第28話 ジョルジアの復興

ジョルジア王都の近くを通る街道では多くの人々が行き交っていた。王都に立ち寄る者も多く、商店には物が溢れ、宿屋や酒場は毎日賑わっている。かつて前王の治世には貧困に喘いでいた国民が今では陽気に笑っていた。


ジーク達は旧帝国から得た賠償金を元手に東西南北の街道を整備し、一定距離に宿泊所や休憩所を設け、街道専門の警備兵を配置した。ジョルジアは狭く山がちであるが、地理的にはアルムヘイグ・ハルザンド・旧帝国地域といった主要な国々と接している。そこでジーク達は周囲の国々をつなぐ安全で利便性の高い街道を提供し、ジョルジアを経由する交易を大幅に拡大させた。交易拡大による恩恵はジョルジアを豊かにし、得られた富により街や村は再建され、荒地は畑作地帯へと姿を変え、他国へ避難していた民が戻って来ていた。


マルグリットは政務に積極的に参加した。彼女としては少しでも母国復興を早めたかっただろうし、現実問題としてジョルジアには人材が不足していた。公爵令嬢であった彼女の知識や人脈は安定した政務遂行に欠かせなかった。


イェルシアは、結局は彼女が望んだ通りジークの第三王妃に収まった。マルグリットとシンシアが協力した結果だった。但しイェルシアにはハルザンド王国の宰相補佐としての役目があり、通い婚となった。通い婚はこの大陸の貴族間の婚姻では稀に見られ、通常は夫が妻の元に通うのだが、イェルシアの場合は彼女がジークの元に通った。


シンシアは王妃になってもあまり変わらなかった。家族の食事を作り続け、毎朝の聖者の祈りを欠かさず、ジークの側にいる時は優しく微笑んでいた。マルグリットやイェルシアの事も常に気にかけ、二人もシンシアを頼る事が少なくなかった。


ーーーーーーーーーー


そして帝国との戦争から10年が過ぎた...


ジークは40歳を過ぎていた。


ジークはマルグリットやイェルシアとの間にも子を設け、マルグリットとの間に産まれた長男を皇太子とした。イェルシアとの子はハルザンドで暮らしていた。シンシアとの間の子供達は成人し、息子は貴族家として独立させ、娘はアルムヘイグの貴族へ輿入れさせた。それが王妃3人で話し合った結果で、ジークはそれに従っただけだった。


ジークのシンシアへの愛情は今でも変わりはない。ジークは最も多くの時間を共に過ごしてきたシンシアを大切にしていたし、マルグリットやイェルシアもそれを良しとしてくれていた。ジークとシンシアだけだった関係に後から入り込んでしまった負目が二人にはあるのかも知れない。マルグリットはジョルジアの、イェルシアはハルザンドの政務を理由に、ジークとの時間をシンシアへ譲る事がしばしばあった。


その日もジークはシンシアだけを伴い新しく開拓した畑作地帯の視察に来ていた。今年できたばかりの麦畑にはもう青々とした麦穂が並んでいる。その麦穂を揺らしながら吹き抜けていく風を全身で感じながら、ジークはかつてシンシアと共に眺めた故郷の風景を思い出していた。


ジークとシンシアは肩を寄せ合い、いつまでも麦畑を眺めていた。



第二部 完

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