第64話 神装具
スーベニアに大聖堂に到着したが、ミリアの出迎えはなく、その後に通された部屋のベッドの上に彼女の姿はあった。ミリアは目を閉じていたが、暫くすると目を開き、弱々しい声で話し始めた。
「ジュードを待っていました、お迎え出来ずにごめんなさい。」
「構わない。それよりどこか悪いのか?」
「寿命です。この頃は立って歩くのが辛くなって来ました。もう時間が限られています。さっそく話し合いを始めましょう。ミケさん達も同席して下さい。」
「僕達が? わかった、同席するよ。」
ジュードはイェリアナとシルリラを簡単に紹介してからベッドの横に準備された椅子に着席した。ミケ達3匹も近くで浮いている。ミリアは事前に天啓を得ていた様で、その内容から話し始めた。
「皆さんの予想通り、また魔神の時の様な厄災がこの世界に訪れます。それも私達の知らない世界の存在によって。そしてそれに立ち向かえるのは特別な力を持った人間、つまり紋章を持つあなた達です。それが隠者の力で得られた天啓です。」
「また魔神が下界の支配を目論んでいるのだろうか。」
「違うと思います。今では私の様にカイン様が広めた魔術を学ぶ者が多くいます。今更魔神が下界の支配を目論む理由はない筈です。」
「シルリラさんの言う通りでしょう。天啓では、私達の知らぬ世界の存在、とされています、魔神を指すとは思えません。」
「では何者が厄災をもたらすのか?」
「それは分かりません。時期も分かりません。既にこの世界に現れているのかも知れません。確かなのは紋章を持つ者達が立ち向かわねばならないと言う事だけです。」
「もし魔神の様な存在だとしたら、勇者じゃないと倒せないと言う事ですよね? 私達に出来る事はないのかしら? ミケはどう思う?」
「魔神も含めて神々は神性を帯びているから普通の攻撃は通じないよ。それと同じなら勇者じゃないと倒せないだろうね。」
「いえ、必ずしもそうだとは限りません。私達には神装具があります。神装具があれば勇者でなくとも打ち払えるかも知れません。」
「神装具とは何だ?」
「魔神が去って以降に統一教が作り始めた武具です。それを私達は神装具と呼んでいます。統一教の初期に編纂された古い文献には、かつてこの世界に平和を齎した神は神装具という道具を使っていたそうです。その名前を拝借しました。ですが今ある神装具は未だ使えません。ミケさん達がいれば使える様になると考えています。」
「えっ、僕達かい? 僕達は実体が無いんだけど。」
「そうです。でも依代があれば何とかなりますよね? かつて魔神は依代を得てこの世界に顕現し、その依代は神性を帯びていました。もともと神界にいる精霊であるミケさん達が依代として神装具に宿れば、神性を帯びた相手にも通じるのではないでしょうか。」
「それが神装具だというのかな? やってみないと分からないなぁ。それに依代はどこにあるの?」
「依代は...もう準備してます。」
ミリアはそこまで話して目を閉じた。苦しそうに息をしている。そのミリアに代わって同席していた神官が話を続けた。神官の後ろにいる3人の従者の手にはそれぞれ片刃の大剣、長い古木の杖、それと大弓があった。
「こちらが神装具になります。剛者は大剣を、賢者は杖を、聖者は弓をお使い下さい。」
一見しただけでは材質が分からなかったが、スーベニアの神官達が長い長い年月を掛けて祈りを捧げてきた鉱石と神樹で作ったのだと説明された。これほどの物が直ぐに出来上がる筈はない。スーベニアの統一教は、50年前の魔神の戦いが終わった後に、人々が平和を謳歌している間に、次の戦いに向けて準備をしていたのだ。
「これが神装具? もしかして魔神の依代みたいに生贄が必要だなんて言いませんよね?」
「特別な素材を使って作られていますので、魔神の依代が作られた時の様な生贄は必要ありません。これらは既に完成しています。ただ、ミリア様が何度も試されましたが、紋章の力だけでは使えませんでした。そこで紋章の精霊様の出番です。紋章の力と精霊の力を合わせれば、神装具が本来の力を発揮すると考えています。」
神官の従者がマリリア達の前に進む。イェリアナは片刃の大剣を、シルリラは古木の杖、マリリアは大弓を手に取った。3人はその重厚な造りの神装具を眺めていたが、大弓を持ったマリリアが紋章を光らせながら一歩前に出た言った。
「試してみましょう。ミケ、お願い。」
「任せろ。」
マリリアに向かって飛び込んだミケの体が大弓に吸収され、大弓とそれを持つマリリアが光り始める。その姿は勇者が光の鎧や盾を纏った姿に酷似していた。その姿に感動したのか、神官やその従者が跪き、涙を流しながらマリリアに祈りを捧げる。おそらく彼らは神装具の製作に人生の多くを費やしてきたのだろう。しかしマリリアが光るその時間は僅かだった。暫くすると大弓からミケが弾き出され、マリリアを包む光は消えた。
「こりゃぁ、慣れが必要だなぁ〜」
「そうね。でもやれそう。慣れるまで頑張りましょう。」
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