


ーーーーーーーーーー


国境を抜けた最初の街でジュードは皆にそう伝え、小休憩の後、イェリアナを伴って王都へと馬を駆った。ジュードがハルザンドの王都に到着したのはそれから2日後だった。王都は表面上は普段と変わりないように見えたが、王宮の中は随分と慌ただしい雰囲気に包まれていた。ジュードとイェリアナはその中を通ってイェルシアの寝室へと通された。


「来てくれてありがとうジーク、いえ、今はジュードだったわね。若い頃のジークの面影がある、会えて嬉しいわ。」


「久しぶりだな、イェルシア。遅くなってすまない。」


「お祖母様、お身体は大丈夫でしょうか?」


「大丈夫じゃないけど、今はやるべき事があるわ。早速、状況を説明しましょう。」


イェリアナの父でありイェルシアの息子でもあるイェガス王とその側近も寝室に入って来た。部屋の壁にはハルザンドの主だった都市と街道が描かれた地図が掛けられ、それには部隊を表すピンが突き刺さっている。その地図を使いながら側近が説明を始めた。


事の起こりはハルザンド北部の港町だった。この港は漁業と、西方や東方の国々と海上貿易する為のもので、規模は大きくない。海の近くまで砂漠が迫り、海岸線の狭い地域に商店と倉庫と住宅が密集している。そこに所属不明の軍艦が現れ、多くの兵士が街に上陸した。港町の守備兵は始め抗戦したが、敵にそれほど被害を与えられぬままに壊滅した。それでも時間稼ぎは出来たようで、僅かながら街の住人が内陸部へと逃げる事が出来た。それが1ヶ月ほど前の出来事だった。


逃げた住民からの知らせを受けたハルザンド国軍はすぐさま迎撃体制を整え、先ずは偵察隊を港町に向けて出発させた。偵察隊は闇夜に紛れて砂漠を進み、港町の数箇所から潜入した。そして偵察隊は見た。殺害された住民の死骸の山と、雑多な種族が混在した多数の兵と、その兵に指示する一際大きな異形の者達を。その異形の者達は、ある者は人間の体に牛の頭と足を持ち、ある者は鳥の羽と足を持ち、またある者は女性の姿だが腹部から下が大蛇、いずれも人とは異なる未知の生物だった。

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